1% チュートリアル(1)
周囲の探索を終え、俺はあの時の泉の前に戻っていた。人の気配はなく、特に生き物がいる気配もない。
とりあえず今の俺の状況を整理してみた。
『まず第一に、俺はアルマ種という魔物?になっている!』
どうやらこれは種族らしい。
何度か脳内に浮かぶ文字で遊んでいると、≪魔物図鑑≫なる進捗を見つけた。そこの欄の一つに載っていたのがアルマ種というわけだ。
因みに当然だが、アルマ以外の項目は全て
【???】
という項目で埋まっていた。その横には脅威度なる項目もあるが、そこも同様に
【???】
と...隠されていた。
因みに俺、アルマ種の危険度?脅威度?ランクはこれ。
ピロッ!
【アルマ ランク測定不能】
決してヤバいとかじゃなく、最低ランクのFの下!!
強さの値が測れないレベルの種族に贈られる、名誉ある称号らしい!ある意味ヤバい...!!
まぁ、つまり、俺は強さランキング的にはスライム以下と思えばいいってことか?
因みに魔物のレベル?クラス?に応じてランクが変動するみたいだが、アルマはこれが上限みたいだ。
『ひでぇな......まったく』
どうすれば強くなれるか?
その答えは既に手に入れていた。そう、このスキルだ!
【憑依】...!!
この名前だけでゲーマーなら察しがつく。そうだろ?まぁ、どうせすぐに使うことになるだろうから、その時に詳しく確認しよう。
『第二に!マップは自分で歩くか情報を集めないといけない!!怠い!楽しい!あぁ!!』
ゲームがリアルに忠実で、自分で歩くとそれがマップとして脳内?に記録される。
どこがどうなっているのか、どこの通路かを鮮明に思い出せるわけだ。
どうやらこれは攻略者?称号?で貰えるスキルである、
【オートマップ】
による能力らしい。非常に助かる。
しかし問題が一つある。このマップ自体は平面図のような状態でイメージが浮かぶせいか、階層の概念がごちゃついて仕方がない!!
ただマップ自体の記憶もあるから、基本的には写真を取り出す感じで思い出して進むことになる。現実とあんまりかわんねぇな?
【ターゲットフォーカスLv.1】
次に二つ目の攻略者の付属スキルは、いわゆる注目、ロックオンの機能と予想する。
決してゴミ機能なんかじゃ無い。Z注目縛りをした人は分かるが神機能だ。ありがたい。
コイツはそれだけじゃない!まだ埋まっていない、真っ黒なマップの外まで捕捉できる可能性がある。なんか知らんけど、レベルが設定されているからな!
一定の範囲で効果が途切れるのか、レベルによってその範囲が広がるのか、これも要検証だな。どうやってレベル上げるのかも分からねぇし。
『第三に!目的は明確だ!!』
メニュー欄になんと!進捗度がある!!
メニューといったが目に見える訳じゃない。今は目はないが、目を瞑るイメージをすると、黒い視界にぼや〜と青い光でそれが表示される。
目を開けている時は脳内にそのイメージが鮮明に浮かんでいる状態だ。
『正直、混乱するんだよな〜これ』
そこに現れるのは、例えば魔物図鑑のような一覧やマップ、装備しているアイテムやステータスなどの情報なんかだな。
肝心の進捗にはパーセンテージがあり、全体的なものと個別のもので表示がされている。
一つは魔物図鑑の進捗。
一つはマップの進捗。
一つは歴史の進捗。
合計三つの進捗で、それを合算させて全体の進捗にしているらしい。
ややこしいことに歴史の進捗は、更に細かい進捗があって、そのほとんどの項目は≪???≫みたいな感じで隠されていた。
ストーリー的な進捗はこれといって存在せず、もしかしたら歴史の進捗がそれにあたるのかもしれない。
『鑑定みたいな便利スキルは今のところ無いんだよな〜』
現状での判断でしか無いけどな?
ゲームならありがちな、相手の情報を探るスキルは恐らく今は持って無い。
自分の体感や手に入れた情報でしばらくは戦えというコトらしい。
『いや?憑依スキルがその代わりか?』
なるほど、面白い!ゲームはそうでなくちゃな!!
大体、今の有様はなんだ?なんでもかんでも攻略情報、攻略方法!自分で探せよ!
いや、それを管理している俺がいうことじゃないけどさ?だけど、初見はせめて情報縛れよ!初見は一回きりなんだぞ??
これが管理人としての本音だ。
まぁ別にいいけどさ。PV増えるし。給料増えるし。貯まる一方なんだけどさ?
魔物のステータスは憑依で鑑定できる可能性が出てきたが、アイテムを鑑定するのはどうするのかは後々考えよう。
『とりあえず、今はこんなもんかな〜』
以上が今できる限りでまとめた情報だ。
時間にしてどれくらいだろう?体感数分程度だが、月はあの時よりも僅かに傾いていた。
マジででかい。この星、重力とかどうなってるん?
明らかに地球ではなかった。常に浮いているこの体では、それも感じ取ることは出来ない。
てかここどこ??何座の何星なん??正直、そんなことはどうでも良かった。
とりあえずこの場所を離れて、ウロウロと捜索してみようと思う。
『ああ〜いいねぇ!この初々しさ!やっぱり最高だねぇ〜!!昂るねぇ!!』
思いっきりそう呟いたが、辺りは静かな風の音だけ。
そんな幻想的とも言える異世界に、俺は忘れかけていた感覚を思い出した。
いったいどんな難関や敵が待ち構えるのか?
この世界はなんなのか?
てか、どうすれば帰れんの?
ゲームクリアの条件は?
え?コンテニューとか無いの?
進捗を全部埋めないと帰れない?
マジかー!まぁ全然いいや!
少なくとも、ただ見てるだけで終わるゲームよりもずっとマシだった。
ピロッ!
【巡りの森】
ふわふわと散策していると、唐突にマップの名前が表示された。
それまで脳内の平面マップの右上に、≪???≫という謎の欄があったが、ようやくその謎が埋まった。
とりあえず、ここは巡りの森という場所らしい。そうマップに表示されているからそうなのだろう!
全体マップにしてここは一番北、山?のような感じの場所で、その頂点がこの森らしい。
そのほかの場所はすべて真っ黒で埋まってる。
ちなみに壁のすり抜けは出来るが、視界がすべて土で埋まった。
とあるゲームのスペクターモードのように、鮮明に透明になる訳じゃないらしい。洞窟とかそんなのも一切見えない。
水の中にいるみたいで方向感覚がないから、下手をすれば土の中にいる状態で詰む可能性もあるって訳だ。
遊び半分で埋まってずっと土とか嫌だからな。これは最後の切り札として置いておこう。
ふらふらと彷徨うと、なんかいた。
『でっかい......クモ?』
蜘蛛だ。その割にはデカイ。脚を入れると大体小さいバランスボールサイズで、空色の独特な模様が毒々しくも美しい。
爽やかなアイスクリームみたいなデザインだ。
どうやら名前は≪憑依≫しなくても、出会えば見れるらしい。
最低限の敵情報だが、名前でネタがバレるコトはザルだ。
例えばエレキ〇〇とかポイズン〇〇とかな!だが、この世界はどうだろう?
『流石に!はは、そーんな甘くは......』
ピロッ!!
≪フロートスタルタス 脅威度F≫
......どうやら浮くらしい。
おいおいおい!!名前バレはダメでしょ?もうどんな攻撃してくるかわかっちゃったよ?
『どーせ、あれだろ〜...??』
俺がそんな目で見ていると、目の前にいる蜘蛛が突如として上に浮かんだ!!
いや、正確には空中をまるで階段があるかのようにぴょんぴょんと歩いていた!!
そして、俺を潰そうとすべく!奴は上から落ちてきた!!案外ゆっくりと!!
『そうなるよね〜知ってた!』
俺はそれをヒラリと身をかわし、一歩引いた場所でそれを見ていた。すると、ぽとっ!とでも言わんばかりに綺麗に着地するフロートスタルタス。
ふっ、雑魚め。しかし、俺は奴に対して攻撃のしようがない......それ以下のド雑魚!!
このアルマ種は物理攻撃を完全無効にする代わりに、物理攻撃を与えられないという等価交換をしている。
それは種としてどうなん??
『そうだ!魔法は...ないねーないよねー』
フロートスタルタス、その蜘蛛はこうしている間にも健気に浮いては落ちて攻撃するが、全てすり抜ける。
流石に学んだのか、それとも疲れたのか、背中を見せてトコトコと帰っていった。
『諦めたよ...アイツ。いや、俺も半ば諦めてるよ!』
どうやらこの状態では、漁夫の利で死骸、いや、器をハイエナしないといけないようだ。
因みに俺は普通に半透明だけど奴等にも見えるらしい。
木やそこら辺の名前のない虫に憑依しようとしたが、どうやら無理。いや、入れるけど、しばらくすると追い出される。
これは元々、他のアルマ種的なモノが中に入っていて、それらの許可を得て混ざるか、もしくは支配できるレベルにないといけないと予想した。
つまり、周辺の木々もある種彼らの器ということだろう。
特に木はレベルが高いのか、理由は不明だがすぐに追い出される。
その辺を飛んでる変な虫?みたいなのは数秒持つがダメ!俺の意思とは正反対に動きやがる。まぁ、当然だ。居候に口出しする権利はない!
やはり、魂のない器じゃないと自分の思った通りには動けない。
ふと気になったことがある。
『これ...“ゲームオーバー”ってあるのか?』
いくら体験版?のゲーム?でも当然負けるし、ゲームオーバー......というか体験版が終了する。
仮に俺がこのゲームのベータ版に選ばれたのなら、ゲームオーバーの瞬間にこんなアナウンスが入るだろう。
≪体験版はここまでです魔王さん≫とな?
そんな感じで次に回るのではないか?
ん?...よく考えればこの状況...不死だと思っていたがヤバくね?
どういうことか?簡単だよ。
高速道路のど真ん中で、生身の人間が突っ立ってるのを想像してくれ。
ヤバいだろ?
車が来ないから安全だーなんてのは馬鹿の戯言。そんなのいつまでも続かない。
この状態でいられる、制限時間ってのがあるんじゃねぇの!?
『だとしたら...マズいな?早いこと車が欲しいぞ...!!』
乗り物が魔物だとするなら人は俺。
まだ...情報が少なすぎるな......。
とりあえずこのマップ、巡りの森から脱出する方法を...。
「レツゥア!アルマ!」
突然、大声が静かな森の中で響いた。その声に思わずビクっと反応する。いや、そんな体はないけどさ。
周囲を見ても人はいない。だが、近所で吠えてる番犬のように、確かに声が響いて聞こえる。
声質はおっさんだ。間違いなくおっさんだ!
言語は分からない。ハッキリ分かるのは、アルマ種を見つけた的な意味だということ。
敵意丸出しの声色でわかる。明らかに穏やかじゃない......!!
レツゥアは発見とか見つけるとかだろうか?どんな言語ともつかない。どこの国の言葉だ?このゲーム独自の言語か?
『まさか......言語も読み解けと?』
ぴろっ!
あの声みたいなSEが鳴る...。
脳裏に......なんか、何かの進捗度のイメージが浮かんできたぞ?
これは......言語の.....進捗...度?
『嫌な予感がするぞ......??』
【パンパカパーン!隠された『言語の進捗度』を発見しましたよぉ!】
うぉ!?脅かすな!!な、なんだ!?
再び声だ。今度は元気だが幸薄そうな若い女性の声だった。SEの間抜けなぴろっ!の声と同じ声優だろう。
そしてまた気の抜けた口調で語り出したのは、お粗末なファンファーレと進捗の発見の報告だった。
いや、どんなゲームにもレベルアップ的なSEや勝利のファンファーレ、それに付随するトロフィーの獲得音とかはあるが。
『これは......』
いくらなんでも手抜きすぎんか?いや、作れよ!まんま声じゃねぇか!!いや待て!逆に声優起用のこだわりか?有りだな...!?
隠し実績にすら専用のボイスがあるということは、作り込みはいい......のか?
ゲームの作り込みを判断する材料として、俺はキャラのパンツを覗く。
言ってしまえば作らなくてもいい無駄だ。しかし!そこまで作り込んであれば、そのゲームはそこに労力を割く余裕があるという証明になる!
更にキャラに沿って柄や形状があればなおグッド!それは約束された神ゲーとなる。
だが!作られていないから駄作と言うわけでもない。当然、レーティングと言うものがある。
この場合の判断はフェチズムを感じるか否かだ!脚をみろ!服をみろ!顔か?髪か?胸か?腋か??生足を黒で塗ればセーフ?否!!隠しきれないエロスを作るクリエイターこそ、本物の変態紳士だ!!ああ、素晴らしい!!
これはフィギュアにも当てはまる法則で、プライズフィギュアで紐パンを確認した時は感動したものだ。
...また脱線した。しかし、当たったよ!俺の嫌な予想が当たっちゃったよ〜!!
『言語の進捗とかどんなゲームだよ!!』
思わず悲鳴のような声が...でない。
まさか、そんなことになるなんて思わなかった。絶対に不評だぞこの進捗というか、システムというか......。
とりあえずまぁいい、今はそれどころじゃない!!
そう、優先するべきは声の主の特定だ。気の抜けたSEの声じゃない!
こっちから聞こえる、おっさんみたいな声だ!!
!!
その声の元にふわふわと近づいていく。そこには確かに人がいた。
僧侶?みたいな格好。いかにも聖職者みたいなね?でも、かなりの重装備だ。人数は五人程度か?
奥には我が同胞≪アルマ種≫の姿!
色とりどりの大小様々な光が、蛍のようにふわふわと舞っていた。とても綺麗な光景だった。
『何を...?...!!』
その聖職隊は謎の光る模様を浮かべていた。
魔法か!?恐らく、恐らくだが、これがこの世界の魔法だろう。
俺は木の影に隠れてその様子を見ていた。
ブゥンッッ!!そんな音が鳴り響いた後、激しい光と共に現れたのは六角形と三角の模様だった。
魔法が発動した!?
そしてその次の瞬間!白い槍のような光がその模様を取り込むようにして現れると、バチバチと激しい音を立て、アルマの元へと勢いを増して飛んでいく!!
槍が一匹のアルマに当たる!シュワ......と、溶けるように霧散したアルマ、俺はその光景に戦慄する。
ブゥンッ!ブゥンッ!!次々と発動する魔法は、アルマたちを片っ端から葬り去っていた。いや、正確には消しても消しても湧いてくるのだが......しかし分かる。
これが、”俺のゲームオーバー”だ。
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