【完結】メイドの私はジャスティン王子が大好き!(作品240129)

菊池昭仁

メイドの私はジャスティン王子が大好き!

第1話

 「アンタさあ、それでもこの由緒あるアキバ王国の王様、ロン16世なの?

 どうしてピーマン残すかなあ! お子ちゃまかっつうの!」



 王宮のダイニングルームはベルサイユ宮殿の鏡の間のように広く、ダイニングテーブルの長さは25メートルもあり、食事の会話は拡声器で行われていた。



 「しょうがないじゃないか、この味が嫌いなんだよ、青臭くて苦いし・・・」



 ロン16世はピーマンが苦手だった。

 王様はフォークでピーマンを転がしながら、ため息を吐いた。



 「ねえシーナ、ピーマン、残しちゃダメ?」


 シーナ王妃は不敵な笑みを浮かべた。


 「いいわよ、残しても」

 「ホントにいいの? 残しても? 良かったー!」


 するとシーナ妃は25メートルも離れているダイニングテーブルの上を猛ダッシュして、ロン16世の前でヤンキー座りをすると、


 「そんなこと言うわけねえだろう! タコ! おいコラ、焼き入れられてえんか! 食え、早く食えって言ってんだよ! ボケッ!」



 シーナ王妃は元ヤンであった。

 レディース『関東美女連合』の総長だった人である。

 嫌がるロン16世を羽交い絞めにして、無理矢理口にピーマンを押し込んだ。


 「うぐ うぐぐぐぐ」

 「ほら呑み込め! 早く呑み込めよ! ほら、何やってんだコラ!

 お前それでも王様かっつうの!」


 ロン16世は涙目になりながら、ピーマンを必死で呑み込んだ。


 (おのれ総料理長のアランめ! 世がピーマンを嫌いなことを知っていながら!)


 だがそれはシーナ妃からのオーダーだった。


 「アラン、あの人にピーマンを出してちょうだい。

 最近、お肉ばかり食べているから」

 「でも王様はピーマンが・・・」

 「大丈夫、私が必ず食べさせるから」

 「シーナ様がそう仰るのなら・・・」

 「お願いね?」

 「かしこまりました」


 シーナ妃は王様の健康を気遣っていたのだ。




 「やれば出来るじゃねえか!」


 シーナ妃は王様の頬をやさしく撫でた。


 「シーナ、ボク、頑張ったよね?」

 「いい子、いい子、それでこそロン16世よ、アキバ王国の王様よ」


 

 でもどうしてそんなレディースの総長だったシーナとロン16世が結婚したのかというと・・・。


 ある日、アキバ王国を流れるエメラルド川の河川敷で、『関東美女連合』の集会が開かれていた。

 その時、ひときわ美しい総長が今の妃、シーナだった。


 そこをまだ王子だったロン16世がたまたまそこを通り掛かった。


 「美しい! なんと美しい女だ! 爺、世はあんな女とバッコンバッコンしてみたいぞよ、すぐにここへ呼んで参れ!」

 「バカ王子、いえ王子様、あの女は王国でも札付きのヤンキーですぞ、あんなあばずれ女など相手にせず、デリヘル『今すぐニャンニャン』のローラ様を今宵のお夜伽にされた方が良いですぞ! ダメダメ、あんなヤンキー、あんな下品な女はお辞め下され。

 爺が王様から叱られてしまいますゆえ」

 「イヤじゃイヤじゃ! 世はあのヤンキーが好きなの! いいから早く連れて参れ!」

 「ホントにバカ王子なんだから」

 「爺、今、なんと申した?」

 「いえいえ、なんでもございません。

 仕方がありませんなあ、おい侍従長、あのヤンキー女をここへ連れて参れ」


 侍従長のロンメルは、親衛隊長のゴンザレスにそれを命じた。丸投げである。

 するとゴンザレスは、


 「えっー、ヤダなあ俺、あんなコワそうなヤンキー」

 「つべこべ言わず、さっさと行け!」


 侍従長のロンメルは苛立っていた。

 なぜなら早くお城に帰って、冷蔵庫に冷やしておいた2,980都円とえんもした、シャインマスカットが誰かに食べられていやしないかと、気が気ではなかったからだ。


 (この前のプリンも「ロンメルの!」と書いておいたにも関わらず、食べられてしまっていたからな! 一刻も早く城に帰りたい! ウンコもしたいし!)


 ゴンザレスは舌打ちをした。


 「だったらお前が行けばいいだろう? なんでも俺たちに命令ばかりしてねえで自分でやれよ」



 仕方なく恐る恐る集会の輪の中に入って行くゴンザレス。



 「あのー、ウチのバカ王子、いえ、王子様があなたと・・・」

 「なんじゃコラ! お前誰だ?」

 「アタイたちに一体何の用だい?」

 「怖っ、アキバ王国親衛隊長、ゴンザレスと申します」

 「そんなお前が何のようじゃい!」


 レディースのメンバーが騒ぎ始めた。



 「うちのバカ王子がアンタんとこの総長さんとお付き合いがしたいそうです!」


 すると総長が口を開いた。


 「イヤだよ、あの短足チビのデブ、アタイのタイプじゃないね」

 「そこを何とかお願いしますよー。

 会ってくれるだけでいいんです、会ってくれるだけで」

 「イヤだね」


 するとゴンザレスは超人気アイドルグループ『暴風雨』のクリアファイルを差し出した。


 「もし会ってくれたなら、この『暴風雨』のクリアファイルをあげるからさあ」


 総長のシーナは『暴風雨』の大、大ファンだった。

 『暴風雨』のクリアファイルをゴンザレスから奪い取ると、それを抱き締め、


 「始めからそう言えよ、他に何かねえのか? 『暴風雨』のコンサートチケットとか?」

 「城に行けば筆箱とか団扇、写真集とかもありますけど・・・」

 「なら行く、城に行く!」



 それがシーナ王妃とロン16世の出会いだった。


 そのシーナ王妃にはキャンディという妹がおり、王様のメイドをしていた。

 キャンディはアキバ王国で一番のアイドルだった。

 王妃の妹なのになんでメイドなんかしているかって? それは王様のロン16世の要望だったからだ。


 「キャンディ、君は何もせんでええから、このかわゆいメイド服を着て、世の傍におってくれ」  


 キャンディーはアキバ王国のアイスクリーム店、『サーティ・サーティ』で店長を務めたこともある、アイドル

 店長だった。

 そんなキャンディにロン16世はメロメロだった。いわゆる変態ロリコン・キングである。


 「なあキャンディ、どや、ワシの愛人にならへんか? エルメスのバーキン、買うちゃるで」


 ロン16世はエロモードになると、なぜか凶本興業のお笑い芸人のような言葉になってしまうのだった。

 凶本興業の芸人は女好きが多い。

 


 「王様、どうして女の子の前ではウエスト弁なの?」

 「なぜかそうなってしまうんや、なあ、キャンディ、頼む、一回でええんや。

 シーナとはもうずーっとご無沙汰やさかい」


 ロン16世は涙声になっていた。


 「そんなに溜まってるなら風俗にでも行けばどうです? テヘペロ」

 「ああ、たまらん、その笑顔。

 じゃあさじゃあさ、ハロッズのデパートごと買っちるけん、それでどや!」

 「それをお姉ちゃんに言ってみたらどうですか? やらせてくれるかもしれませんよ」

 「もうええんじゃ、シーナは乳も垂れてるし、お腹もぶよぶよじゃからのう。あれではとてもチンコが立たへんのや」


 王様の背後からシーナの声が聞こえた。



 「誰のこと言ってるのかしら? 垂れ乳でお腹ぶよぶよって誰の事? 

 王様?」

 「シ、シーナ! やだなあもう、びっくりさせないでくれよ。

 ほら、あの王室食堂のオバちゃんのことだよ、あは あはははは」

 「ちょっとおいで、二度と笑えないようにしてあげるから」


 そのまま王様はシーナ妃に引き摺られて行ってしまった。


 「た、助けてキャンディー!」

 「どうして男の人ってそんなことばかり考えているのかしら?

 バッカみたい」


 キャンディは、さわやかイケメンのジャスティン王子に恋をしていた。


 シーナ妃とロン16世の間にはなかなか子宝に恵まれず、隣のハーバー王国から養子を招き入れたのだった。


 「ああ、私のジャスティン様・・・」



 キャンディはうっとりとした表情になり、深い溜息を吐いた。


 王宮の窓からは午後の光が差し込んで、キュートなキャンディをやさしく包み込んでいた。




第2話

 「さあてと、今頃いとしのジャスティン様はどこで何をしているのかしら?

 覗いちゃおーっと」


 キャンディは魔法のコンパクトを取り出した。


 「こう見えても私、1級魔法士なのよねー。

 ラミパスラミパスルルルルルー、あれ? 間違えちゃった。それは『ひみつのアッコちゃん』だったっけ。

 テクマクマヤコンテクマクマヤコン、あれれ、これも違うわねえ。

 なんだっけ? ほら、あのお菓子のやつ。

 ああ、思い出した思い出した。



    「ラッキーポッキーウイスキー! 王子様の姿を映して頂戴!」



 するとあら不思議、コンパクトに王子の姿が映し出されたではあ~りませんか!



 「きゃー、なんてかっこいいのー! やだやだ、どうしよう! もう最高! ジャスティン様大好きー! 

 私のジャスティンさまーっ!」


 キャンディは大はしゃぎである。



 「あれれ、何? この王子様の隣にいるオバサン? ちょっと何! 王子と腕なんか組んじゃって! 

 ちょっとオバサン! 私の王子様に馴れ馴れしく触らないでよ!

 離れなさいよー! 王子が嫌がってるじゃないの!

 あらやだ、王子もなんだか楽しそう!

 よーし邪魔しちゃえ! ええとええと、呪いの呪文はなんだっけ?

 アーン、忘れちゃった!

 いいわ、こうなったら直接邪魔しに行ってやるから! 

 空飛ぶ箒、箒、あれ、どこに行っちゃったの私の空飛ぶ魔法の箒!。

 プリウスー! プリウスー!」


 するとハイブリッド箒、プリウスがやって来た。


 「はーい、お呼びですかキャンディ様?」

 「遅いっ! いつも私の半径4メートル以内にいなさいって言ったわよね!」

 「すみません、下の駐車場でNボックスちゃんといちゃついていたもので。えへっ」

 「バカ! アンタ何様なの? とにかく私を王子のところに早く連れて行きなさいよ!」

 「アイアイ、サー!」

 

 キャンディがプリウスに跨ると、キャンディを乗せたプリウスは、あっという間に王子たちの前に到着した。



 「どうしたのキャンディ? そんなに慌てて?」


 (ああ、どうしてこんなに美男子なのかしら? 少女漫画の主人公みたい。

 私の王子、ジャスティン様!

 プラチナブロンドの髪に身長183センチの長身、透けちゃいそうに白い肌、そして女の子みたいなキュートな唇、そしてアクアマリンのように輝く澄んだ瞳。

 ああ、今すぐ私を抱いて! ジャスティン様!)



 そうだ、そうだった、うっとりしている場合じゃなかった。


 「ジャスティン様、そのオバちゃんはどちら様ですか?」

 「誰がオバちゃんじゃ! ワレ!」

 「何よ、このヤンキーババア! ジャスティン様から早く離れなさいよ! 汚らわしい!」

 「ヤンキーババアだあ? アタイとタイマン張ろうっていうんかコラ! 喧嘩上等!」

 「まあまあ、ふたりとも仲良くしてよ。

 キャンディ、紹介するね? この人はダ・サイタマ王国の王女、ガガだよ。

 当分の間、この城で暮らすことになったからよろしくね?」

 「えっー、全然聞いてないんですけどー!

 しかもあのダ・サイタマ王国って、あの海のない王国でしょう! キャーッ!

 黒いビキニも着れないなんて!」

 「うるさいわねー、トネネ・リバーならあるわよ! 一級河川のね!」

 

 口は悪いがガガ王女は悔しいほど沢尻エリカみたいに綺麗な王女だった。

 キャンディはジェラシーの炎をメラメラと燃やした。


 「わかりました。ではこれからはメイドの私が王子に代わりまして王宮をご案内いたします」

 「テメエなんかに頼まねえよ! 私はジャスティン王子に案内してもらっているんだから。ハウス!

 ねえジャスティン?」

 「ガルルルルー」

 「いいよキャンディ、君は忙しいだろうから、僕がガガ王女を案内するよ。

 ウエルカム晩餐会の用意をするように、中華担当の陳珍萬料理長に伝えておいてくれるかな?」


 (ラッキー! このあばずれ女、陳さんのあの超激辛四川料理で明日の朝はお尻から、炎のウンコが出るくらい、ブートジョロキアとデスソースをたっぷり入れてもらうからね! 覚悟しなさいよ!)


 「かしこまりました。では早速晩餐会の準備をしてまいります」

 「よろしく頼むね、キャンディ」

 「行きましょう、ジャスティン。

 こんなパンチラメイドは放っといて。

 じゃあねキャンディ。バハハーイ!」


 キャンディはメイド服のエプロンを悔しそうに齧った。


 「く、くやしいけどここは我慢我慢。今に見てらっしゃい! お口からもお尻からも火のでるような超激辛料理をお見舞いしてあげるから!」


 キャンディは再びプリウスに跨り、王宮の厨房にすっ飛んで行った。




第3話

 「ね、ね、ね、ね、ね、の、ねえ陳料理長! すっんごーく辛い、チョー激辛四川料理を作って!」

 「どうしたキャンディ? やけにうれしそうあるな?」

 「あったりまえよー、これを喜ばなくて何を喜べっていうのよー! 今でしょ! 今!」

 「なんでそんなに辛い料理が食べたいあるか?」

 「私が食べたいんじゃなくて、私の恋敵に食べさせて懲らしめてやるのよ!」

 「恋敵? ああ、ジャスティン様のあれかあ? レディなんとかっていうあれあるか?」

 「レディなんかじゃないわよ、あんなアバズレ女。

 あのダ・サイタマ王国の王女だか何だか知らないけどさあ。

 私の大切な王子、ジャスティン様といちゃついちゃって、もうー、絶対に許せない!」

 「なるほど、レディ・ガガあるねえ?」 

 「だからレディは要らないの! それでね? 今夜の歓迎晩餐会に激辛オンパレードのお料理を出して欲しいのよ、わかった?」

 「しょうがないあるなあ、キャンディの頼みならやるしかないある。

 でもそのガガ王女の料理だけあるよ、王様と王子は辛いのはダメあるから。

 シーナ王妃は辛いの大好きだから同じ物でいいあるな?

 いつも「もっと辛くしなさい! 甘い!」って叱られるあるから」

 「お姉ちゃんはいいの、常にロックな人だから。

 キャロライナとかブート・ジョロキアとかハバネロとかをバケツで入れてね?」

 「任せておきなあるよ。穴という穴から火を噴かせてやるある!」

 「もう陳料理長はお下品なんだからあ。

 じゃあ頼んだわよ!」

 「任せて欲しいある」


 キャンディはスキップしながら厨房を出て行った。




 ガガ王女の歓迎晩餐会が始まろうとしていた。

 キャンディはいつもなら王子の給仕をするのだが、今日だけはガガ王女の給仕をすることにした。


 (うふっ、至近距離でガガ王女の悶絶する姿が観れるなんてもう最高ーッ!)



 ロン16世が盃を取った。


 「では皆の者、これよりガガ王女の歓迎晩餐会を始める。 

 ガガ王女の益々の美貌と幸福に、乾杯!」

 「乾杯!」


 (何が美貌と幸福に乾杯よ! 早漏、短小仮性包茎のくせに!)




 「今日は中華にしたのね? 陳料理長はちゃんと激辛にしてくれたのかしら?」

 「女王様には特別バージョンになっております」

 「そう? ならいいけど」


 執事のアーノルドが言った。

 アーノルドはシーナ王妃のお気に入り、イケメン執事だった。


 シーナ王妃とガガ王女には、この世の物とは思えぬチョー激辛四川料理を用意していた。

 国王とジャスティン王子は『星の王子様カレー』と、『風味まろやか麻婆豆腐』が供された。



 「うん、旨いな王子。

 やはり四川料理はこうでなくちゃいかん。

 丁度良い辛さじゃ」


 ロン16世はご満悦だった。


 「そうだね? 僕もこれくらいが丁度いいや」




 一方、ガガ王女とシーナ王妃の料理はというと・・・。


 焼けた石焼ビビンバの器には、マグマのように熱々の、超激辛四川料理が盛られていた。

 まるでキラウエア火山のように炎を上げている。


 「こちらが麻婆豆腐と鶏肉とカシューナッツ炒め、それとピーマンのジョロキア炒めでございます」


 キャンディは楽しくてしょうがなかった。

 あまりの凄まじい辛さで、目も開けられず、水中メガネを掛けているほどだった。



 「うわー! 凄く美味しそう! 涎が出ちゃいそう!」

 「ホント、凄くいい香り。そしてこの燃えるような赤。

 食欲が湧いてくるわねー!  

 ガガ王女も辛いのはお好きなの?」

 「はい王妃様、辛いの大好きです!」

 「そう? 私たち、仲良くなれそうね?」

 「王妃様にそう言っていただいて、とても光栄ですわ」

 「では、いただきましょうか?」

 「はい!」


 (お姉ちゃん何言ってくれちゃってんのよ! 一体どっちの味方なのよ! 

 でもいいわ、こんな料理、地獄の赤鬼でも泣いて逃げて行くはずだから。うふっ)



 「なんて美味しいのかしら! 凄いわ、こんな美味しい中華は初めてです!

 ダ・サイタマ王国にもありません、こんな四川料理!」


 なんとガガ王女は美味しそうに激辛中華を食べているではないか! しかもたった5分でそれをすべて平らげてしまった。


 (ウソ! なんともないの?)


 「次のお料理はアワビのカキソース、デスソース仕立てでございます」

 「キャロライン・リーパーとジョロキアの炊き込みご飯でございます」

 「コンドルの爪、青椒肉絲になります」

 「ブート・ジョロキアの黒酢酢豚です」

 「蒙古タンメン中本の『北極の超』です」



 だがガガもシーナ妃も、汗ひとつ掻いてはいなかった。


 「こちらが最後のデザートになります。

 ジョロキア、キャロライン、鷹の爪添えのハリケーン・ゲッツのハバネロアイスでございます。

 お口直しにどうぞ」


 ガガ王女もシーナ王妃もすべて食べてしまい、ケロッとしていた。


 

 「今日のお料理はとても良かったわ、陳料理長をここへ」


 スーハー スーハー


 陳料理長は消防士の耐火服を着て、シーナ王妃たちのところへやって来た。

 厨房のコックたち数名は、あまりの辛さのために救急車で運ばれてしまった。



 「お味は起きに召していただけましたあるか? スーハー」

 「とっても美味しかったわ。

 流石は四川料理の神ね? 次回からもこれでお願いね?

 今まではパンチが足りなかったけど、今日のお料理なら合格よ。

 ありがとう、陳料理長」

 「スーハー ありがたきしあわせにございますある」


 ガガ王女も口の周りをナプキンで上品に拭くと陳料理長を褒め称えた。


 「料理長さん、とっても美味しかったわ。今度は我がダ・サイタマ王国に国賓としてご招待しますね?」


 ガガ王女にウインクまでしてもらい、陳料理長はスキップをして厨房へと戻っていった。



 (中々やるじゃないの? 今に見てらっしゃい。今回はリハーサル、これからが本番なんだから!)



 キャンディは次の作戦を考え始めていた。




第4話

 「悔しい、悔しい、悔しい、めちゃ悔しーっい!」


 そう叫んでキャンディは目覚まし時計のタイム君を齧った。


 「痛たたたた! 痛いよキャンディ、ボクを齧らないでよ!」

 「あらゴメンなさい、あまりにもガガ王女が憎らしくて、つい噛んじゃった。

 メンゴメンゴ」

 「その何かイラつく度にボクを齧るの止めてくれないかなあ?

 ほら、キャンディの歯で傷だらけだよ。

 どんな強い歯してんのさ?」

 「ちょっと聞いてよタイム君。

 あのガガ王女ったらね? あんな激辛料理も平気で食べちゃうんだよ! ねえ、どうしたらあのあばずれヤリマン王女を懲らしめてやれると思う?」

 「ガガ王女は無敵の王女だからね? そう簡単には弱音は吐かないよ」

 「じゃあこのまま見過ごせっていうの?

 そんなのイヤ! 絶対にイヤ!

 ジャスティン王子は私だけのものなんだから!」


 するとドアをノックする音が聞こえた。


 「キャンディ? お姉ちゃんよ、入ってもいい?」

 「どうぞー」

 「どうしたの? 最近いつもの元気がないじゃないの?」

 「なんでもないよ、お姉ちゃん」


 キャンディはまた、タイム君を齧った。


 「だからキャンディ、痛いってば! 齧るの止めてよ!」

 「あっ、また噛んじゃった。ごめんなさい」

 「あなたはいつもそう、何か悩みがあるとすぐにタイムを齧る。その癖、もうお止めなさい。

 もうあなたはレディなんだから」


 キャンディはシーナ王女の「レディ」という言葉に反応して、またまたタイム君を齧ろうとすると、王妃がタイム君をキャンディから取り上げた。


 「ほらまた、なんでもなくはないでしょう? そんなにションボリしちゃって」

 「別に・・・。何でもないもん」

 「ダメよ、そんなこと言っても。

 ジャスティンのことが心配なんでしょ? ガガ王女に盗られてしまいそうで」


 図星だった。


 「そ、そんなことないよ、ジャスティンとは小さい頃からいつも一緒だし、あんなオバサンと付き合わせたくないだけよ」

 「本当にそれだけ?」

 「そうよ、それだけだよ」

 「わかりやすい子ね? あなたという子は。うふっ」


 シーナ王妃とキャンディは、20歳も歳が離れていた。

 それゆえ姉と妹というよりは、シーナはキャンディのお母さんのような存在だった。

 シーナはキャンディのおむつ交換をしたり、自分のオッパイも与えていたほどだったからだ。


 「大丈夫よキャンディ。ガガ王女はね? ここに避難して来ているだけなの。

 今、ダ・サイタマ国では内乱が起きているらしいの、琵琶湖の水をダ・サイタマに引いて海を作るとかで。

 それでウチの人がガガ王女を匿ってあげているのよ。

 それにダ・サイタマ国とアキバ国とでは格が違いすぎるわ。

 ふたりが結婚するなんてことはあり得ないから安心なさい」

 「お姉ちゃん」

 「私はキャンディのお姉ちゃんよ。かわいい妹の悲しい顔は見たくはないわ」

 それに王子とガガでは歳が離れすぎているもの。

 ガガは王女だけど、あれでアラフィフなのよ」

 「えっー! お姉ちゃんよりも年上なの?」

 「そうよ、知らなかった?」

 「全然、あんなにきれいなのに?」


 そう、確かにガガ王女はチョー美人だった。

 キャンディはせいぜい自分より10歳年上の28だとばかり思っていたのだ。


 「ガガ王女は綺麗な人よね?

 でも間違いないわ、ダ・サイタマ国のパスポートが昭和になっていたから。

 我が国のビザを発行する際に確認したの、間違いないハズよ」

 「ガガ王女が昭和生まれ・・・」


 筆者と同じである。

 

 (それでもまだ安心は出来ない。ジャスティンは熟女好きかも?)


 「じゃああまり心配しないでね?

 タイムが壊れてしまうから」


 それだけ言うとシーナ王妃はキャンディのメイド部屋を出て行った。



 「そうだ! ジャスティン様がガガ王女を嫌いになるようにあのクスリ、『イヤイヤキライキライ』を王子に飲ませちゃえばいいんだわ!

 そうすればガガ王女もジャスティン様を諦めるはず。

 プリウスー! プリウスー!」


 ハイブリッド箒のプリウスがすっ飛んで来た。


 「ハイハーイ! キャンディ様、お呼びですか?」

 「今日は随分と早いじゃない? よしよし。

 これから森へクスリの材料を取りに行くから乗せてって頂戴」

 「アイアイ・サー!」




 キャンディは森で色んな怪しい薬草を摘んで来た。

 そしてキャンディは本棚から『ブリブリカ 世界魔法のクスリ百科事典』を掴むとそれをテーブルの上に広げた。


 「えーと、えーと・・・、ん? これだわ、『イヤイヤキライキライ』の作り方が載ってる。

 この薬という漢字の前にある『媚』って付いているけど、何? このむずかしそうな漢字は? 何て読むのかしら?

 まあ、たんなる表記ミスかもね? どうせ薬だからこれでいいのよ、たぶん」


 キャンディは大変な間違いを犯していた。

 『媚薬』とは「惚れ薬」のことである。

 キャンディは漢字が苦手だった。


 そもそもこの薬、『イヤイヤキライキライ』は、「好きもキライも恋のうち」という、それほど好きになっちゃうっていう、複雑難解な乙女心を表した「媚薬」だったのだ。



 「それじゃ始めるわよー。

 えーと、マンゴラゴラの根っ子にラフレシアの花びら。

 それからジャコウ鹿のにゃん玉袋にイモリの干物。

 ドリアンとくさやの干物にオロナミンC、すっぽんの生き血。それからそれから・・・」


 辺りにはとんでもない悪臭が立ち込めていた。

 まるであの世界一臭いと言われる『シュールストレミング』よりも強烈だった。


 「ヒッヒッヒッ これでジャスティン様は私のもの。

 見てらっしゃい、ガガ・オバサン。今度こそギャフンと言わせちゃうんだから」


 キャンディはすっかり白雪姫の魔女のようになっていた。


 怖っ。




第5話

 キャンディはスキップしながら出来立てホヤホヤのあの『媚薬』を手に、午後のティー・パーティにやって来た。


 「キャンディ、なんだか凄くうれしそうだね?

 君の手に持っているその茶色の小瓶は何だい?」


 ジャスティン王子はキャンディが手にしているのが『媚薬』だとも知らず、それに興味を示した。


 「ヘヘーン、王子様。これはね? これはその~つまりー、あれがあれしてこれがこうで、だからこうなるという魔法の滋養強壮剤です。

 ドンケル黄帝液の1,000倍の効果があるんですよ。

 もっと分かり易く言うとね? 黎明酒とドンケルと、まむしドリンクとヤキルト1000を混ぜたようなものね?    

 隠し味にフィイザー社製のあれ、アキバグラも入れてあるの。

 これを飲めば殿方は元気モリモリ、あそこはビンビンびんぼっちゃまよ!

 そして女の子はもっとかわゆく、オバサンもそれなりに若く見えるという、まさに魔法のお薬なのよー! オーッホッホッホッ」

 「そんなに凄いのかい? 最近、ボクは夏の疲れが残ってしまって、バテバテなんだよ。食欲もあまりないんだ」

 「だったらラクダ倶楽部じゃないけどどうぞどうぞ。苦いのでオレンジペコーに混ぜるといいですよ」

 「じゃあ試してみようかな? いいのかい? そんな貴重な物を?」

 「どーぞどーぞ!」


 (シメシメ、これでジャスティン様がガガ王女に惚れることはなくなるわね。

 何しろこれは、相手を「嫌いになるお薬」なんですもの) 

 

 そこにガガ王女がチャチャを入れた。


 「ジャスティン、そんな変な訳の分からない物なんか飲まない方がいいわよ。

 こんな小娘、何を入れたのかわかったもんじゃないから」

 「うるせえんだよ、このうんこババア!

 これは代々このアキバ王国に伝わる秘薬、『ブラックブル1000皇帝液』なの!

 ダ・サイタマ王国にはないでしょうけどね!

 これさえ飲めばヤリたくなること間違いなしなんだから!

 オバサンは黙っていなさいよ!

 またの名を『赤ちゃんポコポコ』と言って、チューしただけですぐに妊娠しちゃうんだから!」

 「そんなインチキ薬なんか、我が王国にはないわよ! 薬事法違反だし!」


 ガガ王女はキャンディに食って掛かった。


 「こんなオバチャンのことは放っておいて、さあ王子、どうぞ召し上がれ」


 キャンディはそれが媚薬とも知らず、ジャスティンのティーカップにそれを数滴垂らした。


 王子はそれを飲んだ。

 するとジャスティンはみるみる顔を紅潮させ、鼻息が荒くなり、目は血走ってガガ王女に飛び掛かり、王女を芝生の上に押し倒してしまった。


 「ジャスティン、いけないわこんなところで。

 そんなにしたいなら、私のベッドに行きましょう」

 「ダメだよガガ、ボクはもう自分がコントロール出来ないんだ!

 か、からだが勝手に・・・」

 「ジャスティン王子! どうしたの? 股間が、股間がまるで東京ドームみたいにパンパンになっているじゃないの!

 苦しいのね? 金属バットが。

 わかったわ、すぐに気持ちよくしてあげる!」


 (あれれ、どうなっちゃっているのかしら? 王子が飲むとガガ王女を嫌いになるハズなのに、全然逆効果じゃないの! 製法を間違えちゃったのかしら?)


 キャンディは魔法の箒、プリウスを呼んだ。


 「プリウスーッ! 早く来てちょうだーい!」


 するとプリウスがすっ飛んで来た。


 「お呼びですか? キャンディ様!」

 「すぐに王子を宮廷病院へ運んで頂戴!」

 「アイアイ・サー!」


 プリウスはジャスティン王子を咥えると赤色回転灯を点け、宮廷病院へと王子を運んだ。


 ピーポー、ピーポー


 

 「ドクターSEX、あっ間違えたドクターXだった。どうなの? 王子の様態は?」

 「これは急性媚薬中毒ですな? 大丈夫、このチョー苦い、ゲロ不味い青汁を飲めばすぐに良くなります。

 ご安心下さい。

 でもどうして媚薬なんかをジャスティン様が・・・」



 キャンディはすぐに魔法実験室に戻ると、あらためて事典を読み直してみた。

 するとそこには、


 「ナニナニ? 「・・・以上が強力惚れ薬『金立ちキンキン1000』の作り方である。 

 これを『キライキライダイッキライ500』にするには、この薬にキングコブラとタランチュラの毒、そして人魚の涙を入れれば完成である。

 なお取り扱いには十分注意し、魔法薬剤師の指示の基、用法・用量を守ってご使用下さい」だあ?

 アチャアー、全く逆のやつを飲ませちゃったー!

 どちらにしても人魚の涙なんて手に入らないから無理。仕方がない、別な方法を考えるしかないわね?」


 キャンディは一休さんのように座禅を組み、


 「あわてないあわてない。ひとやすみひとやすみ」


 と、ツインテールの頭を撫でた。


 果たしてキャンディにいい案は浮かぶのだろうか?




第6話

 キャンディは香水に使う薔薇をバスケットにたくさん摘んで、宮廷のバラ園から戻る途中だった。


 「こんなにたくさん採れちゃったもんねー。うーん、いい香り。

 来年の春の新作はこれでバッチリだわ。

 お姉ちゃんのシーナ王妃もきっと喜んでくれるはず」



 その時、ガガ王女が自分の王国から一緒に連れて来た、ユニコーンと何やら話しているのを見掛けた。


 (ガガ王女は何を話しているのかしら?)



 キャンディはそっと物陰に隠れ、聞き耳を立てた。


 「私たちは一体いつになったら王国に帰れるのかしらね? ユニ太郎。

 それは私たちの王国にはこのアキバ王国のような華やかさや優雅さも、そしてAKB48もメイドカフェもないわ。

 でもね、ダ・サイタマ王国には美しい田園風景が広がり、ネギや小松菜、そしてチューリップだってある。

 どうして国民は分かってくれないのかしら?

 国王も王妃も、そしてわたくしも国民と共にありたいのに、どうして王制を消滅させようとするの?

 ああ、パパとママに会いたい。 もちろんダーリンにも。

 帰りたいでしょ? ユニ太郎。ダ・サイタマへ」


 ガガ王女はユニコーンの角を撫で、ユニ太郎はこっくりと頷いた。


 (いつも強気なガガ王女が泣いている)


 キャンディは思わずガガ王女に声を掛けた。


 「これ、あげる」


 キャンディはバスケットから虹色の薔薇を3本取出し、ガガ王女に差し出した。

 ガガ王女はすぐに涙を拭うと、そのレインボウ・ローズの香を嗅いだ。


 「なんていい香り。いいのキャンディ? 貰っても?」

 「うん。いい香りでしょう? 七色に光ってキレイな薔薇でしょう? 

 これで香水を作るんだよ。

 私が作る香水はね? お姉ちゃんも大好きなんだ」

 「なんていう香水なの?」

 「ドッチ&ガバガバだよ。ムスク・ローズなんだ」

 「なんだか歌って踊りたくなるような名前ね?」

 「私もこの香水を嗅ぐとね、貞子みたいに踊りたくなるんだ。

 こんな風に」


 キャンディが『貞子』の貞子みたいに踊ると、ガガ王女はお腹を抱えて笑った。


 「あはは あはは 上手上手、キャンディ、貞子みたい。あはははは

 私も嗅いでみたいな? その香水」

 「いいよ、これから作るから一緒においでよ」



 

 キャンディは調香アトリエにガガ王女を案内した。


 「すごーい! 理科の実験室みたいね? とてもいい香りがする。

 キャンディは何でも出来るのね?」


 ガガ王女はアトリエの中を見渡しながらキャンディを褒めた。

 流石はアラフィフ姐さん、美熟女だ。


 キャンディは褒められて伸びるタイプである。チョッパーのようにメロメロになってしまった。


 「止めてよ、天才だなんて。

 私はただの可愛くてお洒落でオッパイの感度がいい、七の段以外の九九なら完璧に言える、才色兼備のただのメイドよ。

 いやだなあもう、ガガ王女ったら、そんな本当のこと言って。

 私、照れちゃうじゃない。ウヘヘヘへ」

 「私はただ「キャンディは何でも出来るのね?」と言っただけで、「天才」とは言ってないけど?」

 「いいから、いいから。

 ガガの心の声は確かに私には聞こえているから安心して。

 じゃあ早速始めるわよ」


 キャンディは先程摘んだばかりのレインボー・ローズを釜の中に入れると、それを蒸し始めた。


 「次はスパイスを入れるのよ。

 香水はね、女と一緒なの。

 甘くて優しいだけの女はすぐに男性から飽きられてしまうわ。「コイツ、俺のためならどんなエッチなこともするな?」ってすぐつけ上がるでしょう?

 だから女は小悪魔でいなくっちゃいけない。

 香水作りにもスパイスは重要なの。カルダモンとかジンジャーとかね?」

 「へえー、スパイスも入れるのね? なんだかカレーみたい」

 「それから動物性成分も重要なのよ。俗にいうところのムスクとか。

 ジャコウ鹿、ジャコウ猫、ジャコウネズミ、それからマッコウクジラの生殖腺の分泌液も大切なの」

 「生殖腺って、あのニャンタマ袋とかのこと?」

 「おチ〇ポのそこに近いところかしらね?

 これ、今年の新作なんだけどちょっと嗅いでみる?」


 ガガ王女はそっと紫の小瓶の香りを嗅いでみた。


 「うわー、素敵な香りね? まるで天国に昇りそうな香りだわ!」

 「香水はね? カラダに付けるとどんどん変化していくの。

 香りには揮発性があるでしょう? その人の持っている体臭と相まって、よりオリジナルの香りに変化するのよ。

 トップノート、ミドルノート、ラストノートがあるわ。

 気に入ったんならそれ、ガガにあげる」

 「いいの、貰っても?」

 「どうぞ、あなたも大変なのね? 王国が早く平和になるといいわね?

 でもね、ジャスティン様は私のものよ、どんなにあなたが王女として苦悩しているとしても、彼だけは譲れない」

 「キャンディ、それなら安心して。私、婚約しているの、アカサカ王国のヨシキ王子と」

 「えーっつ! 驚き桃の木山椒の木! あのアカサカ王国のイケメン王子、ヨシキ王子と婚約!

 あの鞭打ち症になるくらい、沢山の太鼓叩いて、ガラスのピアノをうっとりと弾く、あのヨシキ王子とガガが婚約!」

 「そうなの、だからジャスティン王子とどうにかなろうなんて全然考えていないから大丈夫。安心して。

 それはヨシキと離れて寂しいから、時々ムラムラすることもあるわよ? チャット・セックスだけじゃ物足りないし。

 ジャスティンはセフレにはいいけど、結婚は出来ないの」

 「お、おいガガ。セフレもダメだからね? 絶対にダメ!

 私だけのジャスティン様なんだからあ!」

 「ごめんごめん、冗談よ冗談。

 応援するわね? キャンディとジャスティンが結ばれる事」

 「ありがとう、ガガ王女」


 キャンディにはまた一人、素敵なお姉ちゃん? ママ? が増えた。

 歳はママと同じだけど。




第7話

 「やあキャンディ、どや? 一緒にシブヤ王国でタピオカミルクティーでも飲みにいかへんか?」


 ロン16世がニヤニヤとキャンディに近づいて来た。

 

 「いやよ、あんなカエルの卵みたいなやつ。

 それにその後、ドウゲンザカのラブホでエッチしようなんて魂胆でしょう? もう見え見えなんだからあ。

 お姉ちゃんに言い付ちゃおうっと!」

 「ええやないかキャンディ? 減るもんやあらへんし」

 「減るわよバカ! 絶対にイヤ! キモイ! あっちに行って! シッシッ ハウス!」


 ロン16世はしょんぼりと去って行った。


 ガガ王女はジャスティン王子とキャンディを応援してくれると言うが、さて、どうしたものかとキャンディは悩んでいた。


 ガガ王女の突然の出現で焦ったキャンディではあったが、実際に恋敵が消えると、また元の足踏み状態に戻ってしまったからだ。

 自分から告白して、もしダメだったら立ち直れそうもない。

 それだけキャンディはジャスティンに恋をしていた。


 理想的にはジャスティンから「好きだよキャンディ、僕と結婚してくれ!」と言わせちゃうのが一番だが、そう仕向けるのは大変だ。

 だが魔法に頼るのはもう止めた。

 フェアにこの恋愛を成就させたいと、キャンディは思っていた。


 「さて、どうしたものか?・・・」


 するとそこへ、あの世界的ファンタジー、『ハリー・ポッキー』に出て来た白フクロウ、ペドウィッグの息子フクロウのペドウィッグ.Jr が飛んで来た。


 ペドウィッグ.Jr は『ハリー・ポッキー』のペドウィッグの長男で、『ハリー・トシマエンランド』の開園に招かれ、ホグダーツからトシマ王国へとやって来たのだった。

 だが彼はここ、アキバ王国のメイド・カフェにすっかり嵌ってしまい、自堕落な生活を送っていた。



 「ねえキャンディ。またあの『マジカル・メイドカフェ』に行こうよ。ねえ、いいだろう?」

 「先週も連れて行ってあげたでしょ? そんなにエリーゼのことが気に入ったの?」

 「あんないい子はいないよキャンディー!

 エリーゼの作ってくれる、あのパンケーキは最高だよ!

 「萌え萌えキュンキュン、美味しくなーれ!」って呪文をかけてくれてさあ。あんな凄い魔法はパパの友だちだった、あのハリー・ポッキーの魔法よりもすっげーよ!

 森短もりたんのホットケーキミックスがあんなに美味しくなっちゃうんだよ!

 あれにメープルシロップを数滴、申し訳なさそうに垂らしただけで、死んじゃうくらいに美味しいんだから! 

 それにエリーゼは巨乳だしー!」

 「ちょっぴりのホイップクリームと、チョコで描いたいびつなハートだけだけどね?」

 「だからさあ、今度はメイプルシロップを持参しようと思うんだ」

 「でもさあ、元キャストの私から言わせればよ、ボッタクリもいいところだけどね? それでも行きたいわけ?」

 「行きたい! 行きたい! エリーゼの笑顔に会えるなら安いもんだよ!

 ね? キャンディ、何でも言うこと聞くからさ!

 ボク、どうしてもエリーゼの巨乳を鷲掴み、じゃなかったフクロウ掴みしたいんだよー! ああ、あの乳に止まりたい!」


 その時、キャンディの瞳がキラリと怪しく光った。

 何かを企んでいる様子だった。

 

 「今、「何でも」って言ったわよねー?」

 「うん、何でも言って!

 だからお願いだよキャンディー。ボクを『マジカル・メイドカフェ』に連れて行ってくれよ~」

 「ねえねえジュニア、ちょっと頼まれてくれないかなあ?」

 「いいよ、なんだい?」

 「ジャスティンに手紙を届けて欲しいの」

 「なーんだ、そんなのお安い御用だよ。

 それで手紙は?」

 「それでね、ついでにラブレターも書いて欲しいの。私の代わりに」

 「えっー、ラブレターの中身もかい?」

 「そうなの、私、文章を書くのが下手っぴだから」

 「あんなにLINEしたり、Twitterとかやってるのに?」

 「長文はダメなのよねー」

 「しょうがないなあー、つまり王子に告白したいという訳だね?」

 「そうなの。面と向かっては言えないから手紙にしようと思ったのよお。

 そこでジャスティンがグッとくるような恋文を、ジュニアに届けてもらいたいの」

 「なるほどねー、でも、ボクはこの美しい翼しかないからさ、字なんて書けないよ」

 「手紙は私が書くから大丈夫、口頭で言ってくれればいいから」

 「ならいいよ、エリーゼの件、よろしくね?」

 「ハイハイ」

 「じゃあ言うから書いてよね?

 「親愛なるジャスティン王子様、突然のお手紙、お許し下さい・・・」


 早速ペドウィッグ.Jr はラブレターの中身を話し始めた。


 それを一生懸命に書いているキャンディは、とってもキュートな女の子だった。

 ジャスティン王子に見せてあげたいほど、切ない乙女の顔をしていた。




第8話

 12時間もかけて、ようやくラブレターが完成した。

 ペドウィッグ.Jrもキャンディも、まるでエッチした後のようにヘトヘトになっていた。


 「はあはあ」

 「もう、ダメ~」


 (今どき手紙を書くなんて、メールが大嫌いな筆者か、キャンディくらいなものだろう。

 何でもスマホやPCで、言い難いことを言っちゃおうだなんて、愛がないよ愛が!

 筆者も海外にいる時、どっさりエアメールを書いたもんだ。

 彼女からのエアメールには、彼女のいつもの香水の香りがついていたっけなあ。遠い目)



 「ジュニア、じゃあ頼んだわよ」

 「まかせてよ、ボクは愛のキューピー・マヨネーズだからね?」

 「それを言うなら「愛のキューピッド」でしょ? 本当に大丈夫なの?

 何だか心配になって来ちゃったわよ」

 「大丈夫、大丈夫。

 じゃあ行ってくるよ、キャンディ。戻ったら『マジカル・メイドカフェ』だからね?」

 「わかってるって。

 それじゃあ気を付けてね?」


 ペドウィッグ.Jrは蝋で封印した手紙を嘴に咥え、美しく飛び立って行った。


 「ジャスティン様、どうか私の手紙に良いお返事を下さい」


 キャンディは祈りを込めてペドウィッグ.Jrを見送った。





 ペドウィッグ.Jrが王子の元へ向かって飛んでいると、美味しそうな野ネズミを見つけた。


 「おっ、あんなところに大好物の野ネズミがいる!」


 思わずペドウィッグ.Jrは咥えていた手紙を落としてしまった。


 「やべっ!」


 ペドウィッグ.Jrは慌てて手紙を追いかけたが、手紙は宮廷の小川に落ち、みるみる川底に沈んで行ってしまった。


 「あちゃー、どうしよう、キャンディに叱られちゃう。

 それにメイドカフェにも行けなくなっちゃうぞ、どうしよう。

 そうだ、とにかく手紙だけ渡して王子にはこう言えばいいや。



 「ジャスティン王子、キャンディからのお手紙です。

 でも、手紙には何も書いてありません。

 何故だかわかりますか?

 それは言葉に出来ないほど、王子を愛しているという意味なのです。

 だから手紙は白紙なんです。

 モテる男は罪ですね? コノコノ」



 よし、これでいこう。 

 100均で封筒と便箋を買って来よーっと」


 ペドウィッグ.Jrは口笛を吹いて、100円ショップへと急いだ。





 シナリオ通り、ペドウィッグ.Jrはジャスティン王子に手紙を渡し、あのセリフを言うと王子は言った。


 「何もこんなことしなくても、僕はキャンディが大好きなのに。

 それにしてもキャンディらしくないな? こんな会社の請求書を入れるような封筒で愛の告白なんて?

 まるで100均の事務用品売場で買ったみたいじゃないか? これにはちょっとがっかりしたよ」


 ペドウィッグ.Jrは慌てた。


 「た、た、たぶん、リボンのあるような手紙は恥ずかしかったんだと思いますよ」

 「そうか、そうかもしれないね? キャンディは恥ずかしがり屋さんだから」


 ペドウィッグ.jrはホッと胸を撫でおろした。


 「それじゃあジャスティン様、ちゃんとお渡ししましたからね?」

 「キャンディによろしくね?」

 「はーい」




 ペドウィッグ.Jrは王子に手紙を渡したことをキャンディに報告した。


 「ありがとう、随分遅かったわね? それで王子は何だって?」

 「さあ、「後でじっくり読むから」って言ってたよ。

 それより早く出掛けようよ、メイドカフェに!

 エリーゼが他のお客に盗られちゃうよー!」

 「はいはい、わかったわ。約束だもんね? プリウスーっ!」


 プリウスがやって来た。


 「アイアイ・サー、キャンディ!」

 「プリウス、『マジカル・メイドカフェ』までお願い」

 「かしこまりー!」


 キャンディを乗せたプリウスと、白フクロウのペドウィッグ.jrはメイドカフェへと飛んで行った。


 「ああ、私のジャスティン様~!」



 デッカイ満月の夜だった。

 魔法の箒に乗ったキャンディと空飛ぶフクロウのシルエットが、とてもファンタジーだった。


 まさかその行先がメイドカフェなどとは誰も想像する者はいなかった。




第9話

 「いやあ、エリーゼの「萌え萌え、キュンキュン」は最高だったよなあ。

 キャンディ、明日も来ようよ、ね、いいでしょう?」

 「またあ? もういいわよ、お金が勿体ないわよ、ジュニア」

 「キャンディ様、私もまた来たいです!

 私もあのエレガントな床の掃き方、私はあのジルバちゃんに惚れましたー!

 誰から褒められるでもなく、ただひたすらに床を這いずり回るあのお姿! なんと健気けなげ、何という奥ゆかしさ! ああ、ジルバ!」

 「あんたたち、頭おかしいんじゃないの?」




 JR萌え萌え駅を通りかかると、オーロラビジョンにはダ・サイタマ国王と、『国民がいちばんの党』の女性党首、オバ・タリアンがテレビ討論をしている模様を実況中継していた



 「あれ? ガガ王女のパパじゃないかしら?」


 ベテラン人気MCの、みの・もん太郎がスムーズな司会進行をしていた。



 「では国王、あなたはいつでも『国民がいちばんの党』にダ・サイタマ国の実権を明け渡してもいいと仰るのですね?」

 「もちろんじゃ。ワシは国民がそれを望むのであれば、いつでも国王の座を譲っても構わん。

 王の座を争ってまで、国民が血を流すのは望んではおらん。

 平和のためだと王国を混乱させ、人民の尊い命が失われてはならんのじゃ」


 すると『国民がいちばんの党』の党首が言った。


 「このカントリーはペリーの来航により、アトミック・ボムが落とされ、多くの国民が死に絶え、巨大なメリケン帝国の植民地となってしまいました。

 日本がジパングに改名させられ、市町村合併により、この限界集落だった海もないダ・サイタマも王制となり、くじ引きでYouが国王になった。

 すぐに辞めるべきだったのよ!

 今すぐお辞めなさい! Now!」

 「確かにワシは10年前まではただの小松菜栽培の農家じゃった。

 だがこのダ・サイタマをワシは愛しておる。

 ワシは自分の生活費は自分が育てた小松菜を売った収入でまかなっておる。税金は1円も使ってはおらん。

 ロイヤルホストにすら行ったこともない。

 たまに行くのは回転寿司の『寿司ジロー』くらいなものじゃ。しかも109円皿しか食わん。

 あなたのようにザギン王国の『十兵衛』で、大トロとウニ、イクラ、ノドグロしか食べん党首とは違うのじゃ」


 それを暴露された党首、オバ・タリアンは黙ってはいなかった。


 「そ、それがどうしたのよ、レジェンドの私に逆らうの!

 王様はこの国を豊かにしようとしないじゃないの!

 築地マルシェの移動にも反対したわよね!

 放射性廃棄物処理場もダメ、飛行場もダメ、高速道路も新幹線も止まらない、メイドカフェもHなお店もない!

 そんな王国にヤングは定着しないと言っていっているのよ!

 アキバ王国を少しは見習いなさい! アニメにメイド、それにエッチなお店とAKB37であんなに栄えたじゃないの!

 おまけに成田エクスプレスまである!

 アンタは無能な王様、パンツしか履いていない「裸の王様」なのよ!」


 すると王様は静かに言った。


 「安心してくれ、ワシはパンツは履いておる。

 よし分かった。すまんがADさん、私の王の椅子をここへお願いします」


 ふたりのADがいっちらおっちら玉座をスタジオに運んで来た。


 「ゼイゼイ(息が上がっている)、国王、これでよろしいですか?」

 「結構、ではオバ・タリアン党首、ここに座りたければ座るがよい。ホレ、遠慮はいらんぞ」

 「な、何のマネよ! こんな危険な椅子に誰が座るもんですか! アホ、ボケ、短足、包茎!」


 みのもん太郎が驚いて言った。


 「こ、これはあの有名な伝説、「ダモクレスの剣」ですね!

 まさか王様の玉座にもあったとは!」

 「そうじゃ、これがワシの国王の椅子じゃ。

 この一本の馬のシッポの毛で吊るされた、大剣の下にいつもワシは座っておる。

 王とはこういうものなのじゃ。

 欲しければいつでもくれてやるぞ。

 ワシがアキバ国のように風俗エッチ文化を許可しないのは、それにより若者の生活が乱れるのを危惧しておるからじゃ。

 本当にダ・サイタマ国を愛してくれる者だけがここにいてくれればそれでよい。

 便利になってカネ儲けをすることだけが幸福ではないのじゃ。

 ワシはこの緑の小松菜畑の広がるダ・サイタマが好きなんじゃ!

 しあわせはお金だけでは得ることは出来ん。

 本当の幸福は愛なのじゃ。愛こそすべてなのじゃ」


 するとそこへガガ王女とアカサカ王国のヨシキ王子がやって来た。


 「王様、私はガガ王女とこの国とアカサカ国をまとめて見せます。

 華やかさとこの長閑のどかな田園地帯を共存させて、本当に豊かな王国を作ってご覧にいれてみせます」

 「ヨシキ王子、ガガ・・・」

 「パパ、カッコ良かったわよ! パパ大好き!」


 コメンテーターのミッツ・マングローブの叔父さんも号泣していた。

 これでガガ王女とヨシキ王子の結婚式の司会で、ガッポリとギャラが入るからだ。

 湧き上がる国民の拍手とシュプレヒコール!


 みの・もん太郎がガラスのグランドピアノを引き摺って来た。


 うんしょ うんしょ


 「それでは歌っていただきましょう! ヨシキ王子とガガ王女、デュエット『エンドレス・ラブ』です、どうぞ!」



 出っ歯のマチャミとチビ太郎・田中も『ザ・王国SHOW 極み』で「わんこそば」を食べながら泣いていた。

 いつの間にか小池、じゃなかったオバ・タリアン党首はどこかへいなくなっていた。


 「2番じゃダメなの!」


 と捨て台詞を残して。




 曲が終わり、ガガがカメラに向かって叫んだ。


 「キャンディ! ジャスティン王子としあわせになるのよ! 私たちも絶対しあわせになるから!」



 キャンディは号泣し、オーロラビジョンの前で泣き崩れた。


 「ガガ王女、私も絶対にしあわせになりたい!」


 その小さな肩には白いフクロウのペドウィッグ.Jrと、周りをせっせと掃き掃除をしながらプリウスがキャンディを慰めていた。


 不思議そうにそこをゾンビの集団が通っていった。

 まもなくハロウィンが始まろうとしていた。




最終話

 翌朝、キャンディは勇気を持ってジャスティン王子に直接告白することにした。


 (ジャスティンは私の恋文を読んでくれた。

 そしてジュニアの話では、ジャスティンも私に好意がある様子。

 きちんと会って私の想いを伝えなきゃ!)




 ジャスティン王子は宮廷の薔薇園でバラたちに話し掛けていた。


 「おはよう、みんな元気かい?

 夕べは寒かっただろう? 風邪なんか引かなかったかい?」


 するとインペリアル・ローズが言った。


 「これは王子様、いつも温かいお気遣い、痛み入ります。

 夕べは美しいウルトラ・ムーンの夜でしたので、とても気持ちの良い月光浴が出来ました。

 おかげさまでこんなにきれいな朝露を結ぶことが出来ました」

 「そう、それは良かったね?

 みんな、今日もとても綺麗だよ、そしてとてもいい香りがする」


 するとバラたちから大きな歓声が湧き起こった。



 「ジャスティン王子、バンザイ! ジャスティン王子、バンザイ! われらがプリンス! ジャスティン様!」

 「ありがとう、ありがとうみんな」



 そこへキャンディがやって来た。


 「王子。私の手紙を読んでいただいたそうで・・・」

 「やあ、キャンディ、おはよう。

 ああ、あの白紙の手紙のことだよね?」

 「白紙?」

 「うん、ペドウィッグ.Jrが届けてくれた、あの白紙の手紙のことだろう?

 あの、会社が使う、請求書を入れる茶封筒みたいなラブレターのことだよね?」


 ジャスティン王子は眩しい白い歯を見せて笑っていた。


 (あのジュニアのヤロー、後でロースト・フクロウにしてやる!)


 キャンディはワナワナと怒りに震えていた。



 「ありがとう、キャンディ。

 何も言えないくらいにボクを愛してくれていたんだってね?

 ボクもキャンディが大好きだよ、愛しているよ、キャンディ」

 「王子・・・。

 私も愛しているわ、私と結婚して! お願い!」


 すると突然、王子の顔に翳りが出た。


 「ごめん、キャンディ。結婚は出来ない。結婚は出来ないんだ、キャンディ」

 「どうして? どうしてなの? だってお互いに好きで、お互いにやりたい盛りでしょう!

 私たちはさかりのついた猫ちゃんでしょう?

 すぐに結婚して、バンバンえっちして、たくさんのかわいい子猫ちゃんたちを作りましょうよ!」

 「キャンディ、ボクはキャンディが大好きだよ。

 でもそれは、ボクのとしてね・・・」


 キャンディは茫然とした。


 「実の妹? どうゆうことなの?」

 「ボクとキャンディは兄妹なんだ。

 ボクの父、ハーバー王国の国王が、シーナ王妃のお母さん、つまり君のママでもあるデヴィ夫人と浮気をして出来ちゃった子供なんだ、だからボクたちは道徳的にも、法律的にも結婚することが出来ないんだ」


 キャンディは何がどうなって、どういう事になっているのか理解出来ずにいた。


 「そんな、ジャスティンが私の本当のお兄ちゃんなの?

 お姉ちゃんは、シーナ妃は何も言っていなかったわよ、そんなことひと言も!」

 「それはボクと王様、そしてデヴィ夫人の3人しか知らない秘密だからね?

 ボクはシーナ王妃に愛され、大切に育てられたんだよ、実の子供のようにね? 本当は姉弟なのに」


 (確かにママはインドのネシア国王の第2夫人として、88歳の米寿になった今でも生理があると言っていたわ。

 するとジャスティンはママが60歳の時に産んだ子供なの?) 


 キャンディはショックのあまり、その場に倒れ込んでしまった。


 「でもねキャンディ? ボクはとってもうれしいんだ。 

 君のようなかわいい妹がいつも傍にいてくれて。

 だってそうだろう? 恋人同士は所詮他人だ、離婚してしまうことだってあるかもしれない。

 でもボクたちは血を分けた兄妹なんだ、この体には同じ血が流れているんだよ。

 たとえ離れていたとしても、ボクたちは他人じゃない、家族なんだ。

 だからこれからは仲のいい兄妹として、お互いに素敵な家族を作ろうじゃないか?

 そして休日には一緒にBBQをしたり、お正月にはワイハで芸能人と遊んだりしてね?

 どうだい、とっても素敵だとは思わないかい?」

 「ジャスティン・・・」


 キャンディはジャスティンに抱き付き、たくさん泣いた、いっぱい泣いた。

 だがその涙は悲しい失恋の涙ではなく、すばらしい家族としての喜びの涙だった。



 その後、ジャスティン王子とキャンディはそれぞれ結婚し、アキバ王国でみんなで仲良く暮らしましたとさ。


 めでたし めでたし


                              『メイドの私はジャスティン王子が大好き』完







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【完結】メイドの私はジャスティン王子が大好き!(作品240129) 菊池昭仁 @landfall0810

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