薄れゆく

ナナシリア

薄れゆく

「はると先輩は好きな子とかいるんですか?」


 一浪二留、少しみじめな経歴を背負った俺に、後輩が尋ねた。たぶん、会話を繋ぐためだろう。


「いや、いない……」


 その答えに、俺自身どこか違和感を感じる。


 今好きな人はいないし、好きな人ができた経験も、ないはず。……俺の記憶が正しければ。


 そのはずなのに、どうして? 浪人時代の苦しさで記憶が狂った?


「あの、先輩……」


 後輩は、今どういう状況なのか呑み込めないでいるらしい。ごめん、もうちょっと待って。


 冷静に考えて、たかだか小さな違和感程度をここまで気にするのもおかしいようなきがする。


「ごめん、なんでもない」


「ところで先輩、今度一緒にお食事でも行きませんか?」


 ……もしかしたら、会話を繋ぐためじゃなかったのかもしれない。

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薄れゆく ナナシリア @nanasi20090127

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