第3話

【第3話】

「おかえり。ようこそ。新世界へ!」


 え?


「あのどういうことですか?」

「君は今50年の新しい人生の旅を終え、今ここに戻ってきた。外へ出てみろ! 新たに創設されたこの世界を見てくるといい」


 何か変わったのだろうか? 一周回って元の場所に来た? バックトゥーザフューチャーのマイケルJフォックスみたいに?


 ともかくと僕は、キッチンに父の様子を見に行った。みると、砂糖とミルクを入れた形跡のあるコーヒーが空になっていた。チーズ蒸しケーキはヒトカケだけ残っている


「父さん、乾いて、カピカピになる前にチーズケーキ食べたほうがいいよ」


 父がゆっくり残りのチーズケーキを口に放り込みもそもそと食べたのを確認し、一度、自室に戻った。

「どうだった?」

「家まだ外へ出ていないので、今から確認してきます」

 満面の笑みを向ける龍宮寺さんをよそに僕は外に出た。


 

 ともかく、騙されてもともと、彼に付き合っても別に何か損するわけじゃない。僕は外に出て、改めて自分で家を見た。

 築50年。僕の生まれた年に建てたと言うその木造アパートは2階建て母屋のほかに、4畳半の部屋が各階4部屋ずつの計8部屋。ずいぶん前にアパートはやめ、長く空き部屋だ。貸しても良かったのに、と思うが、父は店子とのやり取りの煩わしさから、早々にアパート家業を廃業していた。

木造の外壁は節が所々抜け塗装がハゲかけている。屋根も少し痛んで今では所々水漏れもする。


うん! 全く変わりなし。


もしかして雨漏りが直ってたりするのかもしれない。でも今は確かめようがないな。

 そしてお隣の吉田さん。もう90だと言うのに今日も元気に植木鉢に水をあげている。


 うん、これも変わりなし。


 そして僕は再び自室に戻った。


「どうだ見違えるように世界が変わっていただろう?」


 どういうつもりなのか? 

これは何かの前振りなのだろうか? 何しろこの人、龍宮寺さんに僕は心当たりがない。もしかしてあれかな? 先日電話のあった「古銭、切手やテレホンカード、貴金属や家電ございましたら買取に参ります」の方の新しい形の営業? いやいや、それも考えにくい。


「どうした言いたいことがあるなら、はっきり言いたまえ」


「あーはい確かに変わってました。ありがとうございます」


 「そうじゃないだろ、思っていることがあればはっきり言葉に出して言いたまえ」

 「あの?」

 「煮え切らないな。世界が変わっていたのか変わっていなかったのかはっきり言いたまえ」

 ぼそっと僕は言った。

「変わってません」

「なんだって。もっとはっきり大きな声で言ってくれ」

「……変わってません」

「聞こえないぞ。もっとはっきり」

「全然っ変わってない!」

「当たり前じゃー! アホー!!!」


 あれめっちゃ怒られてる…


「いいか? 同じことをして同じところに行って、同じように生活して違う結果を求めるのは人、それを狂気と呼ぶ。アルベルトアインシュタイン」

「はぁー聞いたことあります」

「人間の中にも、いくつかの真実に到達したものがいる。彼は言っている。

いいか、人間が変わるには大きく変えて3つしかない。まず1つは時間配分を変える。2つ目住む場所を変える。3つ目、付き合う人間を変える。お前は、生まれ変わったその人生で、そのうちの1つでも変えたのか?」

「ええと、それ誰でしたってけ?」

「誰でも良い。それでどうなんだ」

「いや……でも、いつも志と決意を新たにし、強く持つことを心がけてきました」

「なるほど」

「なるほど?」

「じゃあ人生を変えるのに一番役に立たないもの知っているか?」

「なんですか?」

「決意を新たにすることだ」

「……」

「まぁ、これについては賛否あるだろうが、まぁわかりやすく言えば住む場所も付き合う相手も変えずにする新たな決意と言うのは、長続きしないと言うことだろうな。というかお主自身、実感しているだろう」

「ぐう」

「ぐう?」

「ぐうの音が出ました」

「……君はあれだろ、好きな著名人の講演会に行って質問コーナーで手をあげたいのにずっとあげられなくて、おずおずとようやくあげられたと思ったら、質問タイムが終了して、数日間己のふがいなさに悶々とするタイプだろ。


 なぜそれを。


「いいか道を切り拓くにはどうあがいたって自分がどこに向かいたいか何をしたいかが分からなければどうにもならん。それを誰も彼もに宣言すればいいと言うわけではないが、言うべき時に言えないと人生はどこにもたどりつかないまま終わってしまうぞ。さあ、今こそ、その名前を言え。」

「名前? 名前ってなんのことです?」

「人生の後悔には鍵となる人物がいる。その人物こそ、きっとその人こそが、君の人生のつまりを直してくれる人だ。排水管に詰まった石鹸や髪の毛を溶かすパイプユニッシュのように」


「あれ、すごく感動的な弁舌だった気がしたのに、急に最後が……」

「いいからほら、言ってみろ。さあ」


 1番の望み。1番……

そもそも望みとは何? 自分の? 欲しいものしたいこと? そういうのなら、たくさんある。金や高級車、新築の家いやきっと多分それは本当に欲しいものの代用品だ。本当の望みと言うのはきっともっと純粋でかけがえのない思いの欲する先それは……


「櫻井桜花に会いたい」


「え?」

 自分で言って自分で驚いた。そんなこと思っていたのか。別に彼女は恋人だったわけじゃない。中一の時に出会った不思議な子だった。もちろん美人ではあった。年齢にそぐわないどこか現実離れした佇まいだったと記憶している。でも…


「その願い、確かに受け取った!」

「え?」


   【つづく】

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時空転生 好きだったあの子に会いたいと言ったけど、そういうことじゃないでしょ! 宮藤才 @hattori2525

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