七夕
菜の花のおしたし
第1話 真桑瓜
高校からの仲良しだった三人。
みんな、片親育ちって事もあったのかもしれない。
私は高校を卒業して、寮のある職場に就職した。
他の三人は大学に進学したんだよね。
別に悔しいとかは思わなかったんだ。
彼氏もいたからね。
他の三人にはいなかったしさ。
仕事はまあブラックそのもの。
休みなんてとれないし。
ボーナスなんて無し。
お母さんに仕送りすると後は残んない。
妹の美穂は家出したり帰ってきたり。
彼氏は結婚しようって言ってくれたけど
東京だよ。
お母さん置いていけないよ。
ぐすぐす、おかしな理由を並べてたら
別れがきちゃった。
仕方ないか、、。
また、彼氏なんて出来る。
そう思ってた。
友達三人も彼氏無しが続いてたから安心してたんだろうね。
そして29歳になった。
一昨年あたりから仲良し三人に彼氏が出来た。それで、結婚しちゃった。
お母さんは認知症になって施設に入った。
何にもなくなった気がした。
仕事の帰り道、商店街で七夕の飾りがあった。
「短冊に願い事を自由に書いて飾ってください。」
と張り紙がしてあった。
願い事。
会いたい人がいるの。その人に会わせて下さい。
その短冊を笹に結びつけた。
アパートに帰ってコンビニのお弁当を広げて、
ぼんやりしてた。
コンコンとドアを叩く音がした。
「ピンポンあるのに!宅配便かなぁ。
何、頼んだんだったけ??
はい、はーーい!ちょっと待ってくださぁい。」
一応、覗き穴から確認。
あれ?宅配便の人じゃない。
どうしよう、、、。
「真由、久しぶりだな。」
この声!本当??
「真由の好きな真桑瓜を持ってきたよ。」
私はドアを開けた。
そこに立っていたのは、中2の時に死んじゃったお父さんだった。
「お父さん!あれからね、色んなことがあったの。あのね、あのね、、。」
「わかってるよ、よく、頑張ってきたなぁ。
父さんの分までやってくれたんだよな。
ごめんな。」
「お父さんのバカ!突然に死んじゃうなんて!
あの後、お父さんの保険金をお母さんが騙されて無くしちゃうし。
美穂はグレちゃうし。」
私は子供のように泣きじゃくった。
「ごめん、ごめんな。
苦労かけたな。」
お父さんは涙を流して頭を撫でてくれた。
「あ、真弓、この黄色の瓜好きだったろ?
さあ、お父さんが剥いてやろう。
一緒に食べような。」
懐かしい。お父さんが生きてた頃は、
夏によく食べたなぁ。
そう言えば、お母さん、お父さんが死んでから
真桑瓜なんて買って来なかった、、。
見るのも辛かったのかな。
「さぁさあ、冷たくて美味しいぞ。」
お父さんは爪楊枝に瓜を刺して渡してくれる。
一口かじる。
ひんやりとして、じゅわっと果汁がでる。
メロンとかよりは甘味は頼りないんだけど
さっぱりして美味しい。
あっと言う間にひとりで食べちゃった。
「ねぇ、お父さん、ずっといて。
私達のそばにいて。私ね、仕事も恋愛も上手くいかないの。
お父さんがいたら美穂だってしっかりすると思うんだ。」
「真由、ごめんな。
それは無理なのはわかるよな。
七夕の願いはその夜だけ。
しかもな、みんなの願いが叶う訳じゃないんだよ。
選ばれた人だけなんだよ。
お父さんはこうして真由にもう一度会えた。
とても嬉しかった。
真由、お父さん、見てるから、ちゃんと見てるからな。」
「お父さん!!
行かないでーーーー!!」
お父さんの姿はぼんやりして消えていった。
冷蔵庫には真桑瓜がひとつ残されていた。
翌日、美穂にLINEをした。
お母さんの施設に面会に行くから
待っていると。
「来るわけないか、、。」
施設に着いたら、タンクトップにデニムの短パン、ピンク色の髪の毛の美穂が突っ立っていた。
「美穂?来てくれたんだ?」
「あー、暇だったからね。そんだけだよ。」
お母さんの部屋に行くと、お風呂上がりだったみたいで髪が濡れていた。
ドライヤーで乾かしてると、
「いつも、すいませんねぇ。ご親切にしていただき感謝してます。」と言われる。
そっか、私達のことも忘れちゃってんのかな。
「ねぇ?この黄色うり、なつかしーー。
ねえちゃん、よく見つけたねーー。
食べたいよー。」
無邪気に美穂が言う。
こう言う時は救われた気持ちになるね。
真桑瓜の皮を剥いて、爪楊枝を三本。
「お母さん、ほら黄色の瓜だよ。
食べて、、。」
「これ、真桑瓜ね。
久しぶりね、真由?
ふふふ、メロンは高くてね、買えないから
これをね、メロンって言ってたのよ。
覚えてる?」
「お母さん!
私の名前呼んだ?」
「何言ってるの?変な子ねぇ。
亡くなった父さんも好きだったわねぇ。
美穂、ほら、汁が洋服についてるわよ。
全く、、。ふふふ。」
お父さん、お母さんが笑ってるよ。
見てる?
お父さん、ありがとう。
小さな事だけど、幸せだよ。
七夕 菜の花のおしたし @kumi4920
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