知ってたよ

(ピンポーン)

(慣れた手つきで扉の鍵を開け、ドアを開ける)


「おはよー、今日はねぇ………なんと!漫画を借りに来ました!!」


「え?別にいつも通りだろって?うーん、確かに。でもでも、今回は一味違うことがあって、君の漫画を借りるのは私の友達なんだよね。なんか最近アニメとか見だしたらしくてさー。私が君から借りたラノベを読んでるのを見て、私も借りたい!って言いだしてさ。まあ借りるといってもラノベじゃなくて漫画なんだけど………。いや、もちろん君が嫌ならいいんだけどね?なんというか、そのぅ、今家の前まで来ちゃってるんだよね。その友達」


(えへへと笑いながら軽く謝る)


「いやごめんって、でもさ、どーしてもって頼まれちゃってさー」


「だからお願い!ね?………え?ほんと?やったぁ!ありがと!!」


(思わず抱き着くギャル)


「ねえ、無理してない?いやなら言ってくれれば全然私が断ってくるよ?漫画を貸すくらい大丈夫?大げさ?ならいいけど………ほんとに無理はしてないんだよね??」


「え?何を借りたいって言ってるのかさっさと言えって?え、えとねー、あ、これこれ!そう、少し前に流行ったアニメのやつ!これ借りてもいい?………ありがと」


「こほん、えー、じゃあこれ友達に貸してくるね」


「………ん?てかちょっと待って!こっちにあるのってもしかして去年やってたあのアニメのやつ!?うわー、私最近このアニメ見始めたんだよねー。ねね、これさ、後で読んでいい?ここで!この部屋で!」


「やた!」


「てかあれだねー、前にも言った気がするけど、ほんとに君の部屋はなんというか、マンガ喫茶か図書館かよ!ってなるくらいに本が置いてあるよね」


「アニメ化してないのもあると思うんだけど、こーゆーのってどこで集めてくるというか、そもそも存在をどうやって知るの?やっぱり定期的に書店に通って発掘とかしたりしてんの?」


「へー、それもあるけど小説投稿サイトから書籍化したのを買いに行ったりしてる……ね。そんなのあるんだ?知らなかったなぁ……」


「あそうだ。今度ラノベを書店に買いに行ったりするときさぁ、私も連れてってよ!こう、面白そうなラノベの目利きのやり方とかさ、伝授してよ!」


「ほら、ここって割と最近発売されたやつは置いてないでしょ?まあ君が最近あんまり外に出てないから仕方ないとは思うんだけどさ、新しいのを買いに出るついでとかでいいからさ、おねがいしますっ!」


「え?ほんと?いいの?いやぁ……何から何まで悪いねぇ…?ふふふ………ありがとっ!」


「あ、じゃあさじゃあさ!今週の土曜とかどう?君は暇かな?無理そうなら私は別に日曜でも───」



(不意にガチャリと扉が開かれ、件の友達が部屋の中に入ってくる)


「え?ちょっと佐奈?勝手に入ってきちゃダメだって!いや私は人のこと言えないんだけど!!」


「もー、部屋の前で待っててっていったじゃん。もしかして遅かった?彼とちょっと話しててさー。まあ待たせた私も悪いんだけど、にしても佐奈せっかちじゃない?」


「ごめんね?さっき言ってた友達って佐奈のことなんだけど、なんか勝手に入ってきちゃったみたいでさー」


「あ、佐奈、わかる?同じ学科の────そうそう、割と真面目な感じの!え?私と全然違うタイプ?いやさ、中学からずっと一緒でさー、自然に今も仲いいんだよね」


「意外?まーよく言われはするかな」


「ん?どしたん、佐奈?」


「……………え?何に向かって話してるのかって?いやいや、何って失礼じゃない?誰、でしょ?というか、あれ?見たことない?ほら、同じ学科の………え?違う?………なにが?」


「え?ちょ、ちょっと?どうしたの!?急に口を押えて……い、一旦外に出よう!?え、急にどうしたの?休むにしても中で………あ、ちょっと引っ張らないで」




(ピッと自動販売機のボタンを押し、飲み物を購入する)


「はいこれ、お水だけど………大丈夫?落ち着いた?」


「………え?急に、何?彼?彼がどうかしたの?」


「あ、そうだ。これ、借りたいって言ってた漫画」


(漫画を手渡そうとした手が漫画ごと佐奈にはたかれる)


「ちょ、ちょっと!?どうしたの急に!?これ、君が借りたいって言ったんじゃないの?しかも借りものだし、汚れたらどうするの?」


(軽くため息をつきながらはたかれたことで地面に落ちた漫画を拾う)


「………え?いらないって………急に、なに?佐奈が借りたいって言ったんじゃん?」


「………は?え、し、たい?死体?なに?どういうこと?死体のある部屋にあった漫画なんていらないって………え?」


「確かに彼はあまり顔がいい方じゃないけど、死体って言うほどじゃないし、というか、悪口にしても死体って言うのはいくら何でも───」


(パチン、と両側から頬が叩かれる)


「いひゃい………なに?目を、覚ませ?現実を………見ろ?」


「彼はもう死んでる?………え?」


(呼吸が浅くなるとともに動悸がしてくる)


(必死に目を背け続けていた現実に今、無理やりに視線を合わせざるをえない状況に追い込まれてしまっている)


「だって………そんな、はず………ねぇ?」


「は………は、へ、部屋に戻ろう。彼の部屋に、ちょっと行ってくる」


(急ぎ駆け出し、鍵の空いたドアを雑に開く)



「…………あ、あぁ……うそ……。こんな、ことって…………」


「死体…………君の、したい、死んで…………る?」


「こんな…………いつから、うぅ!あ、頭痛い……ッ!」


(頭をおさえうずくまる)


「あ、あぁ…………そっか…………思い出した…………」


「君が生きてたのなんて、私が最初に君の家に行ってから一週間かそこらだけ。その次に行った時には、もう…………首を……つってッ!」


(涙があふれ出し、嗚咽を漏らす)


「そうだ、思い出した…………いや、違う!わかってた、私はッ!君が死んでから半年間も……君の部屋に通って………一人でッ!!!」


「そう、君の部屋がやたらと寒く感じたのは………君が腐らないように私が部屋の温度を下げていたから、においもッ!君が………腐って……うぅ………。虫が湧くのも、とう、ぜん……ッ!!」


「どうして、こんなッ!ううん、全部私が悪い。三年前、私がきちんと自分の気持ちを伝えていれば、そもそもいじめなんてしなければ、君が家に閉じこもった後に、そんな君の家まで行って君を追い詰めるようなことをしなければッ!!」


「私が……ッ!わたしぃ……」


「でもッ!ぅ………ごめん………ごめんなさい、わたしがッ!うぅ………ごめんなさいぃ!!」



(長時間放置したことにより、肉の大部分が腐り落ち、虫が湧き、骨とそれに付着した肉のみが残り、それの発する腐臭が充満した部屋の中でいじめっ子ギャルは────いや、少女は絶望的なまでの後悔の念に圧し潰され眼前に横たわる最愛の骸に心の底から懺悔する。しかし、部屋の中にこだまする悲痛な叫びが彼に届くことはなかった)

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いじめっ子ギャルが家に凸ってきたんだが!? こひる @kohirui

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