第4話「宣戦布告」

 俺らは分斗先生が来てから、すぐ後に入学式が行われた。校長先生や生徒会長の話などを黙って聞く辺りだと、かなり退屈な時間になる。しかし、それから解放された後では、俺らも残るは下校するだけとなった。


「一緒に宿舎まで行こう? 他に用事とかないよね?」


「あぁ。大丈夫だぞ。それじゃあ一緒に帰るか?」


「分かった!」


 そんな風に俺らは共に宿舎まで並び合って帰るのであった。


 そして俺らは宿舎を訪れると、そこで丁度勝美とも合流することになる。しかし、その傍にはもう一人だけ男子が一緒になって歩いていた。


「その男は誰だ? いきなり男なんて連れてどうした?」


「え? あー、こっちの男子はクラスメイトの炎城燐太くんですよ? ほら、前に話した準決勝で当たった対戦相手です」


「どうも。【ベストフレイム】の息子に当たります。この前は勝美に負けてしまったけど、今度は勝ちたいと思って仲良くさせてもらっている。よろしく?」


「な、何だ。いきなり彼氏でも連れてるのかと思ったぜ。つい焦っちまったけど、そこは気にしないで良いよ」


「何で焦るんですか? もしかして私のことが気になってしょうがない気持ちとかがありますか?」


「そんなことないぜ。大丈夫だ」


(危ねぇ。いつの間にか好きになってたとはな。それだとこいつが彼氏じゃないのが幸いだったなぜ)


 俺は内心でつい好きなことを認めてしまうが、まだその話を彼女は知らない。しかし、いつか告ってみようと思ったので、俺としてはその時にでも受け入れてくれれば嬉しかったのであった。


 すると、そこで勝美は近くにいた舞子に視線が移って今度は俺が尋ねられる番になる。


「そっちの子は誰ですか? 何度か宿舎の中で見かけますけど、どう言ったご関係で?」


「私ですか⁉︎ 実は今日からお友達になった箱入舞子と申します! サポート系の術式ではありますが、一応一年A組の生徒です。よろしく!」


「こちらこそよろしくお願いします。しかし、私も随分と可愛い女の子を連れてるなぁと思ったら、彼女さんかと勘違いしました」


(さり気なく言い返すとは、少し嫌な気持ちにさせちゃったかな?)


 そうやって勝美が怒っているんじゃないかと思うと、そこで舞子から彼女に対して口にしたいことがあった。それはまさみの詳細の話である。彼女のことについて知りたがった舞子は包み隠さず問い掛けた。


「ところで貴方はどちら様ですか?」


「私? 私は加瀬勝美です。黒崎くんとは春休みに知り合いました。よろしく?」


「どうもよろしくお願いします」


 すると、そこで名乗り合っていたら、俺がすっかり忘れていたことを思い出させるかのように光真がやって来た。彼は約束をすっぽかしたことを怒っており、どうやらただじゃあ済まなさそうだ。


「おい! 黒崎ぃぃぃ! 俺の宣戦布告を忘れてるなぁぁぁ⁉︎」


「やべっ。忘れてた⁉︎」


「畜生ぉ! 俺がわざわざ先生に許可をもらいに行ったと言うのにここまで来るのに少し体力を消費してしまったではないか! ハンデとして多少休息をもらうぞ!」


「構わないぜ? 疲れてたら本気が出せねぇもんな?」


「良いから来い! 場所は実技試験が行われたところだ!」


 それだけ言うと、光真は再び走って行ってしまった。少しぐらいゆっくり行けば良いのに何故そんな急がないといけないのかが分からないところである。


 しかし、そこで事情を知らないB組の二人は光真たちと一体何があったのかを質問して来た。それに舞子から答え、それに二人はその宣戦布告を見届けたいと言って付いて来るのだ。


 そして俺らは宿舎から実技試験会場までやって来た。そこは正式名称で言うと、【実践室】と称されている。そこで待ち構えた光真がレディスノー先生と一緒にそこで俺が来るのを楽しみにしていた。


「どうやら一般枠一位通過と推薦枠の二位通過が奇跡的な勝負を付けると聞いてやって来たわ! 二人とも全力で立ち向かいなさい? 詰まらない戦いなどこの際は禁止ですからね!」


「上等です。必ず勝って見せます」


「無敗記録は途切れたが、この先で負けるはずなどないと思ってる。ここでお前を倒して一般枠だろうが俺の方が上手だと思わせる!」


「良いねぇ! 二人とも負けられない戦いになって来たわ!」


 マジで決闘することになるとは思っても見なかったが、ここで負けを晒す訳には行かない。この場で負けたら俺は最強の術師など到底できないと思うことになるのだ。それだけは絶対にあって良いはずがないのである。


 俺はそこで胸を張って前に出た。両者のデータはさっき纏めたもので、新鮮さが残るほどの真新しさがある。そんな中で俺らの決闘には火が付くのであった。


「では、位置に着いたな? スタート!」


(様子見はいらない。これで決めるしかないぜ!)


 俺が暗黒のエネルギーを掌に蓄積させ、波動を放出する構えに出る。すると、光真の方が先に術式を構築して早速攻撃を仕掛けて来た。


「これでも食らえ!」


 光真が真っ先に光る刃のようなものを飛ばして来た。それも一目見た時から俺の勘で言うと、それを受けたらまずいことになってしまうと胸が騒いだ。なので、十分ではなかったが光真に向けるのではなく、彼が放った刃に向けて術式が発動した。


 どかーん!


「危ねぇ⁉︎ 今のは斬撃じゃねぇか⁉︎」


「その通りだ! 俺は【周囲のあらとあらゆる光を吸収して身体強化及び斬撃を放つ術式】を扱うのさ! それに俺の方が攻撃速度も上回っている。どこまで回避できるかな?」


 すると、そこでその様子を見た勝美が解説を加えてくれる。


「これは厄介になって来ましたね? あの速度なら黒崎くんの波動が追い付けなくなるのも時間の問題です」


「どうしよう! 負けちゃう⁉︎」


 舞子の心配する声が聞こえて、この状況下だと光真が優勢に立っているように思える。しかし、まだ勝ち目がなくなった訳じゃないのだった。


(大丈夫。この際だと最大出力さえ整えばいつでも消し炭にできる。まずはこのフィールド上で動き回りつつも斬撃の飛んで来るところに行かなきゃ問題ない。攻略する方法はただ一つ。斬撃は放たれると一定方向にしか飛ばないのだ。術技によって身体強化を施し、行動速度を上げることが出来れば、斬撃をギリギリで回避するのは意外と可能なんじゃないか?)


 内心で算段を整えると、早速【ダークフォース】を使って身体強化させ、行動速度の底上げをしたら、すぐに動き回る準備を整えた。


「行くぞ!」


 掌に暗黒エネルギーを蓄積させながら、留まらずに動きつつも、光真の放った斬撃に対して寸前で避ける対策に出た。それは意外と可能になり、そのまま最大出力を溜めて置くのである。


「ちっ。中々素早い動きじゃねぇか? これじゃあ当たらないな⁉︎」


「残念だが、すでに攻略済みだ。お前の斬撃など回避できないほどでもない。後はこれが整えば、一撃で消し飛ばせることになっている」


「まさか⁉︎ 最大出力を放出するんですか⁉︎ それを食らえば跡形もなく消し飛んでしまいますね?」


「何だとぉ⁉︎ そんな隙すら与えない算段は整っていたはず⁉︎」


「回避可能な斬撃では大して苦戦にもならなかったな? その程度じゃあ俺に勝つことなどできないぜ!」


「畜生ぉ⁉︎」


 俺はそろそろ最大出力を放つのに十分なエネルギーを蓄積させることに成功する。後は回避不可能な範囲内に及ぶ波動を解き放つだけだった。


「それじゃあこれで終わりにしよう? 最大出力でお見舞いする!」


「何をぉぉぉ⁉︎」


 掌を光真に向け、そのまま波動を放出して、斬撃ごと彼を吹き飛ばすのであった。


「決まったな? さすがに負ける訳ねぇか?」


「……」


 最大出力を出すまでもなく、そのまま場外に押し出すことで、俺は決闘に勝利した。彼は俺の一撃を食らって腹に穴が空くほどの威力を受けたのだ。それによって光真の戦闘不能が決まり、それ以前に上階に出たこともあって、俺に勝利の判定が下った。


「よっしゃぁぁぁ!」


 やはり無敗記録が破られたことが信じられないように思える差だった。それが例え別の相手でも俺にとっては勝ち取ったことに変わりはないと思うのである。しかし、俺的にはこれじゃあ満足に至らないところがあるのであった。


「ちっ。負けちまったけど、俺だってまだ強くなれる! お前に最大出力を出させないうちに倒すことが目標になった。これから君の強さは認めるけど、それは屈した訳じゃない。今後の俺は君を超えて行く。だから、次までには全力で勝ちに行ってやる」


「おう! 楽しみにしてるぞ!」


 そこで光真から握手を求める動きが見られた。それに対して俺は握り返してやったが、その時の彼は目から涙が溢れている状態になっている。しかし、俺が言えることはこの先で何があっても一番を取ってみせると言う気合いだけだった。それが光真には伝わり、そのまま俺に向かって泣きながら返事をする素振りを見せる。それを目の前にして、あの時の悔しい思いをした自分を思い出すのであった。勝美に負けたショックで泣き暮れて、立ち直った時にはさらなる訓練を積もうとしていたあの頃をである。それがなしで生きて来た俺にとってはそれ以上の実力を付けるために必要なことだったのだ。


(分かるぜ。負けて悔しくない人間ほど適当なんだ。けど、負けたことで泣ける奴はさらに強くなれる素質がある。俺もそれを思い知った時には行動していた。だから、光真も強くなって見せろ)


 内心でそんなことを思っていると、そこで審判を受けてくれたレディスノー先生が、今回の勝負を観戦した感想を聞かせて来る。


「惜しかったよ。光真は一般枠で一位通過だったが、推薦枠にもなるとこれだけ実力が違うことに気付いただろ? それこそがベストウィザードになるための一歩だ。私は残り僅かでなれなかった道のりだけど、きっと君たちならなれると信じたている。だから、もっと精進したまえ」


「「「「「はい!」」」」」


 そこでレディスノー先生からもあった通り、俺らならばベストウィザードにもなれるだけの才能はあった。それを可能とするまで諦めないで戦い続けるのが妥当であると思っていた瞬間に俺は周りの奴らがどんな眼差しで将来を見据えているのかがここで分かった気がする。それを得て俺も強くなって行くんだと、心に誓うのであった。


 あの後は俺らは五人で宿舎に戻った。その時にはすでに光真とも仲良くなっており、色々と術式の話をするほど親しげな関係性を築き上げることに成功する。


 こうして俺と光真の決闘は幕を閉じた。それによって次の日ではクラスメイトたちからどちらが勝利したのかと言う質問がされ、俯きながらも光真は負けを報告する。俺は真剣な表情で勝ったことを知らせると、周りはあの実力を有しても勝てない奴がいるとは、これから同じ道を歩むのかとは困難を極めることになると、項垂れていた者もいた。しかし、そこで俺はみんなが諦めないようにするための一言を解き放つ。それはみんなの心に影響を及ぼす結果を残した。


「俺らはライバルだ。だからこそ、勝って見せたい気持ちは捨てない方が競い甲斐がある。俺らみたいになりたきゃ、全良で向かって来いよ? 最初から実力重視で何もしない奴なんか、大した存在でもねぇ。しかし、ここで全力を尽くして強くなりたい奴こそが、ベストウィザードになれるんじゃないのか? だったら、諦めずに精進しようぜ!」


 それだけみんなの前で語ると、それに動かされた奴らは、全員で勇ましい返事をした。

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実力至上主義の最強術師 源真 @mukuromukuromukuro

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