第3話「入学式の前」
待ちに待った入学式を迎える日になる。そこで俺は実技試験の決勝トーナメントで敗北が決まり、合格はしたけれど自分以上に強い奴がいることだけは知ることが出来たのであった。そいつには春休みを通して詳しく術式のことについて教え合っては、お互いを良く分かるようにしたのである。
そして朝の六時五分に起床した。その時間帯はまだ起きるとしても早過ぎる頃合いだと思えるが、俺からしたら今時が一番鍛え上げるには適切であると思っている。やはり俺としても実技試験での敗北は悔しくて今でもその気持ちが残った状態でいるため、それを晴らすには彼女と再戦を果たし、勝つことで自分の方が上手だと知らしめるのが最適であると心得ていた。
「よし。早速ランニングしに行くか?」
そうやって俺は一人で走り込みに行くのであった。それが強くなるために必須とも言える習慣であり、彼女を超えるには重要な意味合いを持つことなのだ。
(まさか俺以外にも起きてる奴なんかいるのか? 春休み中から続けているが、勝美すら姿は見られなかったんだ。きっと俺だけが励む時刻なんだろう)
そんなことを内心で思っていると、俺は寄宿舎の外に出て、ランニングを始める。早朝ランニングほど鍛えるのに相応しいトレーニングはないと考えていた。やはり自分としてもそんな感じで励みに出るのは、どんなアスリートや術師でも大体は同じメカニズムだと思われる。そんな風に自主性を持っていなければライバルよりも強くなりたいと思う奴らにとっては、必ずと言っても良いほど重要性を極めるのだと、そう心得ていた。
(さて、走るか?)
俺は校庭まで来ると、そこで誰もいないことを確認してから、早速走り出す。俺としては勝美よりも身体能力で劣っていることから、これだけは追い付かないと差が埋まらないのだと、思うばかりであった。早朝から体力を削り過ぎるのは良くないと判断したら、俺は六割ほどの速さで走り、汗を掻くのである。
そして大体ランニングを始めてペースを落とさずに走って三十分が経った。この辺でランニングを切り上げ、後は筋力を鍛えるトレーニングをして身体強化に当たる。
「百!」
俺は腕立て伏せや腹筋、さらに背筋を百回ずつこなして、トレーニングを終える。現在の時刻は六時五十分となり、そこらで俺も切り上げるのであった。後は風呂を入る時間にして汗を流し、もうしばらく部屋着のままで過ごすことにする。やはりまだこの時間帯だと制服を着るには早過ぎると思い、まだ部屋着でいるのが適切だと判断した。
そして少しだけ睡眠を取るためにベッドに横たわると、疲れが溜まっているせいで寝るまでの間はそんなに掛かることはなかったのだ。そんな風に睡眠に入って二十分ほど経つと、目が覚めて起床するに至るのだった。
それから朝食の時間になる。俺は食堂の方に行くと、そこにはすでに起床して来た同級生たちが列を作って注文した朝食を受けるまで待っていた。そこには勝美の姿もあってどうやら首やタオルを巻いているところを見ると、俺が寝た後にトレーニングでもしに行ったと予測することも出来る。それが数人に見られ、俺以外にも鍛えて来た奴らがいることに意外性を感じた。
「黒崎くんおはよう? 朝はさすがに寝てたみたいですね?」
「いや、六時五十分頃には引き上げてただけだよ。俺しか自主訓練しないのかと思っちまったぜ」
「ふーん? そんな早くから自主訓練したんですね? だったら私も同じ時間帯に起床したいと思いました」
「真似するのか? 俺は構わないけど」
「黒崎くんに負けてられないんですからね!」
どうやら結局はみんなして自主訓練を行う奴らがいても良いのかも知れない。やはり実技試験に受かるためにはそれなりに自主性が必要だとは思った方が強くなるには打ってつけなのだった。
そして朝食を受け取ると、自主訓練をしたことで空腹になっていたお腹を満たすためにいちごジャムを付けた食パンをかじる。とても甘い味わいが口の中に広がり、俺としては好みな食べ物だった。
それから俺は食事を終えると、そこで部屋に戻って今日から登校するために必要な荷物を纏める。バッグの中身はすっからかんだけど、取り敢えず筆箱とメモ帳と下敷きなどを入れた。それらがバッグに入ると、それでも軽くて持ち運ぶには疲れないと思える軽量の荷物を俺はいつでも持って行けるように忘れないところに置く。
そして俺はしばらく受験勉強のために買った問題集に書いてある計算を自主学習ノートに写し出してまた解き直すのだった。その時に解いた問題はとても簡単過ぎて話にならないと思えるぐらいに理解できている。
そんな暇潰しを始めてから時が経ち、俺らはいよいよ入学先に出るため、宿舎から校舎に向けて歩み出した。
(どんな奴がいるのかなぁ? すげぇ楽しみだぜ)
内心がウキウキするほど楽しめると思われる入学式の日で厄介なのが、黙って先生たちや生徒会長などの話をじっと堪えながら聞き流すことだ。それが出来れば大抵の時間はすぐに終わる。なので、その間に寝ないことを心掛けなくてはいけなかった。
ガラガラ
「おはようございます! 初めまして黒崎妖太です。推薦枠から来ました!」
すると、教室中にいたクラスメイトたちが一斉にこちらを向き、何かしらの反応を示した。
「あら、貴方はあの有名な魔術競技会で大活躍をなさった実力者じゃない⁉︎ 感激しちゃうな⁉︎ 私の生徒手帳にサイン書いてぇ!」
「え? サイン……?」
「はい。もちろん書けますよね?」
「まぁ、一応な?」
そうやってクラスメイトからサインをねだられ、その願望に賛同するかのように記してあげた。すると、彼女は大喜びして飛び跳ねるで感情を表す。
「やったぁ! まさかこんなところにまで黒崎くんが来るなんて夢みたい! 残念ながらあの無敗記録は途切れたけど、実際は一度も負けたことがないぐらいの最強術師だよ!」
「解説ありがとう。まぁ、取り敢えず落ち着こう」
「うん!」
そんな感じでサインをねだる者はたったの一人で、しかも女子だったようだ。そこで彼女にはファンサービスとして上等なんじゃないかと思われるぐらいのことはしたつもりである。それがもし仮に一人だったとしても、いるだけマシだと思うのが普通だと考えるべきだった。
「それにしても、あの無敗記録だった男が決勝戦で敗れるとはな? マジで残念だよ」
「何だ? 嫌味でも言いたいのか?」
「いや、喧嘩を売ったつもりなんてないぜ。しかし、俺がこの学校に来たからには、絶対に超えたい壁だと思うのが普通だよね?」
「そうだな? けど、そう簡単には行かないのも想定してた方が良いぜ? 後で泣くことになっても知らないからよ」
「冗談は止せよ。俺が泣かせる方だって言ってるんだ。負けるつもりで挑む訳じゃないんだよ」
「面白いじゃねぇか。受けて立つよ?」
いきなり宣戦布告するような態度を取られ、喧嘩腰になりそうな雰囲気を醸し出しているが、どうやらこの場の誰もが彼と同じことを思っているようだ。ただ一人だけサインをもらって喜んでいるようじゃあ話にならないと言いたげな空気になっている。それに対して場違いな行動を取ってしまった彼女としてはかなり落ち込むような事態だと思われるのだった。
「さて、ここで自己紹介と行こうか? 俺の名前は
(なるほど。一般枠の実技試験で一位通過だったのか? 多少は期待できそうな奴もいるもんだな?)
俺はその話を聞いて少しだけ関心を抱き始めた。世の中には俺の無敗記録を破るほどの実力者が存在したが故に光真もそれだけの才能を持っていても可笑しくないと思える。しかし、俺からしてみれば勝美のように俺の波動が攻略できない限りは殆どの確率で勝てる見込みはないと思った方が良かった。
「そこでだ。今日の放課後にでも勝負しないか? 俺だったら黒崎の野郎に勝って見せるぜ? それを証明するために俺と勝負しろ!」
「別に構わないが、分身を使わずして安全性は保証できるのか? そこで適当に対処して怪我しましたじゃあ話にならないだろ?」
「分かってる。だから、先生たちの力も借りよう。そこで分身を使ってバトルに挑むのが筋だと思うぜ?」
「良いけどよ? それは許可が降りればの話であり、もし止められたら俺はパスだ」
「その時は仕方ねぇだろ。そうなったら授業で蹴りをつけようじゃねぇか?」
「了解。それじゃあ楽しみにしてるぞ」
そんな約束を交わすと、周囲はそれに対して何やら騒がしくなる。この教室にいたクラスメイトが俺らの話を聞いて、ざわつきが起き始め、それはすぐに噂となってしまうのであった。
それから俺は自分の席に着くと、そこでため息を吐く。
「はぁ。ついてねぇな」
やはり勝美とはクラスメイトになりたかったが、上位二名ともなると別々になしまうのは当然だとは思った方が懸命だ。しかし、ここで一般枠で一位通過した奴がクラスメイトとは、俺としてもやり甲斐が感じられて良いと思った。
すると、そこで俺のところにさっきサインをねだって来た女子がわざわざやって来たのである。
「あのう? さっきは大丈夫だった? あいつとは同じ出身校なんだけど、かなり強くて中学時代は喧嘩でもトップに立ち続けた子なんだ。それが理由であんな喧嘩腰で向かって来るの。ごめんね?」
「いや、大したことじゃないよ。お前が謝るようなことじゃねぇだろ?」
「うん。そうだね? 私の名前は箱入舞子。【意思によって形成された特殊空間に道具を幾らでも収納でき、いつでも取り出せる術式】を扱うんだ。今では第二の術式を習得している最中で、【結界内に存在する対象を燃やし尽くす】ことが主な内容なのよね?」
「ふーん。確実に燃やしに出るのか? 中々俺には通じない手だな。俺なら結界なんて波動さえ放てば破壊できる。それぐらい単純で容易い問題でしかないぜ。あ、でも応援してるからね?」
「ありがとう。少し励みになったよ!」
(素直にありがとうが言えるだけマシな人間だな? しかし、サポート系だったのが残念だが、それでも彼女は中々便利な術式を持っている。それに第二の術式さえ習得できれば大抵は戦力になり得ると思うので、問題はないだろう)
しかし、そこで俺は疑問に思ったことがある。
「それじゃあどうやって勝ち進んだんだ? 舞子の術式はサポート系だろ? 戦闘向けじゃないと思うけど?」
「それは簡単だよ。この学校では武器の使用が許可されてるから、魔剣で戦ったんだ。私って中学生の頃は剣術を習ってたこともあって特殊効果の付加された魔剣を使ってみた。結果はギリギリで合格だったよ」
(なるほど。リアルに再現できる魔術育成高校では武器による致命的な攻撃もお手の物だって言うんだな? さすがに手が込んでやがるぜ)
内心でそんなことを思いながら、俺は彼女の話に興味を持って聞き入った。それによって彼女の情報が速やかに入って来て、中々面白いと感じるレベルに至る。そこで舞子ばかりが情報を流すのも何なので、俺からも彼女の質問に答えることをしたいと思った。
「それじゃあ俺はついて何か質問はあるか? あれば何でも答えるぞ」
「本当に⁉︎ それじゃあ黒崎くんは誰に負けちゃったの? 確か決勝トーナメントで敗北したんだよね? どんな術式だった?」
「それならすでに直接本人と話したけど、相手は【掌から衝撃波を放つ術式】と【拳に触れた対象に衝撃を加える術式】だ。敗北した極め付けは彼女の術技を食らったことの致命的ダメージだと思われる」
「へぇ! 凄く羨ましい術式だね! 私なんかサポート系とか言われるぐらいで全然戦闘向けじゃないから、大して強くもないんだ。けど、第二の術式を習得して、きっと周りに追い付いてやるんだって張り切ってる」
「頑張れば出来るだろう。空間に作用する術式と言えば、レディスノー先生も同じだけどよ? レディスノー先生は規模がでかい分だけ強力だよな? 今の俺じゃあ到底敵わない相手だったかも知れない」
さすがにレディスノー先生が扱う術式はベストウィザードに入っても可笑しくないレベルだと言われている。強い術師の中でも特に天候変化を伴う術式と言うのは、使用する者の身に特殊な効果をもたらすとされていた。それは教科書に載るぐらい有名な術式とされ、それを破れる者はほんの少しだ。けど、俺からしてみれば一気に波動で片付けられるほどの魔力量を誇ることで、辺りが見晴らしの良い場所に変化させられるだろう。それぐらい出来なければレディスノー先生に敵うことはまずないと言って可笑しくないのだった。
「俺の術式は【暗黒エネルギーを身に纏って身体強化及び波動を放出する】や【暗黒エネルギーから暗王剣を生成する】などがあるけど、中でも武器を作り出すだけの技術はかなり高度であると言われている。俺が生成できる武器は特殊効果が付加してあり、それは【斬り付けた対象の魔力を削る】と言うものだ。【ダークフォース】で身体強化を施しながら剣術で攻めるやり方は昔から変わらない戦略として使っている。幾ら知っていたとしても、それに付いて来れる人間は僅かしかいないだろう。それほど俺は最強に近い人間として生きているんだ」
「超憧れちゃう! やっぱ私は黒崎くんが好きだ! あ、別に恋愛対象って訳じゃないけど、強いて言えば私たちはお友達になれそうだよね! よろしく」
「あぁ、よろしく」
そんな感じでこの学校に来てから二人目の友達が出来た。それも相手は女子だが、何かと付き合いやすそうな性格をしているので、話もかなり弾んで友達になれたのは正解だったかも知れない。
そして予鈴が鳴る頃には俺らも自分の席に着いており、丁度そこで教室に入って来たのは、自分たちの担任を務めるであろう教師だと思われた。俺としてはどんな術式を扱う教師なのかが気になりつつあって、それを超えて行くのが使命感と言う奴だ。しかし、そこまで大げさに言うことでもないと思う。けれど、いつか倒したいうちの一人とは数えるのが普通になっているのだった。
「諸君も一緒に挨拶しようね! おはようございます!」
そうやって俺の担任になる予定だと思われた教師から、笑顔で挨拶を強要された。俺からしてみれば彼の挨拶に釣られて返事をすることがあっても良いと思っていたところあったのだ。そこで周囲はどう言った対応すれば良いか分からない様子でいた。ならば簡単な道のりじゃないことは目に見えた存在である。そこで俺から返事をさせてもらうのだった。
「おはようございます!」
「お? 威勢の良い挨拶だね? このクラスの仲間たちも一緒になって挨拶が出来ると良いかも知れない」
再び教室中にざわつきが生じるが、それを黙っていられる俺ではないと、そんな風に思わされる。
そしてそこを彼がストップを掛け、自分の紹介を始めた。
「よし! みんな揃ったかな? 僕の名前は未影分斗。【自身または触れた対象を分散させる術式】を持つんだけど、今日から君たちの担任を務めさせてもらいます。よろしくね!」
(自分だけでも強力だが、仲間も増やせるなら、もし俺が味方側に付けば、きっと戦力は拡大するだろう。だったらすげぇ強力じゃねぇか?)
しかし、これもサポート系に分類される術式の一つだと推測できる。しかし、自分が増えた分だけ一斉に掛かって来たら厄介だ。俺でも苦戦を強いられそうな気がして来た。
こうして俺のクラスは分斗先生がみんなの前で堂々とした自己紹介をする。そうやってみんなから人気を取って、これから俺らを引っ張って行く存在となるのだった。
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