聖君と呼ばれた王は過去へと転生する
美鈴
転生…そして…
雲一つ無い透き通った様な青い空。まさに快晴と呼べるその日…一人の男性がその生涯を閉じる事になる────。
「王様っ!! お、王様っ…どうか…しっかり…しっかりとお目をおあけ下さいませっ…そしてっ…そして何卒っ…もう一度皆に元気なお姿をお見せ下さいませっ…!
ちっ、父上ぇ──────っ!!!」
「ど…どうにかっ…どうにかならんのかっ!?」
「医官よっ!薬は…薬はどうなっておる!?魔法医官っ!回復魔法はっ!?早く答えよっ!!」
「…手は…手は尽くしました…わたくしを…わたくしを死罪に処して下さい…」
「…医官が言った言葉と同じく…魔法でも…どうにもなりませぬ…私も死罪に処して下さい…」
「そん…なっ…ち、父上ーぇ…まだですっ! まだっ…!!ち、父上にはまだやらねばならぬ事がっ…たくさん…たくさんあるとっ…そう…私におっしゃられたではありませんかっ!!」
「せ、世子様…誠に…誠に言いにくい事なのですが…こ、これを…これをご覧下さい…」
医官の一人が長めの鉄箸で綿を挟み取り、横たわる王の鼻元にソレを持っていく…。
医官がしているのは人が呼吸をしているかを確認する為の所作…。一種の儀礼とも呼べるであろう所作。
綿はピクリとも動く事はなく…その医官は重々しくも口を開く。
「…王様は…すでに…すでに御逝去なされました…世子様っ…」
「そんな…ち、父上―――――っ!!嫌です!どうか…どうか…今一度…目をっ…目をお開け下さい…父上ーーーーーっ!!!」
「「「「「お、王様ぁぁぁぁーっ」」」」」
その日…一国の王が静かに息を引き取った。宮中には動揺と、何よりもその死を悲しむ声が響き渡る…。そしてそれは宮中だけに留まらず──
ブォォォォ―――――――ッ!
宮中から都に向けて角笛が鳴り響き…
続いて…
「おっ、王様御逝去っ!王様御逝去ーっ!」
都中の人々に王が逝去した事が知れ渡っていく…。報せを聞いた者は順々にその場に膝をつき…何度も天を仰ぐ様な仕草をみせ、次々に涙を流しながらその死を悲しんでいく。
「「「おっ…王様ぁーーーっ!」」」
「そ…そんな…」
「王様がっ!?」
「…嘘ですよね…王様…?」
「王様っ…ううっ…」
「うぉぉーん…王様っ…王様ぁーっ…」
「王様はっ…誠の…誠の…聖君…で御座いましたっ…」
「し、真の聖君とはっ…王様の事です…」
都中に住む人々の…大陸に住む人々の…そんな声が余に聞こえてくる…。
そうか…そんなに余の死を悲しんでくれるのか?
そうか…こんな余を聖君と呼んでくれるのか?
それならば…余も…懸命になって…やってきた事の意味が…生きた意味があったというわけだな…。
なればこそ…もっとやらねばならぬ事もあったというに…
しかし…今更どう思おうとも…どう足掻いても…余は…どうやらここまでの様だ…
だが…それも仕方あるまい…。
…それに…決して悪いものではなかろう…? なぜならば…世子が…息子が居る。頼りになる者達もたくさん居る。そしてなによりこの国を慕ってくれる民が居る。
きっと…みんなで良い国を作り上げていってくれるだろう。なあ、レイラン?
レイランよ…今こそ…いや、遅くなってしまったが…ようやく…ようやく…そなたの元へと余は行く事が出来る様だ…。
そなたに会えたら…何と言おうか…?最初は随分と待たせてしまったな…か?
それとも………言った事がない…愛の言葉とやらを囁くべきだろうか…?思い返してみてもそういった言葉を…余はお主に存分には伝えられていなかったな…。伝えておけばよかったと…随分と後にまで後悔したもんだ…。今度は一字一句…余の言葉を伝えようか…。
そなたはそれを聞いて…どういう表情を魅せてくれるだろうな?
喜んでくれるか?
笑ってくれるか?
それとも…あの時と同じ様に…余が何かを言う前にそなたが言葉をくれるのか?
ああ…本当に…楽しみだ………
レイラン……今…行くよ……
♢♢♢
「お、お産まれになられました!旦那様っ!」
「それは真かっ!?」
「本当にございます!こんな事…嘘でも言う筈ございません!!」
「…そうだな…そうか…良かった…本当に良かった…」
「さぁ、旦那様!奥様の元にお早くっ」
「うむ」
「そ、そっちではございません!こちらにございますっ!?」
「う、うむ…分かっておる」
♢
……んっ…?なんだか…眩しい…何も見えぬっ…何か人の気配がするような…声も聞こえる気がする…
今いるここが…あの世と呼ばれる場所なのだろうか?
体を動かそうにもなんだか思うように動いてはくれぬ…
声はどうだ?誰かっ!?誰かおらぬかっ!?誰かーっ!?
「ほぎゃぁあぁぁ、ほぎゃぁぁぁ──」
声もなにやらうまく出せぬ…そう思っていると少し温かい布のようなもので顔や体を拭かれて何かを羽織らせられたような感触を感じる…。
「元気な…元気な男の子にございます…奥様っ!おめでとうございますっ!!」
ぼんやりと己が目に入ってきたのは年配の女性の顔だった…。女性の表情は嬉しさと泣き顔を合わせたような表情をしている。
余は…この女性に抱きかかえられておるのか?
いや…待て…余を抱えておるという事は巨人族の女性か?
「はぁ…はぁ……ほ、ほんとに…?」
「さぁ!奥様!授乳をっ!」
「…ええ」
思考がまとまらぬうちに年配の女性から若い女性へと余の身柄が手渡されてしまった…。この女性も巨人──
「ああ…私の可愛い赤ちゃん…」
なぬっ!?い、今っ…なんと…!?
余っ、余を見てそう言ったのかっ!?
「さぁ…いっぱい召しあがってね?」
はっ……!?な、何を…年頃の女性が胸を露わにっ…しかも何故余の口にっ…
(ぐぬっ!?)
本能であるやも知れん。余はそれをしっかりと飲み干すように求めてしまった。それと同時に悟ってしまった。彼女達は巨人族等ではないという事に。余はどういうわけか赤ちゃんになっているという事に…。
とにかく母乳をもらいながらそんな事を悟っていると──
「
一人の男性の声が部屋に響き渡った。
「…あなた」
「おお…っ…その子が…その子が…私達のっ…」
「ええ。私達のお子です…」
「…よくぞ…よくぞ…産んでくれた…」
男性のその言葉から待ちに待った子供だったのだろうことがうかがえる…。
母乳を飲み終え、ゲップを出してすぐにその男性へと抱き抱えられたのだが…
『っ…!?この顔…』
その男性の顔には見覚えがあった。忘れもしない。忘れるわけがない。幼い頃可愛がってもらった記憶もある。
なにしろ…その男性は父親の親衛隊長だったのだから…。
『それだけじゃない…彼は……いや…そもそもの話…彼には子供は居なかった筈だ…どういう事だ…?』
そして…この後すぐに遣いがやって来るのだが…驚愕の事実が発覚する事になった。この国の王の子供もまたこの世に生を受けたらしいのだ。子供の名は…フィン。
余がこうなる前の名前…。
***
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聖君と呼ばれた王は過去へと転生する 美鈴 @toyokun
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