春なのに冬服

今日は始業式。

新学期がスタートする。

新しい教室、新しい学年。新しい担任。


自分の気持ちも新しく変われるのだろうか。


「行きたくない。。。」


春休みも終わり、まあ短い休みだったけど、お母さんとの朝の闘いが暫くなかっただけのことだ。私はずっと学校を休んでる。

時々、親のために学校に行く。

お母さんが笑顔になるからだ。


姉や弟たちは既に出発した。

私は押し入れに入ったままだ。

安心してほしい。

わたしが好きで入り込んでる。


「みんなは学校に行ったよ。今日は新学期なんだから、新しい教室にいこう!!」


「そんなところにいたら暑いんだから、出てきなさい。春休みはずっと休めたでしょう。何をしているの、早く行くよ!」


「先生待ってるよ!!!」


誰も待ってなんかいない。

誰がいったい待っている?

学校に行って、何をするの?

勉強なら家でひとりでやる。


ここに居て、どれぐらい経ったんだろう。

押し入れから差し込む光が高く、強くなってきた。

喉が渇いた。

汗びっしょりになって、苦しい。


そっと開けて、出てきたら

10時を過ぎていた。

始業式終わって、今頃は学活かなんかで、教室ではみんなが自己紹介なんかしてるのかな。


学校に連れて行こうと、諦めたお母さんは台所にいた。

もちろん、私の顔も見ない。

腹がたっているだと思う。

学校に行かないという私が理解できない、理解もしたくないのだろう。


水を飲んで。

ふーぅと落ち着く。


今日は学校に行かなくて良さそうだ。


こんな朝のやり取りを中1から繰り返している。姉は成績優秀で、お母さんが希望する学校に通い、吹奏楽部の部長をやっている。

わたしには。

眩しく見える。

弟は無邪気で、好きなサッカーにうちこんで週末は試合に出て、お母さんも送迎で忙しくしている。


そして平日は学校に行かないわたしと闘っている。


「はい、冴島です。あっ、お世話になってます。えぇ、えぇ。今日は学校に連れて行きたかったんですけど、いつものように。はい。」


どうやら学校から電話が来たようだ。


「あ、新しい先生が来たんですね。よかったです。真央にも伝えます。ありがとうございました」


電話を切ったお母さんがチラリと私を見た。

「新しい先生が来たみたい。良かったね~。教室無くならないで済んだね!! ちょっとの時間でもいいから来てみないかって」


不思議だ。

3時間前は、あんなに行きたくなかったのに。なんだろう、行ってみようかという気になってきた。


どんな先生が来たんだろう。

とりあえず優しい先生だったらいいな。


あの教室、今年も残ってよかったな。


汗ばんだ部屋着を脱ぎながら、冬服に袖を通した。






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おかえりなさい。の居場所 華蓮ひかり @Megulet

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