1-3 ブラッド・コード
片手に握るは短刀。人を斬るには短過ぎる。
「武器を手に入れたか」
パーカー男はパチパチと拍手をして賞賛している。
「どうやらブラッド・コードに気がついたみたいだね」
刃に手をかざすと押し返す力を感じた。内包されたエネルギーに感銘を受け、脳裏に浮かぶ袴姿の男性に感謝を告げる。
『迷わず斬れ』
声と同時にパーカー男に向けて走り出す。
「急に元気になったな」
振り下ろした刀を両刃の剣で受け止めるパーカー男。押し込むように力を込めると弾き返された。宙帰りで距離を取り、もう一度攻めようと足に力を込める。
『用心しろ』
声を頼りに縦ではなく、横に半身躱わすと何かが頬を掠める。パーカー男が振り抜いた剣は紅の軌跡を残しながら明滅している。どうやら遠距離で攻める方法があるらしい。
「カウンターで狙った斬撃を交わすか」
パーカー男が面食らい、がら空きになった胴に接近して斬撃を叩き込む。掠りはしたが致命傷とは程遠い。
「俺も光線出したい」
心で問いかける。
『驕るな』
「…すみませんでした」
多分、怒られた。
『今は攻め続けろ』
「分かりました!」
全速力で駆ける。するとパーカー男の剣がまた紅に発光する。
「遅い!」
俺の刀はパーカー男が剣を振るよりも速く胴を貫き、その勢いのまま飛ぶ。壁に衝突した衝撃が走り顔を上げると既にパーカー男は絶命していた。
『用心しろ』
その場から飛び退くと紅の斬撃が通り過ぎる。
『迷わず斬れ』
敵を視認、全身全力で駆け、斬り捨てる。無我夢中で戦い続けた。未だかつてない程の充足感に満ちた時間だった。
「これで最後か」
槍を操る男を武器ごと斬り捨てる。いつの間にか刀身が伸びていた刀を腰の鞘に納める。
血の海に沈む沢山の人。生き残ったのは俺以外いない。
「…俺がやったんだ」
「そうだ。そしてその力はお前自身を守る為にある」
足音がして目を向けると袴姿の男性がすぐ側に立っていた。
「体内を流れる血から先祖の記憶を呼び覚まし守護を具現化する
「…では、あなたは俺のご先祖様?」
深く頷くのを見て、言葉が溢れてきた。
「俺さ、ずっと一人で生きてきたんだ。だからすげえ寂しくてよ。何を信じていいか分からなかった。毎日しんどくて辛かった。だから…楽になりたかった」
「知っている。全て見てきた」
袴姿の男性は俺にぽんと肩に手を置いた。
「よくやった」
涙が頬を伝っていく。それは止めることができなかった。
「戦いに於いて犠牲はつきものだ」
俺が落ち着くまで待ってくれた袴姿の男性は言った。そして俺が斬り捨てた死体に向けて合掌する。俺も真似して合掌する。この行為の本質は分からない。しかし、大切な事を教わった気がした。
ガコッと音がなり入り口の門が開いた。
「帰るぞ」
俺はズタボロの体を引きずりながら出口を目指す。外は晴れており雲の隙間から陽が突き抜けて青々とした大地を照らしていた。駅に着くと既に電車は停車しており、俺はそれに乗る。
「あれ?侍殿は乗らないの?」
袴姿の男性だから侍と呼んでしまったが通じたようだ。彼は首を横に振り、俺が腰にさしている刀を指差す。
「用心しろ。迷わず斬れ」
「それでも上手くいかない時は修行が足りない!でしょ?」
「…ふん」
侍殿の口元が僅かに綻んだ。
扉が閉まり電車が動き出す。ホームにいる侍殿の真剣な眼差しを目に焼き付ける。
「あっ!ばあちゃん!」
ホームの端っこで小さく手を振るばあちゃんがいた。
「ばあちゃん…ありがとう」
ここに連れてきてくれたのはばあちゃんだ。ばあちゃんがいたから俺は生きているのだ。
電車はトンネルに差し掛かり暗闇が訪れる。俺は腰に差した刀を握り締め、黙祷する。
「…生きてやる」
長いトンネルの先は明るい光で満ちていた。
ミダスの祈り ベイマル @beicircle
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