【09-1】天宮於兎子の過去(1)

***『雨男』が現れました***

JIN 2024/7/9 11:05

『雨男』が、また人を殺しました。現場は市内の、〇山ビジネスホテルです。これで父親を合わせて5人目です。


餃子マニア 2024/7/9 11:27

JIN、もう分ったよ。お前が犯人じゃねえのかよ


カベチョロ 2024/7/10 0:11

来たああ、JIN犯人説浮上(´Д`)


ネコは神 2024/7/10 0:25

JIN犯人(;゚д゚)、自首ヨロ


マキガイ 2024/7/10 0:47

自首したら、コンブさしいれヨロ


スマッチ 2024/7/10 1:28

このスレ、警察に目つけられてる(´◦ω◦)ω◦`)、ヤバし


餃子マニア 2024/7/10 1:31

JINもう寝たんか?レスせんかい


カベチョロ 2024/7/10 1:44

早寝早起き?JIN健康マニアwww


ポコポコ信者 2024/7/10 1:51

健康は大事とポコポコ様の教えにもある。JINはポコポコ教に入信せよ


餃子マニア 2024/7/10 2:07

ポコポコはもういいよ!出てくんな(# ゚Д゚)


ポコポコ信者 2024/7/10 2:09

ワレ喧嘩売っとんのけ


………


2024年7月13日。

鏡堂達哉きょうどうたつやは、〇〇県内の〇宮町に来ていた。

〇宮町には天宮於兎子てんきゅうおとこの叔父が住んでおり、父を亡くした際に、彼女を引き取ったのが、その叔父だったのだ。


4日前に〇山市内のビジネスホテルで起きた、古賀敏之殺害事件は、それまでの二件の事件とは異なり、世間の大きな注目を浴びることになった。

直接の目撃者ではないにしろ、事件現場に多数の人々がいたことが原因だった。


事件当時古賀と同じフロアには、既に宿泊客が数名チェックインしており、またホテルの従業員たちも事件後の現場を目撃している。

何よりも、古賀の部屋から溢れ出た大量の水が、事件の異様さを如実に物語っていた。


その結果古賀殺害事件は、マスコミの注目を浴びることになり、世間の関心の的となったのだ。

そしてそれに輪を掛けたのが、『雨男』のスレッドだった。


7月9日にJINが行った最後の投稿は、マスコミの報道と相まって、一気に拡散されていった。

そしてスレッド中でJINが示唆した、二件の連続殺人と、20年前に起きたとされる事件が、大きくクローズアップされることになったのだ。


その結果、〇〇県警は窮地に立たされることになった。

三件の殺人事件は、未だ解決の糸口すら見つけられずにいたからだ。


県警上層部は、連日のようにマスコミの集中砲火を浴びることになったが、徳丸夫妻や滝本の死因については、まだ世間に明かしていない。


殺害方法が未だ不明ということもあるが、殺害された状況が、あまりに常軌を逸していたため、それを公表することによって、世間に巻き起こるであろう混乱を、避けることが目的だった。


上層部からの厳命を受けた捜査員たちが、必死の捜査を行う中、鏡堂は高階邦正たかしなくにまさ捜査一課長からの命令に従い、天宮の調査に当たっていたのだ。


鏡堂が天宮の調査を急いだことには、もう一つ理由があった。

7月7日に体調不良によって退庁して以来、彼女と音信不通になってしまったのだ。


その事態を重く見た県警上層部は、彼女を事件の重要参考人として、指名手配する方向に傾きつつある。

鏡堂はその状況に、かなりの危惧を覚えていたのだ。


彼の中には、確信とまではいかないが、天宮於兎子は、少なくとも今回の三件の事件の犯人ではないという思いがあった。

古賀敏之の殺害現場で訪れた天啓が、彼にそう語っているのだ。


しかしそれを証明する手段が、今のところ鏡堂には思い浮かばない。

ただ、天宮の過去をつまびらかにすることで、真相に近づくことが出来るという予感が、彼を突き動かしているのだった。


鏡堂が訪れたのは、〇宮町の田園地帯にある農家だった。

木造平屋建ての大きな家屋が、住人の豊かさを物語っているようだ。


鏡堂が玄関でおとないを入れると、すぐに温厚そうな夫人が出てきて、客間に案内してくれた。

そして客間では60前後の、日焼けした男性が待っていた。


鏡堂が訪問の挨拶をすると、男性は天宮明人てんきゅうあきひとと名乗りながら、柔和な笑顔を彼に向ける。

その笑顔に安心した鏡堂は、訪問目的について率直に伝えた。


於兎子おとこに何かありましたか?」

天宮明人は、少し怪訝な表情で訊いた。


「実は天宮刑事と、ここ数日連絡が取れない状態になっていまして。

何かこちらに連絡は来ていないでしょうか」


「いや、特にないですね」

明人は首を傾げながら答える。

丁度そこに、冷えたお茶を持ってきた夫人にも確認したが、答えは同じだった。


「そうですか。もし連絡がありましたら、先程お渡しした名刺の番号までお知らせ下さい。

それでは20年前、天宮刑事のお父様が亡くなられた当時の状況について、教えて頂けますか?」


天宮明人は冷えた麦茶を一口飲むと、

「何から話しましょうかね」

と言って少し考え込んだ後、訥々と語り始めた。


「天宮家は、代々〇山市内にある、神社の宮司の家系なんですわ。

ご存じですかね。

雨宮あめみや神社』というんですが」


鏡堂はその言葉に無言で頷く。

〇〇県内でも有数の規模の、有名な神社だったからだ。


天宮てんきゅうという姓も、神社の名前の『雨宮』から来てるそうなんです。

そして代々長男が宮司を継ぐしきたりで、先代の親父が亡くなった後は、兄の幸人ゆきひとが跡目を襲って、次男の私はここいら辺りの農地を受け継いだんですよ。


ところがあによめの芳恵さんが、於兎子おとこを生んだ直後に亡くなりましてね。

幸人は酷く嘆いておりました。


ただその理由が、嫂さんを亡くしたことじゃなくて、跡継ぎが生まれなかったと言うてね。

挙句の果てに、娘に『於兎子おとこ』なんちゅう、当て擦ったような名前まで付けて。


兄のそういう所は、弟の私から見ても、少しばかり異常でしたね。

そんな名前を付けられた、あのが不憫で」


そう言って天宮明人は、嘆くような表情で首を横に振った。

鏡堂には、差し挟む言葉もない。

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