第16話
「だから……いいよね?」
「――だ、ダメだ!」
「どうしてダメなのさ?」
「ダメなものはダメだからだ!」
ラインハルトの言葉にうろたえるラケルの口から出てきたのは、強い否定の言葉だった。
目を白黒させる彼の態度には気付かないふりをしながら、ラインハルトは続けることにしたた。
「ほら、僕らってなんやかんや素材集めで各地を回ったりしたじゃない? そこで情が湧いたというか……気に入っちゃったんだよね。彼女、面白いし」
「確かに面白い女性なのは間違いないが……」
アリスの面白さは、ラケルも認めるところだ。
いわゆる面白ぇ女である彼女は一緒に居て飽きることがない。
奇想天外で何をしでかすかわからないために目が離せず、気付けば目で追ってしまっているのだ。
だがラケルはそれを、いわゆる子供を見守る父親が感じる父性のようなものだとばかり思っていた。
けれど……
(それなら俺は、なぜラインハルトの言葉にここまで反駁するのだ?)
ラケルとラインハルトは以前から女性に関することも比較的オープンにし合う関係性だった。
今までもお互いのどちらかが女性を好きになることはあった。
だがそれを打ち明けられた時にも、これほど強く反論したことはなかった。
脳裏に浮かぶ、アリスの笑顔。
ここに来てラケルは、今まで意識していなかった自分の本当の気持ちに気付く。
(そうか、俺は……アリスのことが……)
ラケルは今まで、誰かを好きになったことがほとんどない。
厳密に言えば一度だけ人を思ったことはあるが、それは絶対に叶わぬことのない恋だった。
故にこの気持ちの名がなんなのか、明確には判断しかねた。
けれど一つだけわかることがある。
それは――今このタイミングを逃せば、自分は絶対に後悔するだろうということだ。
「――すまん、先に帰っていてくれ。俺は彼女の――アリスのところに行って、伝えなければいけないことがある」
「わかったよ。あんまり遅くなりすぎないようにね」
その淡泊な反応に、ラケルは二つのことに気付いた。
一つは自分が熱くなりすぎていたこと。
そしてもう一つは、ラインハルトが自分のために一芝居打ってくれていたということだ。
「ほら行きなよ。彼女のことが気に入ってるのは本当さ、もし行かないんなら……って、もう行っちゃったか」
言葉を最後まで聞くことのないまま、踵を返したラケルは一人帝都の闇の中へ消えていった。
魔道具の明かりに照らされているラインハルトは、一人笑う。
「まったく、人の気も知らないで……勝手なものだよね、本当に」
「アリス!」
「は、はひっ!?」
閉店中の看板を提げているにもかかわらず、どんどんと勢いよく叩かれるドア。
一瞬びっくりしたものの、扉越しに聞こえる声は聞きなじみのあるものだ。
ゆっくり開いてみれば、そこには膝に手をやっているラケルの姿があった。
走ってきたからか肩で息をしていて、額に汗を掻いている。
取り出したハンカチでそれを拭ってやると、ラケルが顔を真っ赤にした。
恥ずかしさが伝染して、自分の頬まで赤くなってしまいそうだった。
「アリス、お前に伝えたいことがある」
「な……なんでしょうか?」
「好きだ」
「なぁっ……!?」
てらいなんてもののない、あまりにもまっすぐな一言。
ぱくぱくと口を開くアリス。
彼女の顔は、ラケルに劣らぬほどに赤く染まっていた。
アリスもラケルのことは憎からず思っている。
けれどまさかいきなり告白をされるとは想像していなかった。
言葉を紡ごうとするが、上手く考えがまとまらない。
アリスは元箱入りの公爵令嬢。強力な魔道具は作れても、愛の言葉を伝えるのは不得手なのだ。
「俺の気持ちを伝えに来たんだ。それじゃあな」
すわ愛の言葉が続くのかと身構えていたアリスだったが、ラケルはそのまま踵を返すと、すっきりした顔をしてその場を去ってしまう。
そして後には、自分の顔のほてりを自覚したアリスだけが取り残された。
「な、なんだったの……夢じゃないみたいだし」
自分の頬をつねってみると、痛かった。
どうやら夢とか幻覚の類いではないらしい。
ということはすなわち、自分とラケルは両思いということで……。
ボッと顔がゆでだこのようになるアリスは、そのままふらふらとした足取りでベッドへ横になる。
帝都に来た時とは反対に、彼女はその日、ほとんど寝ることもできずに悶々とした日々を過ごすのだった――。
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やりこんだゲーム世界にダンジョンマスターとして転生したら、攻略に来る勇者が弱すぎるんだが ~こっちの世界でも自重せずにやりこみまくったら、難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団が出来上がりました~
奇天烈令嬢、追放される ~変な魔道具しか作れないせいで婚約破棄されたので、隣国で気ままに暮らしていこうと思います~ しんこせい @shinnko
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