第2話 最強冒険者アルスちゃんの中の人
転生した。
転生先はよくあるファンタジー世界で、モンスターが跋扈していて、ダンジョンとかあるらしい。
正直よく分からん。
どうせならクソほどチートとか貰って無双したかったけど、チートや情報くれる神様には会わなかったし。
つーか気づいたら転生ってどうなん? まあ天涯孤独の身で現実に未練はないし魔法があるファンタジー世界に来れたから万々歳だけどさ。
正確には転生じゃなくて憑依だけど。
憑依した相手はアルス・アーティスタという名前の可愛い子だった。
そりゃあ最初の方こそ、異世界美少女になった! 嬉しい!だったさ。
でも憑依する瞬間にアルスちゃんの今までの記憶が流れ込んできてなぁ……。
このアルスちゃん、冒険者には誰かを助けたいという気持ちでなったらしい。
昔目の前で他人がモンスターに食われるところを見てしまって、そこから強く思うようになったとか。
だから冒険者になって色々な街を転々として、様々なパーティを組んで今に至るらしい。
はえー、すっごい良い子やん。
と思ったけど、困ったことにアルスちゃん自身の魂? というか意志はもうないみたいだ。
彼女の記憶はあるけど、憑依する直前でぷつりと切れているし、彼女の声が頭の中で聞こえるという事もない。
そんなわけで乗っ取ってしまったのは申し訳ないことこの上ないけど、彼女の夢は代わりに叶えようと思った。
別にしたいことがあるわけじゃないし、アルスちゃんの最後の記憶も「もっと強くなって、誰かを助けるんだ!」っていう強すぎる気持ちだったし。
というか、記憶を持っているから分かるけどアルスちゃん、マジ良い子。
どうせならアルスちゃんの体の中にアルスちゃんと共生したかった。
さて、というわけで美少女アルスちゃんが出来なかったことを代わりにやるのは問題ないけど、別の意味で問題があった。
それがこの子……というか俺が持っているスキルだ。
「芸術審判」
なんかカッコいい名前だと思ったけど、このスキルはアルスちゃんのものではない筈。
彼女の記憶にはこれに関するものが一切ない。
ということは俺が憑依したことでスキルが目覚めた? みたいな感じだろう。
で、このスキル、説明的なものが頭に流れ込んでくるんだけど。
『選択した敵対象と芸術審判状態に入る。芸術が判定された場合に、戦闘に勝利する』
分かりにくいけど、ようはカッコいい事をすれば敵に勝てるってことだ。
相手がどれだけ強いとか関係なく、カッコいい事をすればいい。
チートじゃんってそう思った。
でも念のために適当なモンスターにこのスキルを使用したとき、不発だった。
相手はリスのようなモンスターで、前歯がめちゃくちゃデカい奴だ。
そいつに芸術審判のスキルを使用した。
それはもう、カッコいいと思う行動をした。
その場でターンしたり、持っていた剣を振るってポーズを決めたり。
魔法で背後を光らせてみたり、意味分からん口上を述べたりした。
でも、全部ダメ。
芸術審判には使用回数制限はないし、なぜか芸術審判中には誰にも攻撃されないけど、成功しなければ意味がない。
ということで、色々なことを試した結果、俺はこのスキルの真相に気づいてしまった。
芸術審判の芸術を審判するのは俺でも神でもなく、相手対象だと。
何で分かったかって?
そりゃあお前……近くの木に生えていた果物を取って、それに齧り付いたからだ。
前歯を存分に使って、うめぇ!うめぇ!と言わんばかりにめちゃくちゃ男らしく食った。
最後にはリス型モンスターにカッコよく視線を向けて、食っていた果物を差し出して、お前も食べるか? ってやったくらいだ。
ここまでやって、急にリス型モンスターが爆発した。
もう言っていることが意味分からんけど、全て事実。
芸術審判に勝った場合、敵が爆散する。
そしてクッソムカつくファンファーレが頭の中で流れる。
これが芸術審判の真の効果だ。
イカれている。
その後、俺はアルスちゃんのこれまでと同様に冒険者として活躍した。
アルスちゃんで倒せそうなモンスターは倒して、厳しそうな奴は芸術審判に持ち込んだ。
犬型のモンスターの場合は四つん這いになって背中を逸らして遠吠えを上げた。
木に擬態したモンスターの時は、一日中直立不動で耐え続けた。
芋虫型モンスターの場合は地面に寝転がって変な動きをした。
これを美少女冒険者のアルスちゃんがするわけだから、気が狂っている。
ほんまにごめんアルスちゃん、君の尊厳もう残ってないよ……。
実を言うとこうなる前に冒険者をやめようとしたこともあったけど、その度にアルスちゃんの最後の記憶が頭を過ぎるのである。
『もっと強くなって、誰かを助けるんだ!』
いや、誰かを助けることは出来ていると思うけど、流石にアルスちゃんもこんな勝ち方は嫌だろう。
でもこの言葉、無限リピートである。しかも辞めようとすると大声になる。
そのせいで冒険者をやめるという選択肢は残念ながらない。
アルスちゃん本当に意識ないんですかね?
そんなわけで俺はアルスちゃんとして生きているわけだが(いつか彼女に体を返すとか、意識が戻るとかしたら土下座しよう)、嬉しいこともあった。
まず、冒険者として大成した。
基本的に負けないので成長が著しい。
ゲームでもそうだけど、敵を倒して経験値を稼ぎ、レベルが上がれば強くなる。
それはアルスちゃんも同じで、倒せる敵は普通に、倒せない敵は芸術審判で倒すことで動きが良くなったり、魔法を使いこなせるようになった。
レベルっていう概念があるのか分からないけど、今のアルスちゃんは高レベルだろう。
ちなみに魔法は演出重視で強化している。
威力上げるより、カッコよくした方が勝てる。
え? 芸術審判で時間経過したらどうなるのかって? そりゃあ尻尾撒いて逃げるしかない。
実力が名声に追いついていない気がするけど、なぜかSランク冒険者にもなった。
そりゃあどんな敵でも条件を達成すれば勝てるので、冒険者ギルドしたら評価したくなる人材だろう。
まあ、君達が評価したアルスちゃんはモンスターの真似をする怪奇少女なんですけどね。
そんなわけでアルスちゃんの夢は叶ったわけである。
よかったねアルスちゃん、君、夢を叶えたよ。
もう冒険者辞めてもいいよね?
『もっと強くなって、誰かを助けるんだ!』
はい、辞めません。
だから頭の中で何度もそのフレーズを連呼しないでください。
さて、話が少し脱線した。
良いことがあった一方で、悪い事もある。
まずアルスちゃん、対人関係全滅である。
当たり前だ。
誰がこんな奇怪行動をする少女を他人に深く関わらせるんだ、いい加減にしろ!
というわけでアルスちゃんに対して保護者のような気持ちを抱いている俺は、なるべく他人と関わらないようにしている。
こんなアルスちゃんの姿、見せられないよぉ……。
というわけでアルスちゃんは基本無表情、無口、そして友人無し。
グッバイ昔の笑顔が眩しいアルスちゃん、いやほんまスマン。
そしてもう一つ、おしゃれという概念を捨てた。
上はしっかり着込んで、下もズボンがデフォルトスタイルだ。
元々履いていたスカートは捨てた。
アルスちゃんが芸術審判で相手に勝つにはなりふり構っていられない。
獣型モンスターを相手にして、四つん這いで雄たけびを上げるときにスカートだと彼女の尊厳に関わる。
それは自称保護者の俺は許せないっすよ。
まあ、原因のスキルは俺のせいなんですけどね、へへへ。
というわけで、俺もアルスちゃんも(彼女の尊厳以外は)元気です。
結構ボッチ辛いからアルスちゃん帰ってきてくれないかなと思う俺と、帰ってきて欲しくない俺が居るよ。
『もっと強くなって、誰かを助けるんだ!』
はい、アルスちゃん冒険者バカアラームが鳴り始めたので今日も今日とて冒険者します。
ここまでの話は以上、解散!
最強冒険者アルスちゃんは今日もぶっ飛んだことをしている 紗沙 @writer-sasha
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