4 もしかして見える子?

「Bクラスの子に話さないようにってことは、Aクラス同士でならいいんだよな」

 俺から少し離れた席にいた眼鏡の男の子が、すぐ隣の男の子に確認を取る。

「たぶん……」

「俺を……花子さんを探してたのは、君たちか?」

 立ちあがった眼鏡の子が、みんなを見渡す。

 そっちを見ていたせいか、タイミングよく目があった。

「違うよ。俺も探された。たぶんだけど、俺も花子さんだったよ」

 そう答えると、周りの子たちも、僕も私もと声をあげていく。

「みんな花子さんか。探される側と探す側とで、役が振り分けられてるってわけでもないんだな」

 眼鏡の子が、少し考え込むようにして呟く。

「探しに来たヤツらは、中身のないプログラムなんだろ」

 眼鏡の子の後ろに座っていた、明るい髪色の男の子が答える。

「でも、花子さん……怪異側になるとは思ってなかったよ」

 俺がそう意見を述べると、みんなも同じだったのか、うんうんと頷いてくれていた。

 このことは、アンケートの余白欄にでも書いておくとしよう。

 Bクラスは、違う怪異を体験してるんだろうか。

 そんなことを考えていると、1人の女の子が俺に声をかけてきた。

「ね、ねぇ。あなた……友達と別のクラスになっちゃったんだよね?」

 長め前髪で隠れ気味の目は、俺の方を見ていない。

 たぶん人見知りってやつだろう。

「申し込みも受け付けも一緒にしたんだけど、部屋の階数もクラスも違うよ」

「わ、私もなの。一緒に申し込んだ友達と離れちゃって……どうすればいいのか……」

 この子も俺と同じ状況なのか、友達が近くにいなくて不安みたい。

 すると、さっきプログラムだって言ってた明るい髪の男の子が口を挟んできた。

「俺らも3人で来たのに、1人だけ別のクラスだ」

「申し込みだって、あいつんちのパソコンで、順番にやったのに」

 隣で、夏にも関わらず、指まで隠れそうな長袖を着ている男の子が答える。

 どうやら申し込み順ってわけでもなさそうだ。

 となると、このクラス分けは……やっぱり、事前の質問が関係してるに違いない。

「きみの友達、もしかして見える子?」

 俺が尋ねると、前髪の長い女の子は、あいかわらず視線を逸らしたまま、少し間をおいて、頷いた。

「あんまり人には言ってないみたいなんだけど……」

「別にそれでからかったりしないから大丈夫だよ」

 玲士が昔、孤立していたように、この子の友達も、なにかあったのかもしれない。

「きみらの友達は? 申し込みのとき、第六感に関する質問、答えたと思うけど、見えるとか、感じるってところにチェックしてない?」

 3人で来たと話してた2人に聞いてみる。

「とりあえず俺はチェックしてないけど、あいつ、たしか感じるとか言ってたな」

「言ってた。でもそれ冗談でしょ」

 もしかしたら信じてもらえそうになくて、冗談ってことにしていたのかもしれない。

「あのアンケート、クラス分けに関係してるのかも。俺、ちょっと友達に会ってくるよ」

 俺は、そう話を切り上げて席を立つ。

「あ、会うって……どうやって? カードキーに書かれた階にしか行けないって……」

 前髪の長い女の子が、慌てた様子で俺に聞く。

「1階は共通フロアだ。食堂も図書ルームもロビーもここにある。図書ルームに行ってみるよ」

「そ、そっか……。私も……行こうかな」

「きみの友達もいるかもね」

 そうして俺たちは、2人で1階にある図書ルームへと向かうことにした。


「そうだ、名前聞いていい? 俺は月山勇矢」

 部屋を出て、そう自己紹介する。

「あ……城崎春香です」

 城崎さんは、少しだけ俺と距離を取るようにしてついてきてくれた。

 そうしてエレベーターで1階に降りた後、地図を頼りに図書ルームへとたどり着く。

「ここみたい」

 ドアを開けると、そこにはたくさんの本棚。他には6人くらい座れそうなテーブルが4つある。

 そのうちの1つに、俺が期待した通り、玲士が座っていた。

「玲士!」

 俺はすぐさま玲士に駆け寄る。

「勇矢! 来ると思ってたよ。ご飯を食べるにはまだちょっと早いしね」

「玲士と会えるの、あとはロビーかここくらいだしな」

 そんな話をしていると、玲士がふと俺の後ろに視線を向けた。

「その子……」

「あ、城崎さん。さっき知り合ったんだ。同じAクラスなんだけど、城崎さんも、友達と離れちゃったみたい」

「友達ってもしかして……桃井さん?」

 玲士がそう告げると、城崎さんは少し身を乗り出すようにして、大きく頷いた。

「そ、そう……桃井百合ちゃん。知ってるの?」

「来てるよ。さっき本を探しに……」

 俺たちの声が聞こえたのか、本棚の奥から1人の女の子が顔を出す。ポニーテールをした少し活発そうな子だ。

「春香?」

「百合ちゃん……!」

 2人の再会に少しほっとしながら、俺は玲士の隣に座った。

「城崎さんともちょっと話してたんだけど、このクラス分け、質問の答えが関係してるんじゃない?」

 玲士もわかっていたのか、頷きながら口を開いた。

「ちゃんとした説明はなかったけど、僕たち、部屋に集まった後、言われたんだ。ここにいるみなさんは、少しだけ特別です……ってね」

「それって……」

「たぶん『見える』ってところにチェックを入れた子が集められてる。中には普段、隠してる子もいるだろうし、特別だなんて言い方で濁したんだろうけど、当然、どういう意味か、すぐにわかったよ。第六感がある子たちだってね」

 再会を喜んでいた桃井さんが、俺たちの正面に座る。

 城崎さんも、その隣に座った。

「周りのみんなが同じように見える子なら、私だって隠そうと思わないけど」

 桃井さんが、玲士に続いてそう言葉を付け加える。

 そしてなぜか俺をジッと見た。

「私は、玲士くんと同じクラスだった。つまり、どういう意味かわかると思うけど。理解者なのよね?」

 第六感についてだろう。

「理解……したいと思ってる」

「疑ってるってこと?」

「そうじゃないよ。玲士のことも、玲士の話も信じてるけど、それで理解してるってことにはならないだろ。だから理解したくて、ここに来た」

「勇矢……」

 チラッと、隣にいる玲士に視線を向ける。

「怪異体験はニセモノだし、それでわかった気になるなって思われてもしかたないけど」

「そんな風には思わないよ。ありがとう」

 桃井さんは、俺と玲士のやりとりを聞いて安心したのか、笑ってくれていた。

「よかった。からかってくるような子じゃなくて」

「そんな子、わざわざ怪異体験に来るかな」

「興味本位で怪異体験したいって思う子もいるでしょ。ホラーゲームとか、お化け屋敷とか楽しむ感じでね」

 確かに、その気持ちはなんとなくわかる。

 第六感に興味はなくても、ホラーゲームやVRに興味がある子はいるだろう。

「春香と離れちゃったのは残念だけど、クラス分けはしてよかったんじゃないかな」

 桃井さんが言うことも、もっともだ。

 実際、からかってくるような子がいないとも限らない。

「……それで、どうだった? 怪異体験。怖かった?」

 桃井さんが、城崎さんと俺に尋ねる。

「は、話しちゃいけないって……施設の人が……」

 城崎さんは、困ったようにそう答えていた。

「あー……うちらのクラスもそんなようなこと言われたけど、怖かったかどうかくらいは問題ないでしょ。内容を話しているわけじゃないし」

 たしかに、それくらいなら問題なさそうだ。

「俺は……ちょっと怖かった」

「へぇ、案外怖がり?」

 少しからかうような視線を桃井さんに向けられる。

「そういうわけじゃ……クラスのやつらも、怖がってたんじゃないかな。みんな、笑ってなかったし……」

 俺がそう言うと、城崎さんは、コクコク頷いてくれた。

「僕たちのクラスは、びっくりしたけど、おもしろかった……って感じかな」

 怪異に慣れているからか。それとも、俺らが体験した怪異とは違って、もっとおもしろいものだったのか。

「全部終わったら話していいらしいし、そのときまた教えてよ」

 俺はそう玲士に伝えた。

 その後、もらった紙に感想を記入する。

 少し怖かったこと、花子さん側になるとは思っていなかったこと。

 でも、今思うと、俺を見て怖がっていた子たちの反応は新鮮で、ちょっと楽しかったかもしれない。


 12時を過ぎた頃、俺たちみんなで食堂へと向かった。

 何種類かある料理から、好きなものを選べるようだ。

 俺は注文したオムライスを受け取ると、大きなテーブルの一角に座った。

 隣の席には玲士、前の席に城崎さんと桃井さんが座る。

「いただきまーす」

 ご飯がおいしいとか、学校では放送部に入ってるとか、そんな話をしたけれど、本当は、いますぐにでも怪異体験の話をしたくてしかたなかった。

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