第39話 故郷
「うん。書類に不備はないので……正式に受理するよ」
この日アレシュは錬金術ギルドのギルド長の部屋を訪れていた。
「これで君はギルド員だ。歓迎する」
差し出されたギルド長の手をアレシュは握り返した。
「それにしても残念だったね。せっかく追い詰めたデルフィーノ侯爵が行方不明だなんて」
「ええ……」
デルフィーノの所在不明のまま、議会では彼の崩壊石にまつわる動きとそれによって起こった殺人について是非が問われていた。やはり軍部、そこに近い者からは擁護する意見が出た。が、錬金ギルドはこれがどれだけ危険な物か、味方にも被害を及ぼす有害な物かと強く主張した。また、エアハルト殺人については責める声も多く、判決はデルフィーノ有罪でほぼ決まりそうだった。引退勧告か、身分剥奪か、それとも死刑か。いずれにせよ、なんらかの罪状が彼には下されるだろう。
だが、そこに本人はいない。デルフィーノはアレシュの目の前で消し炭になってしまった。彼の最後の悲鳴は今もアレシュの耳にこびりついている。
「きちんと罪を償って欲しかったとは思います」
「そうだね。今後もカインの元にいるのか?」
「ええ。いずれどこかに工房を構えようと思いますけど、今じゃないと思いまして」
「ああ、君はまだ若い。カインの元で勉強させて貰いなさい」
「はい」
アレシュは荷物をまとめ、ソファから立ち上がった。
「それでは、そろそろ行きます」
「墓参りだっけ」
「そうです。それとお世話になった方にも挨拶したいですし。ようやく報告することができましたから」
ギルドを出るとミレナが駆け寄ってきた。
「遅い! 乗合馬車出ちゃいますよ」
「ごめんごめん」
アレシュとミレナは乗車場に向かって駆けだした。
アレシュは故郷へ向かった。いくつかの街を通り過ぎ、馬車はウェルシーの街に着く。
始まりの高揚と悲しい思い出の街を後にして、徒歩で近くの村に立ち寄り、お世話になったゲオルグの家を目指す。
村に到着すると、ゲオルグは温かく迎えてくれた。
「アレシュ、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「はい、ゲオルグさん。おかげさまで」
アレシュはゲオルグにこれまでの出来事を簡単に話し、感謝の気持ちを伝えた。
「本当にありがとう。あなたのおかげでここまで来ることができました」
ゲオルグは微笑みながら、
「それは良かった。でも儂は金を渡しただけだよ。しかもそれは元々お前のものだ。だが……お前の父親もきっと喜んでいるだろう。」
と言った。
その後、アレシュはエアハルトの墓にお参りをするために向かった。墓前に立ち、静かに手を組んだ。
「父さん、ようやくここまで来ました。あなたの遺志を守ることができました」
ミレナも一緒に手を合わせ、アレシュを組んだ。
「アレシュ、あなたは本当に頑張ったわ」
お参りを終えた後、二人は焼け落ちた館を見に行くことにした。館の跡地に立つと、かつての日々が嘘のように感じられた。
「うっ……」
アレシュの目に涙がにじむ。ミレナは彼の手を握りしめ、
「アレシュには新しい場所と新しい人生があるわ」
と励ました。
アレシュは頷き、
「そうだね。父さんの遺志を胸に、これからも頑張るよ」
アレシュはゲオルグの方に向き直った。
「ゲオルグさん。父さんの遺産を使ってここを綺麗にしてもらえますか。いつまでもこんな焼け焦げじゃかわいそうだ」
「ああ、任せろ」
「いつか、ここに戻ってきます。そうだな。父さんが腰抜かすくらい立派な建物を建てて、人がいっぱいくるような場所にしようかな」
「おう、好きにせえ」
ゲオルグはにこにこと笑いながら、アレシュを見守っていた。
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