第36話 捜索

 懇親会が始まり、ティナとカインが呼ばれ、デルフィーノ侯爵と錬金術の話をし始めた。


「私は元々魔法学をやっていたんです。そして魔法陣の小型化に取り組んでいたのですが、錬金術を組み合わせることによって、より小型化が出来るようになったんです。それで私は宝石や装飾品とそれらを組み合わせることを思いつきました」


「ほう……それはそれは」


「ティナの錬金アイテムは気軽に身につけられるところがいいですね」


 カインも話を盛り上げようと相づちを打った。


 アレシュとミレナはその隙を見計らい、そっと部屋から出て書斎へ向かった。


 屋敷は静まりかえっており、アレシュは鳥型のホムンクルス「ナビ」を取り出した。「ナビ」には眠りを誘う歌声を歌う機能がプラスされており、屋敷内の警備を無力化するために使うことにした。


「ナビ、お願い」


 とアレシュが小声で指示を出すと、ホムンクルスは静かに歌い始めた。美しいメロディが屋敷内に響き渡り、警備の者たちは次々と眠りに落ちていった。


「これで大丈夫ね」


 とミレナが確認し、二人は書斎の扉を開けた。アレシュは緊張しながらも、デルフィーノ侯爵の書斎を捜索し始めた。


「ここに何か証拠があるはず……」


 とアレシュが呟きながら、書類を一枚一枚確認していった。ミレナも同じように、慎重に探していた。


 突然、ミレナが小さな声で叫んだ。


「アレシュ、これを見て!」


 彼女が手にしていたのは、エアハルトとの書簡だった。アレシュはそれを受け取り、内容を確認した。


「これだ……これが証拠になる」


 二人は急いで書簡を持ち、書斎を後にした。


「私は応接間に戻るわ。アレシュは書簡の中身を確かめて」


「うん、わかった」


 アレシュは伯爵夫人の客間に戻り、書簡の中身をあらためた。そこには崩壊石を軍事転用するために手を貸して欲しいというデルフィーノ侯爵の依頼と、それを断るエアハルトの言葉が綴られていた。


「最後の方はまるで脅し文句だ。あの父さんですら会うことは断れなかったんだな」


 最後まで目を通して、これはデルフィーノを追い詰める証拠になるだろうかと考えた。


 確かにエアハルトを殺す動機としては十分だ。だが、デルフィーノ侯爵は軍と国王に対し力を持っている。自軍を有利にしようという動きに対して、たった一人の殺人など、握り潰されてしまうかもしれない。


 アレシュは書簡を手に、深く考え込んだ。


 アレシュは意を決して、カインと伯爵夫人に相談することにした。応接間に戻ると、二人はまだデルフィーノ侯爵と話していたが、アレシュの真剣な表情を見て、理由をつけてすぐに話を切り上げた。


「どうしたんだ、アレシュ?」


 カインが心配そうに尋ねた。


 アレシュは書簡を見せながら説明した。


「この書簡には、デルフィーノ侯爵が父さんに崩壊石の軍事転用を依頼したことが書かれています。そして、エアハルトがそれを断ったことも。最後には脅し文句まで書かれているんです」


 伯爵夫人は書簡を読み、深く息をついた。


「これは重大な証拠ね。しかし、デルフィーノ侯爵の力を考えると、これだけで彼を罪に問うのは難しいかもしれない。」


 カインも同意見だった。


「確かに。彼の影響力を考えると、証拠を握り潰される可能性が高い。でも、崩壊石の軍事転用を阻止することはできるかもしれない。」


 アレシュは頷き、


「そうですね。彼を罪に問えないのならば、せめて崩壊石のことをあきらめさせたいです。俺は直接デルフィーノ侯爵と話をします」


 アレシュの決意に満ちた表情に、二人も反対はしなかった。




 アレシュたちはパルヴィア伯爵の邸宅に滞在することになった。すべてはアレシュがデルフィーノ侯爵と二人っきりになれる機会を作るためである。その為に伯爵夫妻は頻繁にデルフィーノ侯爵と連絡を取っていた。


「どうも明日はどこかに向かうようね」


 デルフィーノ侯爵の家に行っていた伯爵夫人はそう言った。


「どこかに行くみたいだけどわたくしたちには教えてくれなかったわ」


 と、なると朝早くから侯爵の家の前で張り込みをする必要がある。うまくできるだろうか、とアレシュは難しい顔をした。


「そんなに心配することは無いわよ。デルフィーノ侯爵には発信器をつけておいたわ」


 アレシュの顔を得意げに覗き込みながら、ティナは言った。


「発信器……!? どこに? 服なんて着替えるんじゃない?」


「そんなことに私が気づかないと思う? 発信器は侯爵のお腹の中よ」


「お腹の中……?」


「伯爵夫人が用意した、首都で評判の焼き菓子の中に入れたの。そのうちトイレに出ちゃうでしょうけど、明日くらいなら大丈夫でしょう」


「そんな小型のものを作れるなんてすごいよ!」


 アレシュが手放しでティナを褒めると、彼女はまんざらでもなさそうな顔をした。


「さあ、これが受信機。近いほど反応するわ。これであんたの下手くそな尾行でも大丈夫よ」


「あ……ありがとう」


 いちいち突っかかるような物言いは引っかかるが、アレシュはティナに心から感謝した。


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