第31話 裏切りの川辺
「いやあ、先方も大変喜んでいた。また頼むよアレシュ君」
「それは良かったです」
アレシュは錬金術ギルドの会議室でドメニコと面会していた。
「それではこれは代金だ」
ドメニコの差し出した金貨を見て、アレシュは驚いた。
「多くないですか……?」
「何、君の将来に期待してだよ」
ドメニコはアレシュに笑顔を向けた。だがアレシュは素直にそれを受け取る訳もない。だが、ここは喜んで受け取っておくのがいいのだろう。
「ありがとうございます」
「どうだろう。週末にギルド長と釣りをするんだが、君も来ないか」
ドメニコは笑顔でそう提案する。
「ギルド長ですか?」
「ああ、紹介するよ。君も顔を売っておいた方がいい」
「ありがとうございます。ではカインさんの予定を聞いておきます」
「いや……カインとギルド長は今少し折り合いが悪いんだ。避けて置いた方が良い」
「そうなんですか?」
「ああ、実は彼の派手な立ち回りを良くは思ってなくてね」
それが嘘だか本当だかは分からない
アレシュはドメニコの言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻した。「分かりました。では、カインさんには内緒にしておきます」
「それがいい。君の将来のためにも、ギルド長に良い印象を与えておくことは重要だ」
とドメニコは微笑んだ。
アレシュはその笑顔の裏に潜む意図を探るため、慎重に行動することを決意した。
「ありがとうございます。週末の予定を確認しておきます」
***
その夜、アレシュはカインにドメニコとの会話を報告した。
「カインさん、ドメニコが週末にギルド長と釣りをするから、私も来ないかと誘ってきました」
カインは眉をひそめた。
「ギルド長と釣りか……。ドメニコが何を企んでいるのか分からないが、君が行くなら注意が必要だ」
「はい、気をつけます。でも、カインさんとギルド長が折り合いが悪いという話もありました」
カインは苦笑した。
「それは初耳だな。確かに意見の違いはあるが、折り合いが悪いというほどではない。ドメニコが何かを隠しているのかもしれない」
「そうですね。とにかく、週末の釣りに行ってみます。何か手がかりが得られるかもしれません」
カインは頷いた。
「分かった。君が行くなら、私も近くで見守ることにする。何かあればすぐに知らせてくれ」
「ありがとうございます、カインさん」
週末、アレシュはドメニコの誘いに応じて釣りに向かった。郊外の川に到着すると、ドメニコは笑顔で迎えたが、どこか不穏な空気が漂っていた。
「アレシュ君、今日は特別な場所に案内するよ。ここなら静かで釣りに最適だ」
アレシュは警戒しながらも、ドメニコの後について川辺に向かった。
あたりには人気が無い。アレシュは警戒しながらドメニコを見つめる。
「どうしたのかね」
「いえ、ボートが無いな……と」
アレシュがそう答えると、ドメニコは彼を鼻で笑った。
「そうだね。いや、聞きたいことがあってね。釣りはその後にしようじゃないか」
ドメニコが指を鳴らすと、後ろの小屋から男たちが出てきてアレシュを囲んだ。アレシュは周囲を見渡しながら、男たちに囲まれた状況に緊張を隠せなかった。
「これはどういうことですか」
「素直に口を割れば乱暴なことはしないさ」
目的を問うまでもない。彼らが求めているのは崩壊石の情報だ。
「君の父……正しくは養父か。彼は錬金術ギルドにある書簡を送った。そこには新たに発見された崩壊石という物質の情報が書かれていた。知っているだろう、崩壊石を」
「……知らないと言ったら?」
「嘘を吐くと痛い目を見る」
ドメニコの後ろで男たちがじりっと動いた。海辺の街グレムズビーで襲われた町場のチンピラとは違う雰囲気がある。男たちの目つきには隙が無い。
「父さんはそれを封印すると言った……。軍事転用なんてさせない」
「なるほど」
ドメニコが指を鳴らすと男たちが襲いかかってきた。
アレシュは魔法障壁を展開して後退し、男たちと距離を取る。その隙に両手の義手を刃の形に変形させると、鋭い目つきで敵を見据えた。
「なんと、義手だったのか……。ははは、おもしろい。お前たち、なんとしても生け捕りにしろ!」
ドメニコが叫ぶと、男たちがじりじりと迫ってくる。
「そうはさせるか!」
アレシュは一気に前進し、最初の男に向かって刃を振り下ろした。男は驚きの表情を浮かべたまま倒れ込んだ。次の瞬間、別の男が背後から襲いかかってきたが、アレシュは素早く反応し、刃を振り返して防御した。
「まだまだ!」
アレシュは片手を盾の形に硬化させ、敵の攻撃を避けつつ、刃を振るう。男たちはその攻撃をかいくぐりながら、何度も迫ってくる。だが、気づいていなかった。アレシュの靴を突き破り、飛び出した棒状に変化させた義足の存在に。
「食らえ!」
アレシュが魔力を流すと、彼の足下に描かれた魔法陣が発動する。風の魔法、そして火花。大きな爆風が男たちを吹き飛ばす。
男たちは爆風に巻き込まれ、次々と地面に倒れ込んだ。しかし、まだ数人が立ち上がり、再びアレシュに向かって突進してきた。
「しぶといな……!」
アレシュは再び義手の刃を振りかざし、敵の攻撃を防ぎながら反撃を続けた。彼の動きは鋭く、敵の攻撃を巧みにかわしながら、次々と倒していった。
「これで終わりだ!」
アレシュは最後の男に向かって突進し、義手の刃を一閃させた。男は驚愕の表情を浮かべたまま倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ……」
アレシュは荒い息を吐き、周囲を見渡した。男たちは全員倒れ、静寂が戻ってきた。しかし、ドメニコの表情には焦りの色は無かった。
「やるじゃないか、アレシュ君。しかし、これで終わりではない」
ドメニコは冷笑を浮かべながら、手を振り上げた。その瞬間、アレシュの背後から新たな敵が現れた。
それには見覚えがあった。冷え冷えとするような冷たい目。そして青い髪。それはエアハルトを殺した殺人ホムンクルスだった。
「……ぐっ」
アレシュの中に、一瞬怒りの炎が暴れ回る。
(駄目だ、冷静になれ。あのホムンクルスは俺が倒した。どんなにそっくりでもこれは別物だ)
「……やれ」
ドメニコの命を聞いて、ホムンクルスの瞳が怪しく光った。
「はい」
ホムンクルスは一歩前に出ると、ナイフを鞘から抜いた。アレシュの額を汗が一筋流れていく。二人は間合いを取りながらにらみ合う。
「うおおお!」
先に動いたのはホムンクルスだった。襲い来るナイフをアレシュは魔法障壁で躱す。だがすぐ次の刃がアレシュを襲った。
「……っ!」
頬に鋭い痛みが走る。アレシュは頬に流れる血を拭った。速い。前に倒したホムンクルスよりも動きが洗練されている。
「……シッ」
休む間もなく再び攻撃が繰り出される。先ほどの男たちとの戦いで疲弊しているアレシュは、徐々に追い詰められていった。
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