第28話 復讐のてがかり
その晩、アレシュはコンテスト後の懇親会で沢山の大人たちに囲まれた。
「ええ。こちらは父さんの創ったホムンクルスで、俺は彼女に育てて貰ったようなものです」
アレシュは引きつりながらその応対に追われた。突然現れたエアハルトの息子に皆興味津々だったが、アレシュは口にする情報を最低限に絞っていた。特に崩壊石のことや、魔導義手に関するものについては話さない方がいいとカインにも言われていた。
そのカインもアレシュの横にぴったりとついてアシストしてくれている。
「へえ! カイン・オブライエンの弟子なのかね。これは将来が楽しみですな」
「よくやってくれていますよ。いずれギルドの方にも登録をしようと思っています。なあ、アレシュ」
「あ、はい! そうですね」
アレシュは引きつった笑いを顔に貼り付けつつ、キョロキョロとあたりを見渡してした。あの日見た、痩せぎすの男。彼がこの中に紛れていやしないかと。
懇親会の喧騒の中、アレシュの心は落ち着かなかった。彼の視線は絶えず動き、周囲の人々の顔を一つ一つ確認していた。父を殺した男――彼の存在がアレシュの心に重くのしかかっていた。
「アレシュ、大丈夫か?」
カインが心配そうに声をかけた。
アレシュは頷いたが、心の中の不安は消えなかった。彼は再び周囲を見渡し、痩せた男の姿を探した。しかし、見つけることはできなかった。
その時、突然背後から声がかかった。
「アレシュ君、少しお話しできるかな?」
振り返ると、そこには一人の中年の男性が立っていた。彼は穏やかな笑みを浮かべていたが、その目には鋭い光が宿っていた。
「もちろん、何でしょうか?」
アレシュは警戒しながら答えた。
「君の父親、エアハルトについて少し聞きたいんだ。彼の研究について興味があってね。」
アレシュの心臓が一瞬止まったように感じた。彼は慎重に言葉を選びながら答えた。「父の研究は多岐にわたりますが、具体的にどの部分に興味があるのでしょうか?」
「彼の最後の研究についてだよ。」
その言葉に、アレシュの全身が緊張した。アレシュは一瞬カインの方を見たが、カインもまた緊張している様子だった。
「最後の研究については、あまり詳しくは知りませんが……」
アレシュは慎重に答えた。「そうか。まあ、無理に聞き出そうとは思っていないよ。ただ、君が何か知っているなら、ぜひ教えてほしいと思ってね。」
その言葉に、アレシュはさらに警戒心を強めた。彼は何とか話題を変えようと試みた。「それよりも、今夜のコンテストについてどう思われましたか?」
「素晴らしいコンテストだったよ。君の作品も見事だった。」
アレシュはその言葉に少しだけ安心したが、心の中の不安は消えなかった。彼はこの男が何を企んでいるのか、そして痩せた男との関係があるのかを探る必要があると感じた。
懇親会が続く中、アレシュはその場を離れ、カインと共に静かな場所へと移動した。
「カイン、あの男は何者なんですか?」
「ギルドの役員だ。人当たりが良くて周りの評判はいいが……。でも、気をつけた方がいい。彼が何を知っているのか、そして何を求めているのかを探る必要がある。」
「分かった。気をつけます」
その夜、アレシュは眠れぬまま、痩せた男と中年の男性のことを考え続けた。あの男と接点を持とう。そうすればいずれ、父を殺した犯人に辿り着く。アレシュはひとり寝返りを打った。
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