第27話 最終勝負
「さて、それでは最終決戦! 皆さんには知識、技術、想像力の総合力を競っていただきます。錬金術師として実践的な能力を試すこの勝負、ここから巻き返しも可能かもしれません……!」
その司会の言葉に、参加者たちは色めき立つ。
「それではお題を! 今回は実際の依頼を想定しています。ある一家が旅に出ることになりました。そこで護身用の錬金アイテムを依頼されました。では、このお題でそれぞれ製作してください!」
参加者たちが動き出した。制限時間は三十分。複雑なものは作れない。作るとしたらテーブルの上にあるものをアレンジすることになるだろう。
「よし……」
参加者たちはテーブルの上に並べられた材料を見つめ、思案にふける。そこには、金属片、薬草、宝石、そしていくつかの不思議な液体が並んでいた。各々が自分の得意分野を活かし、最適な護身アイテムを作り出すために頭をひねった。
「残り時間五分です! 仕上げをしてください」
参加者たちは最後の仕上げに取り掛かり、アイテムを完成させた。
「それでは完成したアイテムを紹介して貰いましょう」
参加者たちは中央の台にアイテムを並べる。あるものは障壁の効果を持たせたテントを。またあるものはすぐ硬化する足止め用の粘液を。そして先程勝ったティナは護身用のアミュレットを。きっと彼女は宝石を加工するのが得意なのだろう。
「おしゃれですね。携帯性にも優れています」
そしてやはり審査員からも好評だった。自分はこの作品を超えられるだろうか。アレシュはドキドキしながら自分の護身用アイテムを提出した。
「これはなんですか? 魔導ランタンですか?」
それを見て司会が質問してくる。
「そうです。でもただのランタンではありません」
アレシュは光源の前にレンズを取り付けた。そして明かりをつけると、レンズに彫り込んだ魔法陣が地面に展開する。
「これは防御の魔法陣。そしてレンズを回転させて入れ替えると、水、火、雷の攻撃魔法も使えます。旅に行くならランタンを持つと思って作りました。これなら女性や子供も使えます」
「素晴らしい! これなら一家をしっかりと守ることができますね」
と、審査員の一人が感想を述べた。
他の参加者たちもアレシュのアイデアに感心しつつ、自分たちのアイテムがどのように評価されるかを見守っていた。司会者は一通りのアイテムを確認し終えると、審査員たちに最終的な評価を求めた。
審査員たちはしばらくの間、低い声で議論を交わし、最終的な決定を下した。司会者はその結果を受け取り、参加者たちの前に立った。
「皆さん、お疲れ様でした。どのアイテムも素晴らしい出来栄えで、審査員一同、非常に悩みました。しかし、最終的に勝者を決定しました。今回の最終決戦の勝者は……アレシュさんです!」
大きな拍手がアレシュを包み込んだ。
「やった……!」
審査員席に目を移すと、伯爵夫人が小さく手を振り、カインが微笑んでいる。
「アレシュさん、おめでとうございます! あなたの魔導ランタンは、実用性と創造性の両方を兼ね備えた素晴らしいアイテムです。これからもその才能を活かして、さらに素晴らしい錬金術師になってください」
司会がそう言いながらアレシュにトロフィーを渡した。
「どうぞ勝利の一言を」
拡声器を渡されて、アレシュは一瞬戸惑った後、客席に向かって話し出した。
「俺は自分に特別な才能があるとは思ってません。全ては父さんの……エアハルト・フィレンツの教えてくれたことです。それらを一番近くで見て、俺は錬金術を学びました。父さんは人を錬金術で幸せにしたいと思っていました。だからその遺志を継ぐのは俺にしか出来ないと思っています。これから俺は幸せを創っていきたいと思います」
アレシュの言葉に割れんばかりの拍手と声援が贈られた。アレシュは興奮と感動で頬を火照らせ、一礼して舞台袖へと引き上げた。
「アレシュ! すごいわ」
ミレナが駆け寄り、アレシュの首元に抱きついた。
「絶対勝つって思ってたわ。だって私のアレシュだもの」
「ははは……ああ、そうだ。これミレナにあげるよ」
アレシュは先ほどの課題で創った護身具をミレナに渡した。
「いいの?」
「うん。これから何があるか分からないからね。誰を守りたいかって思ったらミレナのことが思いついて」
ミレナはぎゅっと魔導ランタンを抱き締めた。
「ありがとう。私もこれでアレシュを守るね」
こうして錬金術グランプリは幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます