第16話 強欲の代償

 居城に戻ったアルカイウスは高笑いしながら執務室の席についた。


「あの顔を見たか? この世の終わりのような顔をしていた」


「領主様、さすがにやりすぎでは……」


「馬鹿者!」


 苦言を呈した側近を、アルカイウスは怒鳴りつけた。


「私は父とは違うのだ。こんな小さな領地で満足する器ではない。戦で不安定な中央に金を送り、もっと盤石な立場を得るのだ!」


 アルカイウスはヒステリックに叫び、机を叩きつけた。その時、窓辺にいた鳥が、羽ばたいていった。


「よしよし、こっちだよ」


 アレシュが手を差し伸べると、鳥はその手に止まった。それは小鳥型のホムンクルスだった。アレシュがナビと名付けたそのホムンクルスは、先ほど聞いた話をアレシュに聞かせた。


「やっぱりそんなところか。だったらなおのこと役に立ちそうだ」


 アレシュはそのまま、領主の館へと向かった。


「こんにちは。旅の錬金術師です。珍しいものを作ったので、ぜひ領主さまにお見せしたいと思いまして」


 そう言ってまんまと中に入り込んだアレシュは、広間に通された。


「なんだ錬金術師。つまらないものだったら承知しないぞ」


「いえいえ。これなら国の社交界でも注目間違いなしの品です」


「……なんだ」


「こちらの指輪……その、夜のですね。アッチの方がビンビンになります」


「ビンビン……」


 アルカイウスの顔色が変わった。ちょうど今夜美しい人妻がその身をささげにくるところだ。ちょうど良い、と彼は考えた。


「はい。試しに付けてみてください」


「ほうほう」


 アルカイウスはほくほくとその指輪を身につけた。何の変哲もない、シンプルな指輪だ。だが、それを指に嵌めた途端、下半身が滾っていくのを感じた。


「おお……!」


「その指輪の効果は絶大です。指輪を嵌めている限り、勃起状態が続きます」


「なるほど……ん? 外れないぞ。おい錬金術師、外してくれ」


「それには勃起持続の魔法の他に、解除の指輪がないと外れないようになっています」


「ふざけるな! その解除の指輪も一緒に寄越せ!」


 喚くアルカイウスの声を無視して、アレシュはこほんと咳払いをした。


「ちなみにですね。ずっと勃起したままだと、人は死にます。具体的には六時間くらいで腐ってあそこがもげます」


「じょ……冗談じゃない!」


 アルカイウスの顔色が真っ青になった。腐り落ちる我が息子の姿を想像して、脂汗を掻き、股間をぎゅうと握りしめた。


「解除には条件があります」


「なんだ……」


「税金はこれまで通りにして、結婚税なんてくだらない重税は二度と課さないと約束してください」


「なんだと……!」


「解除の指輪は村人が持っています。さ、とっとと行って撤回しないとチンコがもげますよ!」


 アレシュはそう言い捨てると、煙玉を投げ、その煙の中に身を隠して館を脱出した。




「えぐいことするなぁ……」


 解除の指輪を手にしたオリバーはどこか呆れたような顔をしていた。


「それくらいしないと。ま、とにかくしばらくしたら領主がくると思うので。もしまた税金を上げようとしたら、連絡ください。他にいくつか手は考えています」


 アレシュはオリバーに精霊通信の石を渡した。これは大気中の精霊の力を使ったもので、ごく簡単なメッセージに限られるがどこでも知らせを受け取れる。


「じゃあ、俺たちはもう行きますね。一応お尋ね者になっているだろうし」


「おい、外した指輪はどうするんだ。回収しないのか?」


「……持ってても俺にはちょっと早いので。オリバーさんにあげますよ」


 アレシュがにやにやしながら言うと、オリバーはアレシュの頭を小突いた。


「馬鹿、そんなもん無くたってなぁ……ま、いいや。貰っとくよ」


 お幸せに、とアレシュはオリバーに伝えてミレナと共に村を後にした。




 アルカイウスがどす黒い顔色になってやってきたのは、夜になってからだったという。


 オリバーに謝罪して指輪を外して貰ったアルカイウスだったが、恐怖からか、しばらくその股間は使い物にならなかったという


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