召喚士「ゴーレム、お前明日からAIな」

@ERGN7mMpryt3mfLffJ7mL

A-1

 意識ははっきりとしている。しかし体は動かせない。目を開くことすらできない。初めは金縛りかと思ったけれど、別に幽霊が話しかけてくることはない。

 何かの小説の記述を思い出した。練炭自殺をすると動けないが地獄の苦しみを味わうことになるらしいと。もちろん自殺するつもりもないし、練炭なんてもってない。だが、不完全燃焼が起こっている可能性は否定できない。


 私がグダグダと考えていると私に話しかけてくる存在があらわれた。いや、話しかけられるというと語弊がある。頭の中に直接語りかけてくる感じでもない。その声はまるで昔から知っていた知識のようだ。


 その声によると、これから私はキャラメイクをしなければならないのだという。そしてどうやら彼/彼女は神様らしい。もちろん証拠なんてあるわけないが、少なくとも人間よりすごい存在なのだろう。


 私はおとなしくその声に従ってキャラメイクをすることになった。とは言っても見た目を変更することはないようで、ポイントを使ってスキルをとることになる。


 私はこれから転生/転移する異世界に想いを馳せた。

 文字通り剣と魔法の異世界なら戦闘力がないと危険があぶない。

 ある程度文明が発展しているなら第三次産業に従事した方がいいかもしれない。

 地球と同程度の文明なら、身分証なしの不審人物にならないようにすることが第一目標かもしれない。

 地球より進んだ文明なら、私には何が必要なのか想像もつかない。


 だが、神様に質問することはできない。いずれの場合も想定してスキルを構成しなければならないだろう。


 私に良案はなかった。スキル一覧と睨めっこしながら作戦を立てる。戦闘に対応できて、戦闘外でも応用ができて。高性能なスキルは必要なポイントも多い。私の要求を満たすようなスキル構成は見つからなかった。


 しばし経って、私は一度冷静になって、初めから考えなおすことにした。

 まず私の目標はなんだ?もちろんどんな異世界でも活躍し、いい生活を送ることができれば文句なしだが、高望みかもしれない。目標を下方修正しよう。私の目標は今の生活水準をできるだけ落とさないことだ。

 であれば、地球相当社会か未来社会に転移/転生したときは、あまり考慮に入れなくていい。現地の福祉政策に期待しよう。

 アメリカみたいにホームレスは刑務所行きだったらどうしようか。諦めて自殺でもするか。まぁいい。その時はその時に考えよう。


 とりあえず私に必要なのは戦闘能力と近代以前の文明での応用能力。この二つであれば条件を満たすスキル構成もあるだろう。


 剣道や柔道をしたことがない私がモンスター相手に近接戦闘できるとは思わないので、魔法使い系ビルドにしようかな。となると、自身が攻撃するのも難しいかもしれないから、使い魔に戦闘をさせる召喚師が適切。


 忘れていたが、異世界で日本語が通じる可能性はなきにひとしい。言語習得能力にもスキルポイントを振っておく。

 他にも細々としたことを確認しているとまるで海外旅行を準備しているみたいだった。ワクチン代わりの免疫系能力向上。軟水/硬水問題用の水生成、並びに、食料調達用の有機物生成の二つを請け負う生成魔法。


 最終的に魔法使いビルドは以下のようになった。

 基本職の魔法使いはlv100、そのオプションの生成魔法はlv20。派生職の召喚師lv100。そして免疫系能力向上と言語習得能力向上という二つの能力向上。


 あえて感想を述べるとしたら、魔法の分類がゲームとは違ってわかりにくいということだ。火を起こすために火属性魔法を探していたが見つからなくて困っていたら、操作魔法の下位分類に加熱魔法があるのはなんというか…。最終的にはポイントの関係で取ることができなかったが、未来の自分は火を起こすことができると信じたい。


 完成した。そう思っていると自然に意識が朦朧とする。声によればこれに抵抗すれば再びスキル構成を変更できるらしい。私には関係のない話だ。



 目を覚ますとそこは見慣れた自分の家だった。外を確認するがいつもの景色が広がっている。家ごと転移という線もないだろう。

 だが、これまでの体験がただの夢だとは思えない。羞恥心を振り切って水生成と口に出すと、私の前に水が現れた。白い煙が出ているので演出もバッチリだ。しかし操作魔法を習得しているわけではない。水は重力に従って床に落下しフローリングを濡らす。そう思われたが、下を見ると氷の山ができている。過冷却水だ。氷を直接触るのは怖かったので近くのペンを取って突いてみても崩れない。

 私がその時考えていたのは、生成魔法に温度を設定する機能はないのかもしれないということだ。シンクに向かって何回か水を生成してみたがどれも氷になってしまう。生成時の白い煙も演出ではなくて周りの空気が冷やされてできたものなのかもしれない。-273℃(絶対零度)の氷を直接手で触っていたらと思うと少々ゾッとする。


 この実験であの体験が夢でないことを示すことはできたけれども、現実世界で魔法を有効活用できるだろうか?

 生成魔法で金などの貴金属を生成することはできるだろうけれども、国税にバレずに売り捌くことができるだろうか。

 あるいは、文字通り一山いくらの山を買ってそこからレアメタルが出土したことにしようか。だが、公害を考えると規制のガバガバな発展途上国や中国ではなく、日本でそれを処理することは難しいだろうから宝の持ち腐れになる可能性もある。あと金に変えるまで時間がかかる。


 結局のところ生成魔法は出どころを探られると非常に困る。魔法の存在がバレて人体実験されたり、そこまでいかなくても、タチの悪い有名税を払う羽目になるだろう。


 とはいえ、召喚魔法はもっと難しい。モンスターを召喚しても、魔法を隠してたままで何か売ることができるものはあるのか?


 その時思い至ったことがある。そうだ、モンスターの知性を売ろう。



 「というわけでゴーレム、お前は明日からAIな」


 「えっ」

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