後篇 どうして、そうなったのか
私の名前は
名前。そんなものに意味も価値もない。この世界ではもう言語も瞳や肌の色も関係なく人間は二種類の差異で判断するしかない。それは性別でも幼いか老いさらばえたかという違いでもなく、魂が宿っているか空虚な亡骸かという違い。
「何か、書かれているのですか?」
「
魂の
「日記……ですか。私も昔はよく文章を執筆したものです」
「そういえば、そうだっけ。
いえ、パソコンやスマートフォンを使っていましたと返す
「どうして……
「ちょうど二十年になるから、たまには……手記みたいなものも悪くないかなって」
なるほど、と
*
戦争という事象に明確な〝始まり〟や、ある日いきなり「これが原因で起きた」という転機はあまりないらしい。
「二十年、ですか」
「そう、今日は七月六日」
あの日、西暦二〇二四年の七月六日に地球は〝何か〟から侵略を受ける。考えてみるとそれは戦争ですらなく、一方的な
「そんなに、経つのですね」
「私は……まだそんなもんなのか、って気持ちかな」
若いですからね
「
「言ってみて、想像はつくよ」
命の恩人たっての依頼だ、断りたいけれど
「私は、もうダメです。それは分かりますね?」
「うん」
「
「でもね
大丈夫という言葉は、
「大丈夫……とは? 詳しく教えていただけますか?」
「外でさ、私……感染者の観察もしてるから」
感染者は人を襲う、怪物の仲間を増やそうとする、そんなことは私が知る限り二〇四〇年前後までの話だ。そうじゃないと、おいそれと観察なんかできない。
「なるほど、私が
「多分だけどね」
「外の……侵略の様子も、気になります」
「そっちも! 大丈夫だから、多分!
侵略。
見えない何かで最初の波を起こした連中が〝感染者〟を増加させる第三波の前に行使したと思われる干渉に、大型の植物が存在する。当時の
コンクリートジャングルと呼ばれた私達の街にどこからか放たれた種子は
「大丈夫、と……言いますと?」
「あのね……遅いの、成長。何年も前から、ずっと」
植物も感染者も、その仕組みや対策を究明するに
「それは、喜ばしい……何年……頃から、です?」
「待ってね、えーと……」
カレンダーが役に立って嬉しいですとでも言いたげに、
「なる、ほど。そう
「
植物の成長速度は
みるみるうちに増え、伸びていった植物は
*
最初に〝彼ら〟を目にした瞬間「ああ、私はここで死ぬのかな」と思った。
二人組の浅黒く、それでいて真っ赤にも見える肌、
異星人とは
『
二人組のうち一人、固そうなマスクから聞き慣れた単語が響いた。よく見ると、一つの頭に三つの目を持つ彼らは二人とも、赤い肌にじわりと透明な汗を
「異星人も暑かったり、汗かいたり……するんですね」
私の口から
『するさ、いやぁ……こう暑いと
『お、言語は問題ないな。俺も分かるぜ? えーと、何て呼べばいいかな?』
二人組は腰を
「なんで……植物を使って、侵略なんか……したんですか? 何をしたいんですか」
言い
『オーケイ落ち着いてくれ、君は
『おい待てウミベ、お前が口を開くと話がややこしくなる。僕が説明しよう』
聞くところによると、私達の世界をめちゃくちゃにした集団と目の前の二人組は別個体というか、勢力も種族も違っていたらしい。そして侵略を行った連中は滅んでいた。
侵略者は奴らの生態に適した環境へ惑星を組み
『さて、僕達の目的はというと……』
二つの事実が確定した。もはや不快感しかない青々と
『関係ないけどさ、君は哺乳類……だろ? 何を食べて生きてたの?』
「
勝手に侵略してきて死んだ連中も、唐突に目の前に現れて好き勝手に述べる二人組も、勝手な奴ばかりだと私は
「保護のお話は、お断りします」
『どうして? 脳を残して他を切除すれば、まだ生きれるっていうのに!』
私には、
かつて地球と呼ばれた星、
いつか終焉を迎える、その日まで。
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