鉱石 ツナパン
はいこれ、と言って渡されたのは、青と紫が綺麗なポストカード。どうしたのこれと訊いたら、おかあさんからもらったとのこと。
「職場の人に何枚かもらったんだって。あんまり綺麗だから、夕陽くんにも一枚あげたいなって」
「いいの? ありがとう、本当に綺麗だね」
「うん! マ……お母さんから聞いたんだけど、このポストカードの絵ね、鉱石を砕いて作った絵の具で描いているんだって」
「へえ……」
ポストカードには、海底の絵が描かれていた。濃淡を使い分けて紫色で水を、青色で砂や岩を表現している。どこかぼやけた味わいがあり、本の挿し絵に似合いそうだ。
「他のも見てみたいな……」
「いいよ、持ってきてるから後で見せるね」
「えっ、あっ、ごめん独り言」
「気にしないで、夕陽くんと一緒に見て楽しみたい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
おれの返事を、真昼ちゃんは嬉しそうに聞いている。そんな様子を見ると、本心から言ってくれているんだろうなって安心するし、おれも嬉しくなる。──可愛いな、もっと喜んでほしいな、なんて思ってしまう。
「お礼って言ったらアレだけど、ツナパンあげるよ」
「ツナパン?」
「ロールパンにツナを詰め込んだやつ」
「美味しそう」
「だといいな……」
「え?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、一応、言っておくべきことを口にした。
「今日のツナパン、おれが作ったの。にいちゃん、ちょっといつもより起きるのが遅くなって、それで忙しそうだったから、自分の分は自分でやらないとなって、その……」
「夕陽くんの優しさが込められているんだね、楽しみにしてる」
「……っ」
嬉しそうに笑う彼女の顔に嘘はない、ように見える。心なしかキラキラと輝いて見えるのは、おれの気のせいか、それとも、夏の日差しのせい?
早く図書館に行こう、なんて言いながら、彼女がおれに手を伸ばす。何の為に? ……手を繋ぐ為に? いいの、そんなことしても。
真昼ちゃんを見ると、徐々にその可愛らしい顔が赤く染まっていく。恥ずかしくなってきたのか手を引っ込めようとするから、慌ててその手を掴んだ。
「あ」
「……い、行こうか」
「……う、ん」
おれ達の足取りはやけにゆっくりで、気持ち、いつもより遅く図書館に辿り着いた。
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