深夜二時 ツナオニオントースト
昼の暑さというのは、身体に纏わりついてくるような不快感があるが、日付も変わった深夜二時、ちょうどいい温かさになっていると思う。まあ、家を出て五分も経っていないからそう思うのであって、しばらくすれば汗が止まらなくなるんだろうか。その時はもう一度風呂に入るべきか。
一人であれば、真夏の夜空を眺めようとしたのかもしれないが、同行者が横にいる。人気はないが、いやないからこそ、周囲をそれとなく気にしながら、同行者と声をひそめて会話していった。
「ツナ缶がもうないんだ」
「それは困ったね」
「スーパーも閉まったばかり。そうなるとコンビニしかないだろ?」
「コンビニって便利。アイスもあるもんね」
「そうだったな、それも買い足しておかないと」
本当は一人で向かうつもりが、家を出てすぐ、まだ起きていたらしい夕陽が追いかけてきた。
どこに行くのと問う声は焦りを帯び、ただコンビニに行くだけと伝えると、おれも行くと言い出す。断ろうかと思ったが、後ろから勝手についていくからと言われれば、諦めて横並びに向かった方がこっちも安心だ。
「にいちゃんとお出かけ、楽しい」
「ただコンビニに行くだけだろう」
「コンビニはテーマパーク」
「は?」
そんな与太話を繰り返しながら、あっという間に最寄りのコンビニに辿り着く。店内の涼しさに思わず吐息が溢れた。
真っ直ぐ缶詰のコーナーに行ってツナ缶をいくつかカゴに入れ、夕陽ご所望のアイスコーナーへ。
「アイス大福のチョコ味なんてあるんだな」
「コンビニ限定だって。こっちのミニミニパッキンアイスは宇治抹茶オレとストロベリーオレと二種類もあるし」
「普通にバニラソフトクリームでいいな」
「おれはオレンジシャーベット」
「コンビニ限定のはいいのか」
「今回はいいや」
カゴに欲しいものを入れていき、いざレジに行こうとパンコーナーを通り掛かった時に、それを見つけた。
「……っ」
「ツナオニオントースト? なんか美味しそうだね」
「そうだな。……買うか」
「おれの分もお願い」
二個カゴに入れ、今度こそレジに。会計を済ませてコンビニを出た。
◆◆◆
玄関に入った時点で、叔父さんのいびきが聞こえてきた。音の発生源はリビングのソファー。寝落ちしたらしい。夕陽に買ったものを棚や冷凍庫に仕舞うよう頼むと、叔父さんの部屋からタオルケットを持ってきて、眠る叔父さんに掛ける。
「お疲れ様です」
「にいちゃんもお疲れ様です」
声を掛けられ振り返ると、コンビニで買ったパンを両手に一個ずつ持っている夕陽がすぐ傍に立っていた。
「お夜食にしよう」
「もう寝た方がいいんじゃないか?」
「小腹空いちゃったよ」
「……なら、食べるか」
一個パンを受け取り、ダイニングの席に着いて一口。油っこいパンと玉ねぎ、それにツナの味が一気に口内に広がる。うっま……。
二口三口と食べていく。美味しいものはガツガツ食べてしまい、なかなか止まらない。
「たまにはコンビニパンもいいね」
「だな」
あっという間に食べ終わり、もう一個ぐらい買っても良かったな、なんて話し掛けたのをきっかけに、ついつい話し込んでしまい、気付いた時には朝の四時。
「明村さん家のお嬢さんとは今日も会うのか?」
「……九時に」
「急いで寝ろ。歯磨き忘れるなよ?」
はーいと言いながらダイニングから出ていく夕陽。彼の背中を見送ると、ゴミの片付けや叔父さんの様子を確認し、俺も寝ようとダイニングを出た。
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