カラカラ ツナトマト
紙飛行機を投げれば、重力に従って速やかに床へ落ちる。
今日もダメだった。
もはや溜め息も出ない。いつも通りに床から拾い上げたタイミングで、玄関から物音がした。
「……?」
壁時計に目を向ける。午後二時を過ぎていた。叔父はもちろんとして、明村真昼と図書館に行っているはずの夕陽が戻ってくるにも早すぎる。なら、物音の正体は……?
だだだだと派手な足音がこちらに近付いてくる。隠れる時間も、武器を用意する時間もない。ダイニングの扉が開かれる。
「てん、ごくっ!」
夕陽だった。
だーとか奇声を発しながら入ってきて、俺に一瞥もくれずに通り過ぎ、真っ直ぐ冷蔵庫へ。何となく視線で追っていくと、冷蔵庫から五百ミリペットボトルのほうじ茶を取り出して直飲みしだした。
普段家ではグラスに注いで飲んでいるのに、珍しい。一気にペットボトルを空にした夕陽は、そこでやっと俺を見て、ただいまと弱々しい声で言ってきた。
「ごめんね、喉カラカラで」
「別にいいが……そんなに外は暑いのか」
「暑い暑い。暑すぎて干からびちゃう。持たせてくれた水筒のお茶、温い所かあったかくてさ、もうどうしようって」
「おっかないな……」
俺もキッチンに行き、冷蔵庫の中身を確認する。アイス……はなかった。悪いと夕陽に謝れば、彼はきょとんとした顔で首を傾げるだけだった。
せめて何か冷たくなるものをと色々探った結果、トマトを発見。
「にいちゃんのツナトマト、食べたいなー」
「……え、逆にツナトマトでいいのか?」
もっちろん! と元気良く返事をされたから、取り敢えず作ることにした。
トマトを一口サイズに切っていき、ボールの中へ。そこにツナ缶と調味料をいくらかぶちこみ混ぜていく。これで完成。皿に取り分け、間近で見ていた夕陽にスプーンと一緒に渡せば、その場で食べ始めた。
「冷たーい! スプーン止まんないよ! オアシス!」
「そうか」
言葉通りに夕陽の手は止まらず、ツナトマトはあっという間に消える。物足りなさそうな顔の夕陽に、そっと俺の分を渡した。
「え?」
「いや、そんなお腹空いてないから」
「……っ。……うーん、でもな」
「遠慮せずに、ボナペティ」
「何それ。……じゃあ、いただきます!」
恭しく俺から皿を受け取ると、やはりその場でがっつきだす夕陽。ぼんやり彼の様子を眺めながら、訊ねてみた。
「今日は暑いから早めに別れたのか?」
「違うよ。真昼ちゃん、今日はおばあさんのお見舞い行くからって、それで早めに切り上げてきたの」
「ああ……。大変だな」
「だね。でもね、おばあちゃんに会えるって、嬉しそうだったよ」
「そうか。早く退院できるといいな」
ねー、なんて返事と共に、最後のトマトが夕陽の口の中に消える。洗ってやろうと空いた食器に手を伸ばせば、自分でやるよと率先して洗いだした。
ダメと拒む理由もない。じゃあ頼むよと言って、ダイニングテーブルに向かう。洗い物してもらっている間に、夕陽用のプリント最終チェックして、印刷してしまわないと。
「今日の問題はちょっと難しめだぞ」
「うへー。お手柔らかにー」
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