ストロー ツナきゅうり
最近のストローは紙製が多いと聞く。
普段カフェやファストフードの店に行かないから、風の噂で聞くくらいで、実際にカップに紙のストローが差さっている所は見たことがなかった。
◆◆◆
「美味しそうだったから買ってきたよ」
今日も今日とで、明村真昼と共に図書館に行っていた夕陽。帰ってきた彼の手には、珈琲カップが描かれた小さな茶色い紙袋があった。
「ほうじ茶ラテだよ。ホイップがたっぷり乗ってるの」
「ほうじ茶ラテ……飲んだことないな。旨いのか?」
「分かんない。でも美味しそうだったから」
「……取り敢えず、頂こう」
いつにも増して暑いから、今夜は冷麺にするつもりで、先に副菜のツナきゅうりを作っている途中だった。
ボールの中にきゅうりとスライサーを置いて、夕陽と共にテーブルに着く。紙袋から出された紙のカップは蓋だけがプラスチックで、夕陽はそれを外すとご丁寧にもストローを差してから渡してくれた。
ストローは紙でできていた。
「紙か」
「紙ですがよろしいですかって訊かれたよ。にいちゃん、紙ストロー嫌な人?」
「……いや」
これが初の紙ストローなんだ、嫌かどうかは分からない。
ストローに指を添えて、試しに口に咥えてみる。違和感がなくもないが、意外と硬いから問題なく吸えそうだ。
「いざ!」
「ひは。……」
「……」
最初は、ん? と言いたそうな顔をしていた夕陽。
次に首を傾げ、吸い続け、徐々に眉間に皺ができていく。
言いたいことは分かる。だから代わりに言おう。
「ちょっと苦いな」
「……ホイップじゃなくて、アイスクリームにしてたら違ったかな?」
「さあ?」
俺としては、このほろ苦さ、悪くないと思うが、夕陽にはまだ早かったらしい。それでも残すという選択肢はないようで、顔をしかめながらも全部飲み干していた。
俺も飲み干し、空になったカップを夕陽の分と一緒に手に持って立ち上がる。
「アイスでも食べるか?」
「いい。夜ご飯前だし」
「そうか」
流しに持っていって手早く片付け、きゅうりのスライスを再開する。あっという間に一本二本と消えていき、山盛りのスライスされたきゅうりの中にツナ缶二個をぶちまけ混ぜていく。
よく混ざった所で、皿に盛りつけていき、先にダイニングに持っていった。
テーブルの上に寝そべっていた夕陽が、俺が来たことに気付くとゆっくり身体を起こし、俺を見る。
俺が手に持つツナきゅうりを視認すると、彼の丸い目がきらきらと輝きだした。
「ツナきゅうりー!」
「好きだっけ?」
「好きー」
彼の前にツナきゅうりを置くと、本当に好きなようで、身体を揺らしながら笑っていた。
「ツナきゅうりのサンドイッチとか食べてみたい」
「急だな」
「なんかね、見てたら思いついた」
「……今日はこれと冷麺なんだ。夕陽だけサンドイッチに変更するか?」
「……うーん……いい。違う日に自分で作るよ」
「……そうか」
明日の朝はツナきゅうりサンドにするか。きゅうりまだあるし。
そんなことを考えながら、冷麺の準備をすべくキッチンに戻った。
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