7月22日~7月28日
雨女 玉ねぎとツナの春巻き
玉ねぎ二個を気持ち大きめにみじん切りにし、ツナ缶二個と一緒にボールの中にぶちこむ。今日は春巻きにしようと思い、さっき春巻きの皮を買ってきた。
タイミング良く夕焼けチャイムが鳴る。
このくらいの時間には帰ると夕陽は言っていた。図書館は二十時までやっているが、明村真昼のことを考えれば、あんまり長い時間外出させるのは気が引けると、日が出ている間の帰宅を心掛けているようだった。
ある程度春巻きの具が混ざり、いざ、皮に巻こうとしたタイミングで、玄関の扉が開く音を耳にする。夕陽が帰ってきたらしい。おかえりと言ってやろうと振り返れば、
「にいちゃんあめ!」
そんな声と共に慌ただしい足音が家中に響く。どうやら二階へと行ったらしいのが音で分かった。
にいちゃんあめ。……雨?
小窓から外を眺める。目を凝らさなくとも、かなり降っているのがよく見えた。夕陽に言われた通りに窓を閉めきって冷房をつけているから、雨音に気付かなかった。
二階では洗濯物を干している。夕陽は取り込みに行ってくれたんだろうかと、軽く手を洗って、俺も二階に向かう。
『私、雨女なんだよね』
いつかの君の声がした。
不満げな声はいつもより低く、目を細めて窓を見ていた。確か、一緒に出掛けた時、喉が渇いたからとチェーンのカフェに入った途端に土砂降りになって、間一髪だったなと話し掛けると、君はそんな風に言ったんだ。
『楽しいことがある時はね、よく降られやすいんだ。今日は朝から降ってないから大丈夫だと思ったのに』
『……雨は嫌いか?』
『……うーん。雨音はね、好き』
『そうか』
俺も好きだよと返すのは、何となく気恥ずかしくて言えなかった。今なら言えるのに。
好きと伝えて何かしら反応してくれる相手がいるのは幸せなことだって、俺は知りたくなかったよ。
かなり急いでやってくれたのか、二階に着いた時にはもう、夕陽は全ての洗濯物を取り込んでいてくれた。
「にいちゃん! 間に合った!」
「さんきゅ、夕陽。今日は春巻きだから、夕陽の分はいつもより多めにしような」
「わーい!」
洗濯物ぶん投げながら喜ぶのはやめてほしい。
それとなく注意しながら、二人で洗濯物を畳んでいき、片付けてから一緒に一階へ戻った。
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