自由研究 ツナじゃが

「なあ、夕陽」

「……」

「夕陽?」


 ツナじゃが、美味しい……!

 ほんのりあったかいじゃがいもは柔らかく、甘しょっぱい味がする。ひっついてるツナにも味がよく染み込み、上に振り掛けられたネギがシャキシャキしていて、食べる手が止まらない。ご飯によく合うし、これじゃあ、おデブさんまっしぐらだなあ。

 そんな風に幸せに浸っていて、最初、にいちゃんの声がよく聴こえなかった。


「聴こえてるか、おい、夕陽。夕陽。夕陽くーん」

「……………………あ、何?」

「ツナじゃがそんなに旨いか?」

「最高のおかずをありがとう」


 そう伝えると、にいちゃんは少し笑ってくれた。にいちゃんが笑ってくれるとおれも嬉しい。


「それよりな、夕陽。ちょっと訊きたいことがあるんだ」

「何?」

「今日スーパーに行ったら、店内にある書店で自由研究の本が売られているのを見掛けたんだ」

「そんなのあるんだ。まあ、自由研究って何をすればいいか考えるの大変だし、そういうのあると助かるよね」

「俺が子供の時にもあったら良かったのにな。それでだ夕陽。自由研究といえば夏休みだ。夕陽の所はいつからだ?」

「え?」


 あれ、言ってなかったっけ?

 首を傾げると、にいちゃんも揃って首を傾げる。真似しないでほしいな。


「もうとっくに始まってるよ」

「えっ」


 驚きのあまり真っ直ぐ背筋が伸びたにいちゃん。そんなに? おれも背筋伸ばしてにいちゃんに向き合う。


「昨日からです」

「早くないか? てっきり、もう四、五日は通うかと」

「早いかな? 取り敢えず昨日からです」

「宿題も出たか?」

「……出ました」


 学生でいる内は逃げられないんだろうな。

 そこからは、どんな宿題が出たか、どんなペースでやっていくかの話し合い。それに合わせて、夏休みの間、おれ専用のにいちゃんのプリントも、おれの苦手分野を攻めていく方向で作られることが決まった。


「忙しくなるな」

「頑張ります」

「……明村さん家のお嬢さんも、もう休みなのか」

「みたいだよ。昨日会った時にそう言われて、睡眠サイクル狂わないように、都合がつく日は朝から図書館行ったりしようねって話したよ」

「あー夏休みだもんな。油断すると狂うよな」

「ねー」

「……なら、一日中勉強ってこともあるのか。食事面も気を使わないとな」

「何から何までありがとうございます」


 軽くお辞儀をすると、気にすんなって笑ってくれた。……優しくて頼りになる、おれのにいちゃん。

 そんな姿を見ていると、安心する。

 じっと見ていると、にいちゃんが不思議そうな顔をして見返してくるから、何でもないよと言って箸を動かす。


 夏休みは始まったばかり。

 勉強、頑張るぞっ!

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