7月15日~7月21日

岬 ツナ入りオムライス

 火傷するような熱さの浜辺、そんなことをまるで気にせず走り出す彼女の背をひたすら追う。彼女は意外と足が速い。距離は縮まらない。


『まっ……あさちゃっ……』

『だって夜くん、急がないと!』


 彼女は振り返らず、速度を落とさずに言うのだ。


『せっかく素敵な海に来たんだよー? あの岬の端っこまで行ってー、夜くんへの愛を叫ばないとー、私の気が収まらないー!』

『近隣への迷惑になるからやめろって!』

『ちゃんとねー、ポーズも取るのー! 私がTのポーズするからー、後ろから支えてねー!』

『違う映画混ざってないか!』


 俺と彼女の距離は、どんどん遠くなっていく。


「朝ちゃん、朝ちゃん。──朝ちゃん!」


 彼女の名前を叫びながら、目を覚ます。

 彼女はどこにもいない。

 ここは海じゃない。叔父から使っていいと言われた客室だ。もはや見慣れた天井からしばし視線を逸らせず、なんだか無性に叫びたくなった所で、スマホのアラームが鳴った。


「……」


 木こりの音、だったか。それを聴いていたら幾分か冷静になれた。身体を起こしてアラームを止める。朝の六時。朝食を作ろう。

 寝間着から黒のTシャツと七分丈のパンツに着替え、洗顔や歯磨きを軽く済ませてキッチンへ。今日はあれにしようと考えながら色々準備していく。

 ツナ缶に卵六個、玉ねぎにピーマン。米も予定通り炊けており、ケチャップにも余裕がある。

 野菜を手早く刻み、フライパンにツナと一緒に入れる。ある程度炒めたら三人分の米をぶちこみ、上手く混ざったらケチャップを掛ける。

 ケチャップライスができたら底の深い皿に盛り付け、次は卵。軽くフライパンを洗い、溶いた卵を焼くこと三回。ケチャップライスの上に被せて完成。我が家のオムライスはこうだ。

 ダイニングテーブルに置いていき、さて茶の用意を、という所でまだ眠そうな夕陽が起きてきた。


「おはよう……にいちゃん」

「おはよう、夕陽」


 挨拶だけ済ませてキッチンに戻る。フライパンを水に浸し、普段三人が使っているカップにほうじ茶を注いで、スプーンと一緒に盆に乗せ、ダイニングへ。

 夕陽は既に腰掛け、スプーンを待っている様子だった。

 待たせたと言ってスプーンを差し出すと、一瞬で奪い取られ、「はひは……とう、にいちゃん」と言い終わる頃には、最初の一口目が腹の中に消えた。そんなに腹が減っていたのか。

 二口三口とオムライスが夕陽の口の中に消えていくのを眺めながら、ほうじ茶を一杯。


「……にいちゃん」

「何だよ」


 俺を呼びながら、夕陽はなかなか続きを口にしない。スプーンを一旦置いて、茶を飲み、じっと俺を見つめるばかり。


「夕陽?」

「……一昨日、話したじゃない?」

「……明村さん家のお嬢さんのことだよな。知らないおっさんに話し掛けられてたって」

「そう。……大丈夫かな、真昼ちゃん」

「……」


 不安そうに俺を見てくる夕陽に、掛けられる言葉は少ないだろう。


「なるべく、気に掛けてやれ」

「もちろんだよ。もちろんそうする」


 夕陽の顔から不安は消え、どことなく覚悟の決まった顔で、オムライスをかきこみだす。

 何となくその様を見ているだけで腹がいっぱいになり、自分の分のオムライスに手を付けず、叔父が来るまでその食べっぷりを眺めていた。

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