チョコミント ツナのおにぎり

 今日の夕陽は寄り道をしたらしく、帰ってきてすぐダイニングに来た彼の手には小さなレジ袋があり、口の中には何か入っているようだった。


「ひーはん、ははひは」

「何て?」

「ほーへ、はひふはんほはっへ」

「分かんねえよ、何て?」


 ダイニングの自分の席で、さっき印刷した夕陽のプリントの内容を確認している俺の前に、手際良く袋の中身を出していく夕陽。どことなく微妙そうな顔をしているが、どうしたのか。

 もはや見慣れたあの店のおにぎりが五個に、緑と茶色のギンガムチェックのセロハン紙に包まれた飴が二個。


「ほふはほふは……とうかこうかん、してきた」


 口内のものを舌で避けてくれたのか、何を言っているのかは分かった。何を言いたいのかは分からないけれど。


「等価交換? また錬金術師になったのか、夕陽」

「そういう、わけじゃない。まひるちゃんと、こうかんした」

「……明村さん家のお嬢さんの真昼さんか?」

「そう」

「いったい何を」

「あめと、おにぎり」


 改めてテーブルの上に並べられたものを見る。飴が二個。夕陽は何かを頬張っているが、同じ飴だろうか。そしておにぎりは五個。うちには今三人の男が暮らしていて、二個ずつ分けようにも、これでは一人だけ一個しか食べられない。

 明村真昼から飴を三個もらった夕陽は、持っていたおにぎりを一個彼女にあげたということか。……等価交換になってるか?

 ほんのり疑問に思いながら、飴を一個手に取る。


「これ、味は何だ?」

「……ちょこみんと」


 ああ、だからそんな顔してんのか。

 チョコミント味のものって、歯磨きしてる気分になるから、あんまり進んで食べたいものじゃないな……。

 俺の顔も微妙なものになっていたのか、すっと、夕陽が掌を上にして俺の目の前に出してくる。


「いらないなら、たべるから」

「……それは、さすがに悪いだろう」


 さっさと包みをはがして、飴を口内へ。うっ。あっという間に広がる歯磨き粉の味もといチョコミント。心配そうに俺を見てくる夕陽に、大丈夫だと伝わるように何度か頷いて、おにぎりに目を向けた。


「つなだよ」

「つなか」

「あんしんして、ぜんぶつな」

「ぜんぶ?」

「だって、すきでしょ?」

「……すきだけど」


 作ってるのは俺だが、毎日毎日ツナ料理を食わされて、彼は嫌じゃないんだろうか。


「まひるちゃんにね、つなだいすきなんだねっていわれたから、そうだよって、いっておいた」

「……そうか」


 ツナの春巻きにツナサンドと、ツナ系ばっかりだもんな、渡したの。

 そろそろ小さくなったのか、ガリガリと飴を噛み砕く音がした後、夕陽の言葉はより聞きやすいものへと変わった。


「なんかね、ブランコで遊んでたの、真昼ちゃん」

「ぶらんこ? またか」

「また?」

「たしかおとといも、ぶらんこであそんでたんだ、かのじょ」


 脳裏に、無表情でブランコをこぐ彼女を思い浮かべる。

 一昨日だけかと思ったが、今日もなんて。……いや、待て。

 飴はまだそれなりの大きさだったが、急いで噛み砕いて話しやすくする。


「あのさ、夕陽が帰ってきた時に会ったんだよな?」

「そうだよ」

「公園で?」

「そう」

「……こんな時間に公園でブランコ遊びとか、危ないだろう。一人だったか?」


 時刻は十八時を過ぎている。

 夏で日があるとはいえ、女子中学生が一人で遊んでていい時間じゃない。


「一人だったけど、大丈夫だよ! おれもそう思って、一緒に帰ってきたから! 今は家にいるよ、中に入るまで見届けたし」

「……それなら、まあ」


 明村真昼。

 一人でいる所をたびたび目撃される女子中学生。

 ここら辺はそこまで治安は悪くないが、全く何も起きない、ということはないだろう。

 大丈夫、なんだろうか。何か危ない目に遭わないといいが。

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