錬金術 玉ねぎとツナのパスタ

 ぱんっ、ぱんっ、とダイニングから音がする。

 玉ねぎを切る手を止めてそちらに行けば、夕陽が無表情で両手を叩き、テーブルの上に押し付けていた。


「何やってんだ?」

「……れ、錬成を……」

「いつの間に錬金術師になったんだ?」

「……」


 最近、錬金術師が主人公のアニメをよく観ている夕陽。ちゃんとじっくり観たことはないが、彼の話によると確か……錬金術師と嘘ついて荒稼ぎしている詐欺師が、不治の病に冒された金持ちの老爺に拉致監禁され、日々脱走に失敗しながら、偽物とバレて殺されないようあの手この手で誤魔化す話じゃなかったか。

 その話の主人公がよく、両手をぱんっと合わせて、錬成しました、なんて嘘ついているから、その真似でもしていたんだろう。

 じいっと眺めていると、夕陽の丸い目がじわじわと潤み出した。


「何だよ! ちょっとやってみたかっただけだよ!」

「別にいいんじゃないか、やりたきゃ好きにやれよ」

「……っ!」


 頬を赤く染め、ぎろりと俺を睨んでくる夕陽。別に何の感情も湧かない。そういう年頃ってやつだ。

 夕陽に背を向けてキッチンに戻る。今日は玉ねぎとツナのパスタにするつもりだ。

 パスタは既に茹で上がっていたから、慌ててザルにあけ、急いで玉ねぎとツナを醤油で炒めていく。頃合いをみてパスタを混ぜ合わせ、完成。

 二人分のパスタをダイニングに持っていくと、夕陽は椅子に座ったまま身動ぎもせずに俯いていた。気にしているらしい。

 特に声も掛けず、ほうじ茶と箸を準備し、それらが済んだら俺も座って両手を合わせる。


「いただきます」

「……」

「いただきますは?」

「……」

「夕陽」

「……もうっ!」


 ぱんっと夕陽は両手を合わせ、うるさいくらいに大きな声で、いただきますと口にし、勢い良くパスタを食べ始めた。


「……召し上がれ」


 取り敢えず、食べてくれればいい。

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