ラブレター ピーマンのツナ詰め
ピーマンを半分に切り、種を取って、中にツナを詰め込むのはおれの仕事。
その上にチーズを乗せて、オーブントースターで焼いていくのがにいちゃんの仕事。
室内には焼けたチーズのにおいがふんわりと広がり、お腹はさっきからぐうぐう鳴っている。
最後のピーマンにツナを詰め終わり、にいちゃんに渡すと、叔父さん、つまりおれのお父さんを呼んできてほしいと言われた。お米もとっくに炊けてるし、焼き立てが一番美味しい。断る理由はないね。
分かったよと言ってお父さんの元に行く前に、ちらりとにいちゃんを見る。どこも問題はなさそうだ。昨日も夕方には復活して、おにぎりにする予定だったツナ混ぜご飯をそのままフライパンで炒めていた。美味しかった。
「……」
じっと見ていると、オーブントースターを眺めていたにいちゃんがちらりとこっちを見てきたから、慌ててお父さんの元に向かう。
お父さんは自分の部屋にいる。朝早くに一旦出掛けて、二時間前に戻ってからほとんどこもっているようだった。仕事か何か、やることがあったんだろうな。
ドアをノックして、お父さん夜ご飯だよ、と声を掛ける。……返事はない。もう一度やっても同じ。仕方ないので、ごめんねと言ってドアを開けた。
左側は一面本棚、右側は手前に机、奥にベッドがあるそんな部屋で、お父さんは椅子に座り何かを見ている。
「お父さん」
「……」
「お父さん、ご飯だよ」
「……」
「お父さんってば!」
気持ち大きな声を出すと、それで気付いてくれたようで、やっとお父さんはおれを見た。
「夕陽? どうした?」
「だから、ご飯だよって」
「……そうか。もう、そんな時間か」
壁に設置している時計に目を向けて時間を確認すると、疲れたように指で眉間を揉みほぐし、片手に持っていた何か──紙を置いた。
何となくぼんやりその光景を眺めていると、おれの視線に気付いたお父さんが、特に求めてなかったのに、一度置いた紙を再び手に取って説明してくれる。
「──お母さんからのラブレター」
「……っ!」
やばい。
逃げようと背を向け、駆けようとした瞬間、肩を掴まれた。一瞬で距離を詰めてきたらしい。アラフィフのくせに!
「お前のお母さんは筆まめな人でな」
「知ってるよ知ってる、だからやめて!」
「付き合っている時は会うたびに、結婚してからは毎朝、ラブレターを書いてくれたんだ」
「何回も聞かされたよ! やめて!」
「お父さんも負けずと返事を書いたもんだな、それで気付いたら段ボール十箱。いや~書いた書いた」
「倉庫にあるから知ってるって! もういいんだよお父さん、離して!」
「息子よ、もちろん話すさ!」
「違う!」
おれは早く、にいちゃんのピーマンのツナ詰めが食べたいのに!
暴れてみるけれど、おれの肩を掴む手はがんとして離れない。なんてこった。ピーマン! ツナ詰め!
「お母さんがお産の為に入院中の時にもな、毎日毎日お父さんの為に書いてくれて、余計にお母さん、それにお前に会うのが楽しみだったんだ」
「ありがとう、離して!」
「だからな、お母さんがいな、いなくなって、その、手紙を読めなくなった時は、そらもう辛くてな……。腑抜けて姉さんや夜、それに夕陽にかなりの迷惑を掛けた」
「……そ、そんなこと、ないから」
「お父さんはな! お母さんの分までお前を愛すし、夜にはあの頃世話になった借りを返していくからな!」
「立派だと思うし尊敬するよ、だから離して!」
そんなことを十分続け、待ちくたびれたにいちゃんが迎えにきてくれたことで、やっとおれはピーマンのツナ詰めを食べることができた。
少し冷めたけどまだ温もりはある。がぶりと噛みつくと広がるチーズとツナの温もり。これこれこれ! と箸が進んで仕方ない。
「にいちゃん、美味しいよ! ありがとう!」
「いや、夕陽も手伝ってくれただろう?」
「にいちゃんがいなかったら食べられなかったもん。だからありがとう」
「……おう」
たくさんたくさん作ったから、今夜はピーマンのツナ詰めパーティーだ!
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