The Witch's Last Summer
その日も暑い日だった。
この日、世界は唐突に終わりを迎えようとしていた。
世界は渇き、空は色褪せ、地平線の向こうには暗黒が渦巻く。人々は逃げ惑い、見下ろした街は絶望に覆われていた。そんな混乱の中で私は茫然と立ち尽くす。
じめじめした梅雨が明けて暑さが本格的になるこの日、この季節に、毎年私は特別な儀式を行うはずだった。……だけど。
魔女として長い年月を生き、その知識と力を使って多くの人々を助け、そして、恐れられた。それでも私はこの街が好きだった。
私の魔力で育てられた美しい蔦が庭や自宅の壁を、まるで優しく抱きしめるように這っている。
そんな庭園の中央に立ち、魔法を詠唱する。蔦が光を放ち、庭全体が脈動する。それは、まるで、暗黒の中で輝く希望の光。
それでも。
私の力では滅びゆくこの世界を救うことはできない。
「これで終わりじゃない」
たとえ世界が崩れゆくとしても、私が愛したこの場所だけは守り抜く。その思いを胸に私は最後の魔法を歌い終えた。そう、私はこの景色を。私は静かに微笑んだ。
そして世界が終わり、全てが闇に包まれた時、この深い緑の蔦と魔力は街を覆い、永遠に残ることとなった。
これは、夏の始まりを告げる魔法。
第14回空色杯 かみひとえ @paperone
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