角刈りのマッチョの伝説
「いい子にしていないと角刈りのマッチョが来るよ!」
───幼いモモンガに対するよくある脅し文句
キュッチャニアの想定する最大の仮想敵は、西側世界を支配する(と考えられている)角刈りのマッチョである。
角刈りのマッチョはその力で地上を火の海にしたとされている。
キュッチャニア総統府では、不定期に角刈りのマッチョへ対抗する会議が開催されている。(定期開催は面倒なのだ)
「こちらが想定される角刈りのマッチョのスペックですきゅー」
プロジェクターを通して黒光りするムキムキのマッチョ(西側世界ではボディビルダーと呼ばれている)がスクリーンへ映し出される。
「こわいきゅー」
角刈りのマッチョへの恐怖心が植え付けられているモモンガたちは一様に震えた。
「敵はついにマッチョの量産体制を整え始めていますきゅー」
次のスライドでは金属製の骨格に肉付けしマッチョを生産する工程が映し出された。
「なんてことだきゅ!」「おそろしいきゅー!」
キュッチャニアのモモンガたちに、これが映画のワンシーンだということは知る由もない。
「マッチョは我が友好国にも投入されていますきゅー」
マッチョが機関銃を振り回し敵(つまり友好国の兵士だ)をなぎ倒していくワンカットが映る。
「マッチョはどうやってやってくるんだきゅー?水際で食い止めるしかないキュ!」
「マッチョはヘリコプターや航空機で投入されることが多いキュ」
「防空網を強化するキュ!」
恐怖を振り払うように議論が始まった。
「元帥、陸軍はマッチョに対してどの程度戦えるきゅー?」
「機甲部隊と砲兵による砲撃で撃滅可能だと考えますきゅ」
元帥は威厳を持って答えた。
「元帥、残念ながらマッチョは戦車すら破壊するきゅー・・・砲撃も何らかの方法で無力化していることが判明していますきゅ」
「きゅぶ!?」
「輸送中を空軍戦闘機によって撃墜すればいいきゅ!」
空軍の司令官がここぞとばかりに発言した。
「輸送機を撃墜されたマッチョがそのまま降下し、戦闘を続行した例が確認されていますきゅー・・・」
「きゅぶー!?」
飛行機から飛び降りるマッチョのスライドが映ると室内は恐慌状態に陥った。
「もう終わりだきゅー!」
「落ち着くキュ!なにかいいニュースはないのかきゅー!」
総統が必死になだめる。
「マッチョに対抗できるのはマッチョしかないと考えますきゅー」
マッチョ同士の戦うバトルシーンがスクリーンに映し出される。
「このマッチョは反体制派マッチョなのきゅ?」「見るキュー。赤い星をつけたマッチョもいるきゅー」
「我が国も対抗してマッチョを開発するキュ!」
そういうことになった。
どうにか落とし所を見つけて、会議は解散された。
「一時はどうなることかと思ったきゅ」
「お疲れ様です総統」
総統補佐官がストローを刺したココナッツを差し出す。よく冷えたやつだ。
「しかし、角刈りのマッチョはおそろしいきゅー・・・」
ココナッツジュースを飲みながら、総統はしみじみとつぶやいた。
キュッチャニア物語 キュッチャン @kyu190
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