第10話 君は一生涯に書ける文字数に限りがあることを知る
「物書きの世界で、沢山の人から共感してもらえて評価を受けやすい幸運の人って、きっと条件があると私は思ってる」
「それは、その人が世の中で流行っている物が好きな人かどうか」
「皆が好きな物が、たまたま好きかだったかどうかで、何を書きたいのかが最初から違うんじゃないかなって……」
「文章が上手いかどうか、話が上手いかどうかなんて正直評価の多さには関係しない」
「好きな人が多くいるジャンルってだけで、小説を読んでくれる人が必ずいる」
「そして……君みたいに、好きな人が少ないジャンルだと、見つけてもらうこと事態が難しくなっていく」
「だから……どれだけ頑張っても、何十年書いても……読んでもらえない……評価してもらえない人がいっぱいいる」
「私が大賞を取って、書籍化したのは本当にラッキーだった。皆の好きと私の好きが噛み合って、評価してくれる人が多かったっていうだけ」
「私の小説と君の小説……比べようがないほど、良いところも悪いところもある。面白いって意味だけなら……どっちも同じじゃないかな」
「だから……自分に才能が無いなんて思わないで」
「私みたいな立場だと、上から目線になっちゃうけど……君みたいに小説が読まれない知り合いの人がいて、その人を見ると2つの事をいつも考えていたよ」
「1つは、読まれる勉強をしつつ、読まれないのを覚悟で自分の書きたいものを書き続ける」
「もう1つは、私が最初に言ったテンプレを書く。その人は……お決まりのアレが嫌いみたいだったけどね」
「両方とも、想像しただけで辛い道のりなんだって思う。私みたいに好きなものを自由気ままに書いてるだけじゃいられないって……私が同じ立場なら途中で筆を折っちゃうかもしれない」
「私が君の作品みたいなSFを書けって言われたら……絶対途中で発狂して消息不明になる自信があるよ」
「これが、小説家である私としての意見……どお? 君の道のりは……どちらにしろ険しいものなんだと思う」
「……」
(お互い黙り合い、しばらく時間が流れる)
「……あのね」
「ここからはアドバイスじゃなくて……私個人の……小説家じゃない小説好きなお姉ちゃん意見ね」
「私の好きな作品のあとがきに書いてあった言葉があるんだけど、良いかな?」
「その人は……自分の書く速さを考えた時、1日で書ける文字数の限界がわかってきたんだって」
「それで思った事がある。自分が一生涯に書ける文字数は決まっている」
「つまり、書ける作品の数も無限じゃない。いつ死ぬかも分からない。書いてる途中で死ぬかもしれない」
「私、それを見て思ったんだ。私の人生がある間、一生懸命自分の好きなものを書こう……って」
「誰かに読んでもらう事も大事だけど……それで自分が苦しい思いをしながら書いて終わるのは……嫌かなって」
「異世界にもゲームにも……転生なんて出来ない、一度きりの人生だから……読まれなくても、君にとって大切なものを書き続けてほしいなって……」
「私は……思ってるよ」
「私が読まれてる人間だから、ゆるいことを言ってると思うし、頑張って小説家を目指してる人には嫌味に聞こえるかもしれないけど……そっちの方が、命ある限り……私は大切なことだと思う」
「そんな、不安そうな顔しないで……大丈夫!」
「私は絶対に星新一先生にはなれないけど、君ならなれるかもしれないよ」
「そして、たまには……皆が読まれるものに……挑戦しても良いと思う」
「承認欲求……それで少しは回復できるしさ……」
「これから君は、小説を書くことにおいて、誰よりも努力する事になる。その努力はきっと、世の中に向けて挑戦出来る勇気と自信になると思う!」
「だから、いっぱい好きなもの書いて! お姉ちゃん、君のこと応援するよ! 頑張って!」
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