第9話 君は小説が読まれない

 「よぉし、お姉ちゃん集中するね! 確認だけどサイエンスフィクションだよね?」


(姉が読み始め、パソコンのファンと時々聞こえるマウスのクリック音が響く。しばらく時間が経つ)


「……待って待って待って」


(隣の姉が座り直し椅子が軋む)


「凄く……面白いよ、君の小説」


「本当に学生が作ったのかってぐらい……よく話が練り込まれてる。ちょっとノベルゲームチックな作りだけど、伏線みたいなものもわかりやすく強調されてて……何よりキャラクターが読み始めなのに、しっかりとバックグラウンドがあるように思えるよ」


「ちょっとだけ、不自然さはあるけど……でも冒頭から物語に入りこませようとするがちゃんと出来てる」


「……凄い! まだ冒頭しか読んでないのにしっかり考えてある作品だってわかるよ! 私、びっくりしちゃった! よしよしよしよし!」


(興奮気味に姉が君の頭をワシャワシャ撫でる)


「あ、あああ、ごめんね! 昔みたいに興奮して頭ワシャワシャしちゃった……」


「で、でも……思ってた以上に凄かった! 時間ある時に読むね。勉強になりそう!」


「でね……読まれない理由はわかったよ……」


「君の今書いている小説は、WEB小説の投稿サイトには向かない小説なんだと思うよ」


「つまり根本が……ちょっとだけ、読んでもらう目的が違うの」


「WEB小説を読む人達の求める物はライトノベル……いや、もっと雰囲気で読める物って言うのが流行る傾向にあるの。例を上げると気軽に承認欲求を満たせる物、話の始まり方がどの作品とも同じだから気軽に作品を読もうと思えるもの……みたいな」


「作者に個性は求められていなくて、際限無く自分を楽しませて、満たしてくれる作品の1つを作る事を求められている世界なんだよ」


「私もそうだよ。お姉ちゃん……昔鈍臭くて、男子から悪口言われてた時に、悪役令嬢に転生するとか乙女ゲームの世界に転生する話を読んで……自己投影して……優しくて格好いい小説の中の男の子達に慰めてもらって……えへへ……」


「現実でも何とか頑張ろうって思える……そういう現実が辛い人への救済をする作品が……WEB小説では、多くの読者にそれ求められている」


「君の作品はどちらかと言うと、辛いとかそういう人じゃなくて……もっと一般の人を笑わせたり、ドキドキさせたりする娯楽に富んだもの」


「大衆小説って言われる……エンタメ性の……もっと幅広く、多くの人達を楽しませる為に作られた小説だと思う」


「WEB投稿サイトでは受けなくても、商業本として出版出来れば、反響によって伸びる可能性がある小説だと思うよ」


「SF……っていうジャンルもあいまって読まれないんだと思う。WEB小説におけるSFって言うのはVRMMOブイアールエムエムオーが主流だからね」


「あ! 因みにVRMMOって言われるのは、仮想現実で作られたネットゲームの世界にログインした主人公が、だいたい未帰還者みきかんしゃになって現実に戻ろうとするのがよくあるなんだけどね!」


「小説とゲームで2002年ぐらい同時期に公開されたVRMMOを流行らせた代表作品が2つあってさ! どっちが流行らせたのが先か論争って言うのがあって……」


「あ……ごごごめんね! 話が脱線しちゃったね」


「とりあえず……君の作品は大衆小説の更にラノベ寄りの作品で……ジャンルがサイエンスフィクションだから……最初は絶対読まれ辛いっていうのは間違いないんだと思う」


「……それでね」


「きっとこれって、皆の読みたいものを書くのか。それとも自分の書きたいものを書くのか」


「君はその壁にぶつかる。物書きなんだと思うよ」

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