第8話 君はまだ小説を読まれていない

「商業作品もそうだけど特にWEB小説では、SFジャンルは今凄いマイナー寄りのジャンルなんだよ」


「定期的にSFの……特にサイエンスフィクションの部類にある作品は流行る流れがあったけど、2011年のブーム以降は世間の熱が冷めちゃったって私個人は思ってるよ」


「特にSFジャンルは、読むハードルが高いって認識が強くて、WEB小説を読む読者の層って言うのは無料で気軽に読みたいっていう人達が集まりやすい傾向にあるんだ」


「そして、SFが好きな読者って言うのもかなりコアな人が多くて、生半可な知識で書くと『コレはSFじゃなくてファンタジー』って言う手厳しい意見が多くなりやすくて、相当な完成度が無いと難しいジャンルだから、書くコストの割に合わないから止めちゃう作家も多いって……私はそう認識してる。世間的にもSFジャンルのタイパとコスパって悪いんだよね」


「だからさ! 違うジャンルを書けば良いと思うよ。WEBサイトの市場を調査して、人気ジャンルと要素を探して組み合わせて作るんだよ!」


「あ! 男の子だから異世界転生なんて鉄板だよね! 小説の入り口は決まってて構成は決まっているテンプレートって言うのがあるからその中にオリキャラを入れればすぐに出来るんだよ!」


「SFが書けるって事はアイディアは自力で出せるタイプの作家だと思うから、奇抜で引きの強いアイディアをね! あと、初投稿のタイミングが重要だから、初稿で閲覧数取れなかったら消去して何回も初動ガチャっていうのをやって初期ブーストを……」


「……あ、あれ? どう……したの?」


「な、何か、元気が……どんどんなくなっていってるような……」


「え……みんなが書いているものを……書かなきゃダメかって……テンプレのこと?」


「で、でもホラ! 読まれる為の1番最短の方法で閲覧数を稼ぐには王道の異世界転生とか悪役令嬢とかダンジョン生配信とか聖職者追放のテンプレを……」


(しばらく黙りあい、パソコンのファンの音のみが聞こえる気まずい空気が流れる)


「……ごめん」


「弟が小説書いてて……つい、興奮しちゃって……」


「君の気持ち……ちゃんと聞いて無かったね」


「今の私……何かパワハラしてきた前の上司に似てるなって……自分のこと、思っちゃった……」


(姉が立ち上がり自分のパソコンの前の椅子に座る。椅子の軋む音)


「隣にきて」


(姉の隣に近づく)


「椅子……一個しか無いから、狭いけど半分に座って」


(姉がズレる軋む音。そして自分が横に座り密着しながら服同士がこすれ、椅子が軋む音)


「上からものを言うんじゃなくて……しっかり君の作品を読んでからにする」


「読んでもいないのに一般論とか、正論とかを言ったって……皆が皆、それを出来る訳じゃ無いからね」


「私も、皆が当たり前に出来ることが出来ないこと……多いし……」


「だから、何で出来ないのか……一緒に確認しよ」


「君の小説……読んでみたいし!」


(二人はパソコンに向き直り、自分のアカウントを探す為にキーボードを叩く)

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