第3話 君は感想が足りない

(次の日、自室のドアが勢い良く開く)


「ヤッホー! お兄ちゃん、今日も小説書いてるの?」


(パソコンの前に座っていると、後ろから妹が抱きつき椅子が軋む)


「おお! やってるねお兄ちゃん! えらい、えらい!」


「ん? なに? 今日はアタシの事を待ってたの?」


「感想が聞きたい?」


「感想って、お兄ちゃんが書いた小説の? えー、でも面白かったって言ったじゃん」


「もっと細かく聞きたいの? うーん……そうだな……」


(しばらく、うーんと唸る妹が部屋を歩き回る音)


「あ! ヒロインの女の子が可愛かった!」


「どう可愛かったって? えっと……主人公の事が好きだけど、気持ちを伝えられないところ! かわいいよね!」


「もっと具体的に? 無理だよ! かわいかったで良いじゃん!」


「え? 他にはないかって?」


「だから! 話が面白かったってば!」


「もう! さっきからしつこいよお兄ちゃん! どうしたの急に!」


「……読んだ人から感想もらえないから、アタシから聞きたいの?」


「うーん……お兄ちゃんってそんなに読まれてないんだ。あんなに面白いのに不思議だね」


「まあいいよ! お兄ちゃんのためにアタシが一肌脱ごう! それじゃあ、何でも聞いて! 妹の胸を貸してあげよう! なんてね!」


「あ! 今のお兄ちゃんの小説に書いてあったやつね! 覚えてるよ!」


「あの主人公のシーンカッコいいなって思うよ! ヒロインが困ってる時に助けてあるげるのって素敵じゃん!」


「って、ええ!? 何でまた泣いてるの!?」


「……自分の作品を語ってくれる事が嬉しくて感動した……お兄ちゃん、今まで無視されてイジメられてる人みたいなこと言わないでよ。悲しいじゃん」


「そっか、今まで辛かったんだね、よしよし」


(妹に頭を撫でられる)


「えーっとそれで……他にお願いしたいこととかない?」


「……え? 今度は小説の悪かったことを聞きたいの?」


「何でわざわざ悪いこと聞きたいの? お兄ちゃんってMなの?」


「もう、冗談だってば! いいよ! 悪かったところを修正したいんだよね」


「そうだなー……難しい漢字がちょっと多かったかなって思った」


「例えば? うーんっとねー……例えば『ます』って漢字あったじゃん! わかる? ほらほら、カタカナで『チート』って書いてそうなやつ! 私あれ読めなくて検索で調べたんだよね!」


「ねぇちょっと! 今お兄ちゃん、馬鹿にした目でアタシのこと見たでしょ!」


「え! あの漢字中学校で習ったっけ!? あ、あの漢字は、あんまり使わないからわからなかったんだよ!」


「あと、人の名前も難しい漢字使ってるから最初読めないし……そういうのが嫌な人もいるんじゃないって思ったんだ。だから、もうちょっと難しい漢字を使わないようにするとかどう? 調べるのちょっと時間かかっちゃうからさ!」


「アタシが思ったのは、そんなところだけどどう? お兄ちゃん参考になった?」


(しばらく、間が開く)


「……お兄ちゃん? 聞いてる?」


「あ、考えてたのか! フリーズしてたからショックで気絶してたのかと思った!」


「お兄ちゃんって、メンタル激ヨワだからさ! ちょっと心配しちゃった!」


「激ヨワじゃないって? はいはい、繊細なんだよね! いいよ、泣きたい時は泣いても良いだよ!」


「その時は私の胸を貸して上げるから!」


「って、うわあああ!? ちょっと! 本当に抱きついて来ないでよ!」


「も、もう今日はおしまい! お兄ちゃん調子に乗ってきたからおしまいにする! じゃあねお兄ちゃん! おやすみ!」


(バタバタと急いでドアへ向かう妹。バタンと勢いよく閉まる)


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