第14話 5人の賞金首
レストランのテーブル席にて、食事を終えた俺たち。ライラさんが手配書の束をテーブルの上に置いた。
「さて、ヴォイド君。これから、次の賞金首を狙う。実は風の妖精で既に位置を特定している賞金首が何人かいる」
「そうなんですか。仕事が早いですね」
「まあ、仕事しているのは私じゃなくて妖精なんだけどな。それで、位置が特定された賞金首はこいつらだ」
ライラさんは5枚の手配書を取り出した。手配書の顔写真はどれも凶悪な顔をしていて、犯罪をしてもおかしくないと思えるほどだった。
「まずは、疾風のフライ。こいつは私と同じ風使いだ。能力も割れている。風と自分の感覚をリンクさせる能力だ」
「風と自分の感覚をリンクさせる? どういうことですか?」
「例えばそうだな。やつが実際にやった行為で言えば……女性の体に風を吹きかけるという行為をした。その風はやつの触覚とリンクしている。つまり、やつはそれで女性の体を触ったのと同じ感触を得ているんだ」
「うわ……さいてーですね。きっしょ」
あまりの最低な能力の使い方に俺は思わず本音が出てしまった。
「それだけじゃない。リンクできるのは視覚もだ。だから女湯に風を送り込めば……」
「うへぇ。とんでもないやつですね」
「とまあ、こうした嫌がらせ行為が多発してな。それで賞金首になった」
「そんな理由で賞金首になるのって何か嫌ですね」
あまりにも情けなさすぎる理由にそれしカコメントが思い浮かばなかった。
「続いて鬼斬りのマルタ。こいつは剣術使いで鬼を斬ったという逸話があるほどだ」
「ほへー。すごい人なんですね」
「こいつは強くなるために多くの剣士と戦ってきた。お互い合意の上でな。そして、その過程で多くの命を奪った。だからこうして賞金首になったのだ」
「なるほど。さっきのと比べると幾分かマシに見えますね」
「ああ。マルタは決して弱者には手を上げない。ただ、いくらお互いの合意がある決闘とは言え、人の命を奪いすぎたんだ」
話を聞く限りでは歴戦の猛者という感じであまり敵に回したくない相手だなあ。
「次は蒼炎の不死鳥のエマ。こいつはその二つ名通りの炎使いだ。能力も割れている。不死身の炎を作り出す能力だ」
「不死身の炎? なんですかそれ。炎が不死身ってことですか?」
「ああ、その通りだ。この炎は決して消えることがない炎だ。水をかけようと真空状態にしようと絶対に消えることはない」
「なんですか。それは……無敵じゃないですか」
「まあ、能力の原則として魔力の供給が絶たれたら消えるから正確に言えば無敵ではない。エマの魔力量という上限は存在する」
「あー、確かにそうですね」
びっくりした。1度発火したら周囲を燃やし尽くす危ない炎かと思った。それにしても、能力が割れているとそういう対処法とかもわかってしまうのか。
「次は毒蛇のナナ。こいつは生物を操る能力を持っていて、得意なのは蛇を操ることだ」
手配書の写真は毒蛇を首に巻いている女の姿があった。
「うわ、この人蛇好きなんですね。よくこんな首にまけるなあ」
「ヴォイド君は蛇は苦手か?」
「苦手ってほどではないですが、好きな方じゃないですね」
「そうか。まあ、私も好きかどうかで言えば好きではないな」
ここに関してはライラさんと気があった。
「そして、最後の5人目。こいつの名前はヴィクトリア。なぜかこいつだけ、能力と罪状が不明だ」
「罪状が不明? そんなことってあるんですか?」
「まあ、ありえない話ではない。世間的には非公表になっている事件というものもあるからな」
「なんか深い闇を感じますね」
ヴィクトリア。赤紙の女でこいつだけ妙に哀愁漂う顔立ちをしている。他の賞金首たちは結構凶悪な顔立ちをしているのに。
人は見た目によらないということか。
「とまあ、今挙げた5人。こいつらがとある街に集まっているという情報を得た」
「こいつら5人も!?」
「ああ、上手くいけば5人まとめて捕まえることができるかもしれない」
俺は5人のそれぞれの懸賞金額を見た。どの懸賞金も100万シェルを超えている。一般的な初任給が18万前後と言われているので、これはかなり破格の額である。
「こいつらが集う街の名前はオールランド。ここより南方にある街だ」
「オールランド……こいつらは一体どうしてそこの街に集まるんですか?」
「そこまではわからない。でも、こいつらを放置しているとロクなことにならないのは確かだな」
「そうですね。オールランドの住民を助けるためにも……こいつらは絶対に捕まえなくちゃ」
というわけで、俺たちの次の目的地が決まった。100万シェル級の凶悪犯罪者。その5人が同じ街に集う。これは一体なにかの予兆なのだろうか。
◇
オールランドの街。キレイな街並みで人で賑わっている。建物の高さも俺が住んでいた村のものよりも倍近くある。ただ、その分、家の面積そのものはそこまで大きくない。
色々な建物が密集して建てられていてなんとも狭苦しさを感じてしまう。
「ここって結構な都会ですね」
「ああ。そうだな。ほんの10数年前までは田舎の村という感じだった。しかし、ここの領主であるベルナルド氏がかなりのやり手でな。人口誘致と産業開発に成功してここまで発展させたんだ」
「なるほど。でも、なんだかここまで人が多いと俺は窮屈に感じてしまいます」
「ヴォイド君の村みたいなところも穏やかで良いけれど、都会が良いという人もいるだろうからね。発展している街は土地代も高いし、建物も密集して作られてしまうからな」
「確かに……俺の村じゃ建物を密集して作る理由がないですからね」
俺たちはオールランドの街を歩いていく。道行く人たちは忙しなく動いていて、その動きも俺の住んでいた村とも違う雰囲気を感じた。
「まずは拠点となる宿を取ろう」
ライラさんの提案で近くにある宿屋で部屋を取った。その部屋で俺は一息ついた。
「ふう。なんだかどっと疲れが出ました」
「この街につくまでの道中も長かったからな。今は体をしっかりと休めると良い」
休憩できる状況になった瞬間に今までの疲れが出てきてしまった。
「私はちょっとこの辺の情報収集をしてくる。ヴォイド君はゆっくり休んでいてくれ」
ライラさんは宿の部屋から出ていき、俺は1人になった。
「この部屋……シャワー室があるのか」
俺はシャワーで汗を流してから、疲れを癒すためにベッドで横になった。目を瞑ってしばらくしていると、いつの間にか俺の意識が溶けていく。
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―――
――
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人間の意思は一体どこにあるのだろうか。頭の中の脳。それとも胸の中の心臓。それとも、自分の生まれもった才能?
水が上から下に流れるように、人間は楽な方に進んでいく。それが自然なことである。生まれもった才能。能力。それらを使って生きていくことは最も楽な生き方なのではないだろうか。わざわざ苦手なものを生業にして生きていく人間はいない。
川の流れや滝の流れの向きが予測できるように、能力を持った人間の行動はある程度予測可能なのかもしれない。人間の行動が予測可能ならば、その人物の未来の予想も可能なのではないだろうか。
いや、その個人だけではない。世界中の人間の行動を予測できれば人間の未来を実質的に全て把握しているのと同じなのではないだろうか。
全ての人間には能力がある。その能力の意思を感じ取る方法があれば、この世の全ての人間をコントロールできるのと同じではないか。
以上が私の仮説だ。もし、この研究を完成して、この力を公表すれば、それは人類を導くに足る力になりえる。
その導きの先が希望に満ちたものなのか、それとも破滅への道か。それは後世の“彼ら”次第になるであろう。
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