第13話 無能力者とは一体……?
「未来が姿を変えただと……? いや、でもあのお方の予言は絶対のはず……じゃあ、なぜだ。ここに来るのは女1人だったはず。なのにどうして、男の姿が……?」
女がブツブツと言っている。まさか、こいつもアンディと同じく未来を見える力とやらを持っているのか?
「貴様は一体なんなんだ!」
ライラさんが白衣の女に向かって指を突き付けている。その指は風を纏っていていつでも風の弾丸を発射できる状態である。
「ま、待て! 落ち着け! 話し合おうじゃないか! 私は別にきみたちに危害を加えるつもりは1ミリたりともない! 断じてない! 信じて欲しい!」
「なんだと? そんなこと信じられるか! そこの虎をけしかけて攻撃してきたのはお前じゃないか!」
ライラさんがビシっと言う。しかし、女は呆れた様子でため息をつく。
「いやいや。勝手に私が隠れ潜んでいる洞窟に入ってきて、先制攻撃を仕掛けてきたのはきみの方じゃないか! 勝手な歴史修正はやめてくれ」
たしかにこればかりは女の言っていることが正しい。先に洞窟に入ってきたのは俺たちの方だし、先に攻撃を仕掛けたのもライラさんの方だ。
「私は身を護るために、そこの虎に攻撃させた。それだけのことだ」
「しかし! お前が村の作物を食い荒らしていた張本人だろうが!」
「あー……証拠は? 私が作物を食い荒らしたって証拠はあるのかな? くすっ……まさか、妖精のお友達に聞いたなんてファンシーなことは言わないでしょうね」
ライラさんは風の妖精の力でここを突き止めた。しかし、風の妖精の声を聞けるのはライラさんだけである。風の妖精が本当のことを言っていたとして、それを証明する方法はない。
「そこのきみ。こんな乱暴な女についていくのはやめて、私についてくるのはどうだ?」
「え? 俺?」
白衣の女は急に俺に話を振ってきた。一体どういうことだ?
「私はきみに興味があるんだ。ふふ」
白衣の女が意味深に笑う。一体なんなんだ? この女は何を企んでいるんだ。
「ヴォイド君。わかっていると思うけれど、あの女は信用ならない。村の作物を荒らしたのは間違いなくあの女なんだ。そんなやつの言うことを聞く必要なんてない!」
「そうですね……俺はライラさんを信じます」
俺はレイピアを構える。白衣の女は眉をひそめて手をあげた。
「残念だよ。せっかく実験サンプルとして生かしておいてあげようと思ったのに。私の芸術品のエサになるなんてね。やれ! エッジ!」
女がそう合図すると、エッジと呼ばれた虎がうなり声をあげて、俺たちに向かって飛び掛かってきた。ライラさんはすぐさまに虎に風の弾丸を放つ。先ほどからずっと充填していたため威力は抜群。虎の腹部を風の弾丸が貫く。
「ぐがあああ!」
「うへ?」
穴が開いた腹部を中心に虎の体にピキピキとヒビが入る。そして、バキィンと音を立てて一気に崩れ去った。その様子を見て女は唖然としている。
「ま、待て! 待て待て! こんなに強いだなんて聞いていない! 予言では私が勝つはずだった! どうして……! どうして……!」
ライラさんが無言で白衣の女に向かって指をさした。そして、指先に風のエネルギーを溜めていく。
「ま、待って! 待った! わかった! 私の負け! 負けだから! これ以上攻撃しないで! お願い。私、本体には何の戦闘力もないのよぉ!」
女が膝をついて頭を下げて、必死の命乞いをしている。ライラさんは手をおろしてから女に近づいてから、縄を取り出して女を縛った。
「うぅ……どうして私がこんな目に」
「お前が作物を荒らした犯人で間違いないな」
「だ、だって仕方なかったじゃない! 私の芸術品を維持するには、それなりのエネルギーがいるの! だから、その……いっぱい食べさせたかったって言うか……」
「認めたな。それじゃあ連行する」
「ひ、ひええええ」
こうして、畑を荒らした犯人は捕まった。犯人を突き出したことにより、俺たちは報酬を得た。あの女が今後、どんな処遇を受けるのかは俺たちの知ったことではないが、とりあえず規定分の報酬はきっちり支払われたので良しとしよう。
◇
俺とライラさんは今、それなりに大きな宿場町に来ている。そこら中に宿や飲食店ががあり、旅人で賑わっている場所である。
「さて、報酬も手に入ったことだし、ヴォイド君。今日はどこかで食事でもしないか?」
「お、良いですね」
仕事終わりの1杯という年齢では俺はまだないけれど、仕事終わりには贅沢というものがしたくなる。ライラさんはガイドブックを見ながらオススメの店を探している。
「ここら辺でオススメの店は……この店なんか丁度良いんじゃないのか?」
ライラさんがガイドブックのとあるページを指さす。そこは海鮮料理の店でここより南方の港町から直送された新鮮な海の幸が楽しめるというものだった。
「お、良いですね。海鮮料理。楽しみです」
俺とライラさんはその店へと足を踏み入れた。それなりにオシャレな店構えであり、カップル客も多い店である。
俺たちは空席に座り、それぞれが食べたいものを注文する。ライラさんは海鮮パスタ。俺はカニピラフを店員から受け取り、それを食べながら話をする。
「それにしてもヴォイド君。きみは中々に剣の腕が立つね」
「あー。はい。1週間ほど修行しました」
「いっ……1週間。なんの冗談だ? それだけであの剣さばきを身に着けたというのか!」
ライラさんが目を丸くして驚いている。そんなに意外なことなのだろうか。比較対象がいないからよくわからない。
「そうですね。ライラさんが迎えに来るって言うまで1週間あったじゃないですか。その間に母さんに鍛えられたんです」
「そ、そうなのか。なるほど。でも、1週間でそこまで強くなるなんてな。きみは、もしかしてとんでもない剣の才能を秘めているんじゃないのか?」
「そういうもんなんですかね。でも、俺は剣術に関する能力なんて何1つ持ってないですよ」
母さんみたいに武器に雷を纏わせることもできない。俺ができるのはただ剣を振るうことだけだ。
「君は本当に不思議な人だ。能力を持たないというのもそうだけど……なぜか私はきみのことを高く評価してしまっているところがある」
「どういうことですか?」
「それは私にもわからない。無意識というか、なんというか……なぜかきみをひいき目で見てしまうというか。その理由も私にはわからないが……きみなら何かをやってくれそうな気がする。私の勘がそう言っているんだ」
俺は今までのことを思い返してみた。確かに、俺の周りでは俺の評価が不自然なほどに高かった。例えば、母さん相手に勝った時はわかる。実力を見せているからその分評価されるのは自然なことだ。しかし……あの日。司祭に俺が無能力者だと言われてから、その後になぜかみんなが異様に俺を持ち上げている。今までの人生でそんなことは1度だってなかったはずなのに。
どうして、みんな【無能力者】を評価しているんだ? そして、それが完全に【無意識】の内にやっていること?
でも、俺は俺自身が【無能力者】であることを高く評価していない。この差は一体なんなんだ? 俺は自分のことだから高く評価していないのか……それとも、俺が【無能力者】だから何かしらの【大きな流れ】の影響を受けないのか?
考えていてなんにもわからない。
「ん? どうかしたか? ヴォイド君。そんなに黙っていて」
「あ、いや、なんでもないです」
俺は賞金稼ぎになりたいと思った。それは間違いなく俺の意思だと思う。俺だけじゃない。みんなだって自分の意思で行動しているはずだ。1人1人自分の意思があってしかるべきだ。
でも、俺は時々、こう思ってしまうことがある。本当に「俺以外のみんなは自分の意思によって動いているのか?」と。
まあ、それは流石に考えすぎか。俺はただの【無能力者】。そんな大それた存在なわけがないか。
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