第4話 人攫いと賞金稼ぎ

 ロッキーと共に迷い猫ビリーを探して小一時間くらいが経過した。そこまで広くない村だからすぐに見つかると思ったけれど、中々に見つからない。


「うーん……どこに行ったんだろうビリーは……やっぱり猫だから狭いところに行ったのかな」


 ロッキーはそう言うと人目のつかない狭い路地へと入っていった。


「お、おい。そんなところ行くと危ないぞ」


 別のこの村の住民に悪い人間はいないと思うけれど、あまり人が通っていない場所はどんな危険があるかわからない。俺はロッキーの後を追いかけた。


「わ、わあ! ヴォイド兄ちゃん! んぶ……」

 

 ロッキーの叫び声が聞こえてきた。俺は慌てて裏路地を走る。そして、そこを抜けた先には2人組の女がいた。片方は金髪、片方は銀髪。金髪の女がロッキーを羽交い絞めにしている。


「だ、誰だお前らは!」


 俺の声に女たちがびくっと反応した。意外そうな顔で俺を見ている。一体なんなんだ? こいつらは。村の住民というわけではなさそうだ。


「な、なぜここに人がいるの!?」


「この時間にここに来るのはこの子だけだったはず」


 女たちはわけのわからないことを言っている。俺は近くにあった木の棒を手に取った。少しボロっちくて脆そうだけど素手で戦うよりはマシだ。相手は2人。年齢的にも能力者であることは間違いない。どんな能力を持っているのかはわからない。無能力者の俺に勝てるのかどうかも怪しい。けれど、ロッキーを助けなければという思いが俺の体を突き動かす。


「てやあ!」


 俺は気の棒を振るった。しかし、銀髪の女が剣の鞘でそれを防いだ。べきぃって音と共に木の棒が折れる。やはり、もろくなっていた木製の棒じゃ金属の棒に敵わないのか。


「そりゃ!」


 ドスって音と共に俺の鳩尾に激痛が走る。息ができない。銀髪の女が剣の鞘で俺の鳩尾を突いたと理解したのは少し遅れてからだった。俺はその場で膝をついて口から唾液をがはっと吐いた。


「こいつ……別に肉弾戦も強くないし、かといって魔法で攻撃するわけでもない。能力も不明。なんなの……? 戦闘系の能力を持ってないのに、普通戦う?」


 銀髪の女の言葉に俺は悔しさを覚えた。確かに俺は無能力者だ。


「一応目撃者だし消しとく?」


 金髪の女が不穏なことを言う。銀髪の女がコクリと頷いた。そして、鞘から剣を抜こうとした……その時だった。一陣の風が吹き、その風が刃となり銀髪の女の手の甲を切り裂く。


 びゅっと銀髪の女の手の甲から血しぶきが出る。銀髪の女は反対の手で手の甲を抑える。


「な、何者だ」


「しまった。時間をかけすぎた。早く逃げよう」


 金髪の女に従って銀髪の女も逃げる。俺は痛む体に気合を入れて立ち上がり、2人を追おうとした。しかし、背後から女の声がビシっと響く。


「深追いはするな!」


 凛としたその声に俺は思わず従ってしまった。後ろを振り返るとそこにいたのは、白いマントを身にまとった黒髪の女性だった。


「ケガはないか?」


「鳩尾が傷む」


「そうか。えぐいところを攻撃されたな。私の名前はライラ。賞金稼ぎだ。あの女2人は盗賊団の下っ端だ。元々は大したことがない組織だったけれど、最近どういうわけだか勢力をつけてきてな。懸賞金も爆上がりしてきたから狙っているわけだ」


「ライラさん……俺はヴォイド。助けてくれ。友達の弟が攫われちゃったんだ」


「ああ。やつらを捕まえるついでに助けておく。だから、私に任せて欲しい」


 ライラさんはにっこりと俺に微笑みかけた。優しそうな雰囲気の女性である。この人ならば任せられる。俺はそう思ったけれど……


「待って。ライラさん。俺も一緒に行きたい」


「ヴォイド君? きみは何を言っているんだ。そんなことできるわけないじゃないか。きみはまだ若い。自分の能力を認識し始めた年齢だろ? そんな子がとても戦えるとは思えない」


 ライラさんの年齢は20歳くらいか? 俺より5歳前後くらい上っぽい感じだ。確かに戦闘系の能力が開花しているのであれば、彼女は戦闘慣れしている。無能力者の俺が付いていったところで足手まといになるかもしれない。でも……


「ロッキーが連れていかれたのは……俺がちゃんと見ていなかったせいだ。俺は……責任を感じているんすよ」


「やれやれ。まあ、きみ一人のお守りくらいなら大丈夫か。安心してくれ。私は強い。あんな盗賊団の下っ端連中に負けるわけがない」


「ありがとうございます!」


 俺はなんとかライラさんについていくことができた。


「しかし……ライラさん。あいつらがどこに逃げたのかとかわかるんですか?」


「ああ。それは私の能力を使えばわかる。私は耳をすませば風の妖精の噂を聞くことができる」


 ライラさんは耳に手を当てる。目を閉じて集中している様子で、とても話しかけられる雰囲気ではない。


 1分くらい待ったのだろうか。ライラさんはこくりと頷くとマントをなびかせて踵を返した。


「あの女狐2人の居場所がわかった。ヴォイド君。私についてきてくれ」


「はい」


 俺はライラさんの後を追った。彼女はとても足が速くて追いかけるのに苦労した。身体能力も高くて、流石は賞金稼ぎと言ったところだろうか。これくらい肉体が強くなければ務まらない仕事なのだろう。


「ところでヴォイド君。参考までにきたいことがある」


「なんですか?」


「きみの能力はなんだ? もしかしたら、きみの能力が役に立つかもしれない」


 やっぱりそういう質問をされるか。ライラさんは初対面ではある。あまり見知らぬ人に自分の能力をべらべらしゃべるのも良くないとされている。けれど、今はライラさんは味方だ。ここは正直に答えるべきだろう。


「俺は……特に能力はありません」


「なるほど。戦闘系の能力を持ってないってわけか」


「あ、いえ。違います。戦闘系以外の能力もないんです」


「どういうことだ?」


 ライラさんが首を傾げる。まあ、そういう反応になるな。


「俺は無能力者。本当に何の能力もないですし、魔力量も0です」


「……なんだって。そんな人間本当に存在するのか?」


 ライラさんは目を丸くして驚いている。


「なるほど。無能力者か。それはちょっと戦いにおいては厳しいな」


 おっ。やっと正常な反応をしてくれる人がいた。そうだよ。無能力者が過剰に持ち上げられるのがおかしいんだ。


「せめて、時間が合えれば肉体的に鍛えて戦闘に耐えられるようにはできたけれど……無能力者で戦えるとなったら、それはそれで希少価値が高いし」


 ダメだ。この人も無能力者である俺を戦わせようとしている。しかも、希少価値と言っているし、何かしらの価値を俺に見出そうとしているぞ。


「ヴォイド君。きみはもしかしたら凄い素質を持っているのかもしれない」


「そ、素質ですか……? 俺、無能力者なんですよ」


「実はな……あの盗賊団。どういうわけか、誰も捕まえることができてないんだ。それどころか、どんなに遭遇しようとしても先回りして逃げられてしまう」


「え? な、なんですか。それって」


「私もあの女狐たちを10回くらい追っているけれど、10回とも遭遇することなく逃げられた。だけど、11回目の今回。やっと、その尻尾を掴むことができた。その現場にヴォイド君。きみがいたんだ」


 賞金稼ぎが本気で追っている賞金首を俺が見つけた? ライラさんは探査系の能力も持っているし、足も速い。そんな彼女ですら捕まえることができない賞金首を……


「ただの偶然じゃないんですかね」


「ああ、偶然かもしれないし……君の天運がそうさせているのかもしれない。無能力者のきみの天運がね……」

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