ホットミルクの魔法

巴雪緒

ホットミルクの魔法


目を開けると、そこは不思議な場所だった。

パステルピンクにほんの少しの灰色。

それに白いモヤが掛かっており、一目で現実ではないことがわかった。

すると二足歩行のロボットが、前に現れてトレーに湯気のかかったマグカップを差し出してきた。

恐る恐る手に取って一口飲むと優しい味がした。


それは蜂蜜入りのホットミルクだった。

二口、三口、乾いた心にじんわりと広がっていく。

「ねぇ、眠れないの?」

ロボットは隣に座ると話しかけてきた。

「うん」

答えるとそっと顔を覗きこんでは、不安そうな顔をするのであった。

「どうして?」

「なんとなく」

「何か嫌なことでもあったの?」

「……言いたくない」

ぽつり呟くとロボットは優しく抱きしめてくれた。現実味のない世界なのに、包み込まれる感触は確かであった。


段々、視界が滲んでいく。

気がつくと、ポロポロと涙がこぼれ落ちていた。

嫌なことなど沢山あり過ぎて、言葉にすることが難しくなってしまった。

感情がまとまらない、何もかもがぐちゃぐちゃになったまま腕の中で泣き崩れるしかなかった。



泣き疲れてしまったのか、まぶたが重くなってきた。現実に帰らないといけないことが嫌でもわかっていた。

するとロボットは頭を撫でてこう言った。

「またつらくなったらいつでもおいで」

そんな優しい言葉を最後にゆっくりと目を閉じた。

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ホットミルクの魔法 巴雪緒 @Tomoe_Yukio

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