皇太子様の恋衣

なのな

第1話 師匠と弟子

「フィア先生、できました」

「あら、ノアールはやはり上達が早いですね」


フィア・ルルベ。ふわふわの金髪に、緑色の瞳をした小柄な19歳の魔法師だ。


ノアール・ミエル。金髪に赤い瞳をした美しく背の高い青年。年齢はフィアの二つ下だ。

フィアは魔法教室を開いている。そこにはたくさんの生徒が通っていた。


「では次は応用しましょう。水魔法を空中で氷に変えるのです。この時、魔力を少し加えるとさらに攻撃力がアップしますよ」

「わかりましたフィア先生」

「みなさん、近頃魔物も増えていますし、身を守れるようにできる限り魔法を習得しましょう」

「「「はい」」」


儚い声にやわい笑顔が特徴的なフィアは、生徒たちの間で密かに“ゆるふわ魔法師”と言われている。


それから数十分後、本日の授業はここまでといい解散をした。


「……あら?ノアールはまだ帰らないのですか?」

「ええ、少し彼と話がしたくて」

「ミルと?」

「はい」


ノアールの隣にいるのは、18歳の青年ミルだった。


「わかりました、じゃあ私はもう帰るから、2人とも気をつけて帰るのですよ」

「はーい」


呑気に返事したノアール。何か違和感を感じながらも、フィアは去って行った。


夕日が差す街の裏道。


「……なぁ、お前近くない?」

「えっ」

「行ったよな、ミル。俺の護衛をするのはいいが、フィアとの距離は考えろって」

「す、すみません」

「……あら?ノアール」

「っ!フィア先生!?」

「忘れ物しちゃって……なんだか暗い顔をしているけど大丈夫ですか?ミルも……」


心配そうにこちらを見つめるフィアに、また黒い感情が膨らむ。


「ふぃっ……フィア、様……」

「ん?ミル……?やっぱり何かあったのですか?」

「あっ、い、いえ……」


にっこりと微笑んだノアールに圧倒されてミルは怯んでしまった。

今日は帰りますと言い、ミルは帰って行ってしまった。


「……まさか、ノアール、何かしたの?」

「そんなわけないですよ」

「そうよね、ノアールは優しい人だもの」

「ええ。それよりフィア先生、今日夜空いていたら僕と一緒に食事しませんか?奢りますよ」

「ごめんなさい、今日はちょっと忙しくて……後日またよろしくするわ」

「……そうですか」

申し訳なさそうにするフィアの、華奢な首にぶら下がったネックレスを目にする。

(フィアは滅多におしゃれなんてしない。あのネックレス、まさか——)

「じゃあ、また明日ね」

「はい」


こうして分かれてから数日——


ノアールが、フィアの魔法教室に来ることはなかった。


その代わり、1週間後に現れた青年。


「……フィア、迎えに来た」

「え……ど、どちら様?」

「僕はノアール・アーノルド。キミの将来の旦那だよ」



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