飼育員のおっさん、気づいたら世界最強のテイマーになっていた

トス

プロローグ

 俺の名前は森動 大地りんどう だいち、今年で35歳になるどこにでもいるおっさん。

 特別なものは持っていない。だけど、動物のことを人一倍愛していることは譲れない。

 仕事だけど、俺は動物園に勤めさせてもらっている。

 勤め始めて早13年、俺の癒しは仕事中に会うこの子たちだけだ。


「元気か?」


 今はレッサーパンダのところに来ている。

 今日も、もふもふで可愛いな~。

 俺の担当は主に哺乳類だけど、動物の知識は全般持っている。


「ほら、ご飯だぞ~」

「ありがとう~」


 今日も美味しそうに食べてるな~。

 癒される~。


「ダイチが僕たちの担当で良かった~」


 うん? さっきは気のせいかと思ったけど、誰か周りで話しているのか?

 しかし、周りを見渡しても誰もいない。

 一体どこから……それとも、疲れているのか俺は。


「ダイチ~」


 また声が、やはり疲れているんだろうな。明日は休みだから帰ったらゆっくり休むか。

 俺は目を閉じ、大きな欠伸をした。


「はああああ……ふう」


 俺は欠伸を終え、目を開けた……。

 しかし、俺の目に映っていたそこは。


「おう! 今日も新鮮な野菜入ってるぜ!」

「こっちは焼肉串あるよ!」


 あれ?

 俺は動物園にいたはずだ。俺の目の前に広がる景色は、まるで中世のヨーロッパのようだ。

 もしかして、これって夢なのか?

 あまりの疲れによってあの場で倒れてしまったんだろうか。

 妙にリアルな夢だな。

 自分の意思で体が動かせる。せっかくだし、動いてみるか。

 目の前に広がる景色がまるで異世界みたいだったので、俺はこの世界を異世界と呼ぶことにした。

 異世界の町を探索する。しかし、何も持っていない。本当にただ探索しているだけになっている。

 この家の造りとか凄いな。しかし、探索すればするほどここが夢だと思わなくなってしまうな。

 俺は路地裏へと入った。


「おい! もっと石ぶつけろ!」

「こいつ何もやり返してこねえなあ!」

「キュィッ キュィッ」


 そこには許しがたい光景があった。

 男二人が小さな動物を虐めている。

 酷く汚れているが、白い毛並みに緑の模様が入っている。全体の姿はモモンガいや、リスに近いか……地球の動物とは似ても似つかない見た目をしている。

 早く助けなきゃ。

 俺は白い動物の元へと駆け寄る。


「お前たち! やめてくれ!」

「ああ? 誰だおっさん 邪魔すんなよ」


 そう言うと、男たちは俺に向かって石を投げてきた。

 ここは妙にリアルだが夢の世界だ、これで目が覚めるかもしれない。

 しかし、俺の予想は違った。


「っ」


 男が投げた石は俺の頭に当たり、俺の頭からは血が流れてきていた。

 痛い……。

 ここは夢の世界じゃないのか?


「ああああああああああ」


 俺は守った。とにかく白い動物のことを守った。

 男たちの矛先は俺に向き、俺はボコボコにされた――。


 男たちは痛めつけるのが飽きたようで、どこかへと足早に去っていった。


「大丈夫か」

「キュイ……」


 白い動物は酷く弱っている。早く手当てしなきゃ命にかかわる。

 ここは俺の住んでいた世界ではない、本当に異世界に来てしまったんだ。

 だったらやることは一つ、この子を絶対に助ける。


 助けるにしてもこの世界のことは分からない。お金もない。

 俺はすぐ乳酸のたまるおっさんの足で助けてくれる場所を急いで探した。頭も下げ続けた。


「すまないな」

「うちはちょっと」

 

 俺に今出来ることはこれくらいしかない、やるんだ。


 ――しかし、俺たちを迎え入れてくれる場所はなかった。


「ごめんな、だけど俺の全てに変えても君だけは」

「キュィィ……」


 ちくしょう、どうすればいいんだ。

 ここは未知の異世界だ。俺には、もうどうすることも……。


「あんた困ってるならうちに来るかい?」


 道で困っていた俺たちを見て、近くの宿屋の女将さんが声をかけてくれた。

 女将さんはボロボロの俺たちを迎え入れてくれた。

 しかも、俺たちの手当てまでしてくれた。


「ありがとうございます」

「その子はあんたに懐いているから、あんたに任せたよ」


 ボロボロだった俺たちにとても気を使ってくれた。

 俺は女将さんに感謝してもしきれないくらいの恩をもらった。


「良かったな」

「キュイ!」


 この子も手当てして、少し元気を取り戻したようだ。後は、様子を見ながらゆっくり回復していけば問題なさそうだ――。


「兄ちゃん、一番テーブル!」

「はい!」


 俺たちは女将さんが経営する宿屋の一室を借り、回復に努めていた。

 ただ居座っているのも悪いと女将さんに伝えると、宿屋の手伝いを任された。

 この宿屋は宿と食堂が併設されていて、この町の冒険者御用達の宿屋だそうだ。毎日忙しいので、俺が増えても人手は足りない。

 あの子はというと、ずっと名前がないのもあれなので名前を付けた。

 あの子の名前は『ホク』。特徴的なホワイトとグリーンの頭文字を取って、ホクと名付けた。本人も気に入ってくれたようだ。

 ホクはというと。


「ホク、遊びましょ!」

「キュイ!」


 女将さんの娘のマヤちゃんと遊んでいる。俺の働いている時間に、ホクの面倒をみてくれるのはとても有難い。出会った時からずっと仲良しだ。

 俺もホクも怪我がよくなり、大分回復してきている。

 そろそろ時間の空いた時に町や町の外を改めて探索するのも良いかもしれない。

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