第4話 『人形遣い』

 リーシェは膝を抱えるようにして、ルゥの帰りを待っていた。

 気付けば、外から聞こえていた魔物の声は静まり返っている。

 どうなったのだろう――それは、リーシェにも分からない。

 すると、誰かが部屋の中に降り立った。

 リーシェはびくりと身を震わせるが、すぐに戻ってきたのがルゥであることが分かり、ホッと胸を撫で下ろす。


「ル、ルゥ……だ、大丈夫、だったの?」

「はい、もちろんです。ご命令通り、魔物は殲滅し、人間達には丁重にお帰りいただきました。もう、リーシェを追うことはないでしょう」

「……っ、た、助かった、の?」

「はい」

「よ、よかったぁ……」


 リーシェはルゥの言葉を聞いて、脱力した。

 ――彼女は言葉通りに、見事この状況を打破してくれた。感謝してもし足りないくらいだ。


「ほ、本当にありがとう、ルゥ」

「お気になさらないでください。リーシェは私のマスターなのですから。ところで、その首輪は他に『所有者』がいる証ですね?」

「え、う、うん。奴隷に着ける首輪、らしいけど」

「そんな物は、リーシェには不要ですね」


 ルゥはそう言って、リーシェの鉄の首輪に触れる。


「解析……完了。解錠開始」


 ルゥが触れてすぐに、首輪は簡単に外れてしまった。

 力では絶対に外せないような代物であったが、ルゥはそれを簡単に外してしまったのだ。

 驚きのあまり、リーシェは目を見開く。


「ルゥ、す、すごいよ……。あなたこんなにすごいのに、どうして一人でここに……?」

「先ほども申し上げた通り、私は魔導人形です。マスターに従い、行動するだけ。リーシェ、この後はどうなされますか?」

「こ、この後……?」

「はい。どこか向かうところはあるのですか?」


 そう問われて、ルゥは困惑する。

 奴隷という身分から解放されたが、ルゥはここがどこなのかも分かっていない。

 ――売られた身でありながら、元の村に戻ることもできないだろう。

 母のことは心配ではあったが、今はルゥが生き延びることを考えなければならない。


「と、とりあえず……どこかの町に行く? でも、ルゥの服がない……」

「その点でしたら、ご安心を」


 瞬間、ルゥの身体を光が包み込む。瞬時に現れたのは、軽装の騎士を思わせる姿だった。


「戦闘モードではありますが、確かにリーシェの言う通り服は必要でしょうね」

「わわっ、すごい……どうやったの?」

「こちらの『換装』は私の領域に格納された装備を呼び出したモノです」

「……?」

「つまり、早着替えをした、ということです」

「! そ、そうなんだ……!」


 ルゥの言葉に、リーシェはただ頷くことしかできなかった。


「ただし、この状態は魔力を少し、魔力消費量が大きくなります。私は、リーシェから魔力を得られなければ、行動不能になってしまいますので、その点についてはご注意ください」

「! 魔力……」


 リーシェが魔力供給をした――最初に彼女に説明された通り、今後もそういう行為が必要になるのだろう。


「それって、どうしたらいいの?」

「供給方法はいくつかありますが、最も早い方法は経口摂取になります」

「けいこう……?」

「言い換えれば、口づけです」

「……え!?」


 ルゥの言葉に、思わず驚きの声を上げた。

 口づけ――まだ幼いとはいえ当然、何をするのか理解できてしまう。

 ルゥはそのまま、リーシェを優しく抱きかかえる。


「あ、あの! まだ、心の準備が――」

「今はまだ、魔力の供給は不要です。それに、あくまで最も早い方法を掲示しただけに過ぎません」

「あ、そ、そっか……」

「リーシェは今、足を怪我されていますね。このまま歩くのは危険ですから、私がリーシェを連れて行きます。まずは、近くの町を目指せばいいですか?」

「う、うん……。それから、どうすればいいか、決めたいと思う」

「承知しました。リーシェのご命令通りに」


 ルゥはそう言って、リーシェを抱えたまま跳ぶ。

 気付けば、朝日は昇り始めていて――リーシェは目を細めた。

 一人で心細かった森も、空から見上げるととても綺麗に見える。


「――って、すごく高い……!?」

「近くの町を探しておりますので、暴れないようにお願いします」

「う、うん、分かった……!」


 リーシェはルゥにしがみつく。

 言われなくても、暴れるような真似はしない。

 こうして、奴隷少女は『魔導人形』を手に入れて、『人形遣い』となった。

 賢者の作り出した魔導人形であるルゥが、この世界において『最強』の存在であるということを、まだ幼い少女であるリーシェが知るはずもなく、その事実に気付くこともない。

 ただ、自分を助けてくれた彼女に身を任せて、リーシェは新たな人生を歩み始めたのだった。

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奴隷少女、『人形遣い』になる ~賢者に作られた最強の『魔導人形』の主になりました~ 笹塔五郎 @sasacibe

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