おかえり

 その家族は、両親と兄、そして弟の四人であった。兄は就職して都会へ行ったので、今となってはほとんど三人家族のような様相であった。

 弟は高校生である。その日は土曜日で、部活動に出かけていた。「今夜は友人と夕飯を食べて帰る」との連絡を残していたが、日付をまたいでも帰ってこないので、母親の方がついに焦り始めた。

「おかしいわ。こんなに遅くなっても帰ってこない」

 それに対し、父親が返した。

「高校生だぞ。カラオケかどこかで一晩明かすくらいあるだろう」

「それなら、一言くらい連絡くれてもいいじゃない」

「友達といるなら、楽しくて連絡を忘れるくらいあるさ。二日も三日も帰ってこないんじゃ不安だが、たった一晩だ。まだ二十四時間も経ってないんだぜ」

 しかし、母親の不安な表情は消えなかった。


 翌朝。弟は帰ってこなかった。代わりに兄の方が帰ってきた。玄関のチャイムが鳴ったので、母親が勢いよく駆けていってドアを開けたところ、大荷物を抱えて立っていたのである。

「ただいま」

 兄は元気な声でそう言ったが、母親の表情は晴れなかった。「帰るなら連絡のひとつくらい入れなさい」と言える余裕はなかった。

 その様子を見て、兄は声をかけた。

「どうしたのさ。せっかく一人息子が帰ってきたんだぜ」

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思いつき短々編集 萩谷章 @hagiyaakira

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