第3話 おっさん、異世界に立つ。が、すぐ帰る
「では、転移先に送りますね」
「ああ、頼む」
街の外の比較的安全な街道に近い森の中に転移するそうだ。
街に城門があるが、女神に持たされた現地通貨の1万シリン(銀貨1枚)で簡単に入れるらしい。
ちなみに流通貨幣は、一番下の鉄貨(1シリン)から10枚ごとに、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨、と上がっていくらしい。
その後は冒険者ギルドで登録すれば晴れて異世界の身分証をゲットできるらしい。
清々しいほどのテンプレだ。だがそれがいい。
出自は街の近くに幾つか名もなき村が点在しており、そこからの出稼ぎといえば特に疑われないみたいだ。
よかった。記憶喪失のフリはしなくていいらしい。
テンプレといえど記憶喪失はだいぶ苦しいし無理があると常々思っていたのだ。
記憶喪失でやってる作品スマン。
一応初期装備の旅人の服と短刀(布の服とひのきのぼうじゃなくてよかった)、一般的な鞄にひと月分の生活費(50万シリン)をもらっているのでなんとかなるだろう。
「いってらっしゃい。おかえりお待ちしてますね」
いや確かに報告に来る予定だが、そんな同棲カップルみたいな、或いは新婚みたいな雰囲気で送るのは違うだろ。
「いや、オカシ───」
ツッコミも途中に俺の体は光りに包まれた。
最後に見えたのは「新婚・・・っ」とつぶやきながら頬を染める女神だったような気がするが見間違いと聞き間違いだろう。
そうだ、俺は難聴系で鈍感系なんだ。
相手のわかりやすい態度にも「いや、俺の勘違いだな。俺に限ってそんな事あるはずがない」と思い込む系なんだ。
そうにちがいない。
─────
視界がひらけるとどうやら森の中にいるらしいことがわかる。
聞いてたとおりだな。さて帰るか。
神域とやらでどれだけ時間が経ったか知らんが、今日は起きたら会社にいかなければならない月曜日のはずだ。
異世界の冒険には心惹かれるが、社会人として会社に行かねばならん。
待て、分身か本体どちらかを常駐させろと言われてたのを忘れていた。
ちょっと『分身』スキルを試してみるか。使い方は自然と分かるようだ。
どうやら俺の頭は女神にいじくり回されちまっているらしい。
「分身!」
言ってから、感覚的に念じるだけで良かったことを把握した。
ちょっと恥ずいがここにいるのは俺だけだし次はないから忘れよう。
そして俺は2人になった。
何を言ってるのかわからねーと思うが
超スピードで動いて「はい分身ー」とか
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
ちゃんとした分身ってやつの片鱗を味わったぜ
─閑話休題─
あー、こういう感覚か。並列思考がいいカンジに働いてるのがわかる。
たしかにどっちも俺だしそれぞれ五感で感じたことをそれぞれで処理しているし共有もできるみたいだ。
しばらく別々の動きをしたり、別々のものを見たり、別々のことを考えたりして分身に慣れていったが、やはり並列思考のおかげか特に問題はなさそうだった。
これなら分身に異世界での初動を任せても大丈夫そうだな。
これ、常に意識や経験を共有するんじゃなくて任意のタイミングで記憶の共有とかできねぇかな?
意識してみるとできそうである。普段気にせずちょっと意識を向ければ分身側で行動するなんてこともできそうだ。
ふと気になってもう1体分身を増やせないかと思ったら、思った瞬間にできるという感覚があった。
ある程度『分身』スキルを把握したところで、異世界の方は分身に任せて、現代へと帰還することにした。
自宅の自室をイメージして転移しようと念じる(今度は口に出さない)と、次の瞬間には自室にいた。
分身に意識を向けると問題なく異世界にいると分かる。
ふと自分の格好を見ると異世界の旅人の装いだった。土足で。
急いで『収納』スキル内にあったパジャマに換装して事なきを得たが、一応部屋全体に生活魔法の
すると思った以上にきれいになってしまった。
業者に頼んでもこうはならんぞ。
マンション購入して5年、まだ新しいと思っていたが結構汚れていたんだなぁと実感する。
おっとそんな事を考えてる場合じゃない。もう一人分身を出してそいつに出勤させよう。
分身と念じてもう一体分身を出すと、この分身には会社に行ってもらうこととする。
分身も俺だし経験も共有するわけだから俺が働くことに変わりはないのだが、本体的には仕事に意識を向けなくて良いのでだいぶ楽だ。
俺はついに欲しかったあのコピーなロボットを手に入れたのだ。
しかも本家と違ってどちらも俺自身だから勝手にサボったりもしない。
ん、本家ってなんだ?そんなものはなかったか。うん、なかった。
なんだコレ、最高か?
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普通のおっさんが女神様にスキルを貰ってスローライフ!?〜異世界と現代を往復してバレずにいい暮らしをするお話〜 つさ @sattak
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