第12話 千花は七彩湯をピカピカにする
次の日、わたしと茶々はお守りをしっかりと首に下げて七彩湯へ行った。いつも通りの笑顔で迎えてくれたグローリアさんは、「素敵なお守りね」と言って褒めてくれた。
「さて、今日はボトンドさんと百合さん、それからピーアさんが入ったお風呂のそうじをしてもらいたいの」
「おそうじ得意です!」
わたしがバッと手を上げると、グローリアさんは「元気いっぱいね」と笑った。
「頼もしいわ。……わたしも、下手くそな魔法を使えば、少しは手伝えるんだけどね」
そう言ったグローリアさんは、すねたような顔で自分の尾ひれをにらみつけた。
「……あの、もしよかったら、お風呂まで連れていきましょうか? グローリアさんよりは小さいけど、力には自信があるんです」
わたしはTシャツのそでをまくって、腕に小さな力こぶを作ってみせた。するとグローリアさんは目をパチパチさせて、弾かれたように笑いだした。
「あはは! 千花ったらおもしろいことを考えつくわね!」
「だって、浴槽にはお水があるから、グローリアさんが苦しくならずに済むでしょう?」
「でも千花も一緒に転んで、ケガをしたら大変だから。ありがとう」
何度かやってみると言ったけれど、結局断られてしまった。
一緒におそうじできたら楽しいと思ったのになあ。
「そうじ道具はイスがあったところの棚に入ってるわ」
「わかりました。おそうじの順番とかってありますか?」
「そうね。まずは、脱衣用の棚に忘れ物がないか、確認をして、そのあとは鏡とせっけん台のふきそうじね」
わたしが「おそうじの基本は上からですもんね!」と言うと、グローリアさんはにっこりしてうなずいた。
「その次は浴槽かしら。浴槽のお湯を抜きながら中を磨いて、お湯が無くなったら中をふきとって、そしたらまたお湯を入れて、もう一度抜いて、最後にもう一回入れ直してもらえる?」
「そんなにたくさんお湯を使って良いんですか?」
「ええ。浴槽は清潔にしておい方が良いもの。お湯を入れる
「クルクル」という言葉に反応した茶々は、その場でクルクルと回った。
「あと、最後は洗い場ね。ブラシでこすって、お湯で流してちょうだい」
「はーいっ。お任せください! 行こう、茶々」
「キュー!」
ガラス戸がついた背の高い棚を開けると、中には柄が二メートルはありそうなながーいデッキブラシと、わたしのお家にもあるふつうのデッキブラシ、それから、手で持つ小さなブラシやタオルなどが、きれいに整とんされて入っていた。
こんな長いデッキブラシ、何に使うんだろう。天井のそうじかな?
「何に使うと思う、茶々? あれ、茶々?」
足元にいたはずの茶々がいない。きょろきょろと見回すと、茶々はすでに黄色のドアの前に立っていた。
「あ、待ってよ、茶々!」
わたしは長いデッキブラシだけを残して、棚を閉めた。
わたしもがんばったけれど、わたし以上に活躍したのは茶々だった。お水のある場所では、カワウソはいつも以上の力を発揮するみたい。
茶々は小さな手でブラシをしっかり持って、銀色の栓が開いてスルスルとお湯が流れていく浴槽をきれいに磨いた。
お湯が無くなると、早く水気が欲しいのか、布を使ってどんどん中をふき上げていった。
「待って待って、茶々! わたしが追い付かないよ!」
そう言っても、茶々はうれしそうにキュウキュウ鳴きながら元気よく走り回った。
茶々の活躍によって、おそうじはあっという間に終わった。お客さんみんなが、きれいに丁寧にお風呂を使ってくれたおかげでもあるかな。
「二人ともありがとう。これでまたいつお客さまが来ても大丈夫ね」
「お役に立ててよかったです。あ、お客さんが使ったタオルはどうしましょうか?」
わたしは両手に抱えたタオルをグローリアさんの方に差し出した。
「使ったものはリネン室の空いているカゴに入れて、新しいものをお風呂に置いてくれる?」
「わかりました。……あれ、でもリネン室なんてどこにあるんですか?」
グローリアさんは浴槽から身を乗り出して、「この馬の銅像の裏側よ」と言った。
わたしと茶々は後ろ足で立つ馬の周りをぐるっと回って、
小さなタオルやバスタオルがずらりとしまわれたリネン室の中も、ドアと同じ七色で分かれていた。白い棚にカラフルなタオルがしまってある光景は、
そういえば、それぞれのお風呂に置いてあるタオルも、お風呂の色と同じだった。
「えっと、空いているカゴに入れればいいんだよね?」
わたしは部屋の奥の隅にあったカゴの中に、汚れたタオルを入れた。
「これで良しと」とつぶやくと、ドアの向こうからグローリアさんの声が聞こえてきた。
「千花! 外が暗くなってきたわ! タオルはまた明日でいいから、急げるかしら?」
「はーいっ!」
棚を見上げてウロウロしていた茶々を抱き上げて、七色のリネン室から出た。
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