最終話 青山さんは私の彼女です!




【一方】






「なんだかんだで今日は楽しかったですね!あの二人からかい甲斐あったなー。また誘いましょーよ!」



 青山さんと諸星さんを無事見送った後、乗り込んだタクシーの中で隣のマネジャーに話しかけた。



「あれ?どうしました?マネジャーは楽しくなかったですか?」

「……楽しかったわよ」

「その割にはあんまりそんな風に見えないですけど?」

「そんなことない。少し疲れただけ」

「そうですか……」



 それからタクシーがマンションの前に着くまでの間、マネージャーは私に背を向け、ずっと窓の外を見ていた。




 9階のボタンを押したエレベーターの中、もう一度声をかけてみる。




「……あの、マネージャー?」

「なに?」

 


 返事はしてくれるけど、目は合わせてくれない。



「いや、別に……」



 エレベーターの扉が開き通路へ出る。左に曲がって部屋の前まで着くと、私は鍵を開けて中へと入った。



 数秒後、玄関のドアが閉まり、鍵をかける音を背中で聞く。





 ガチャリ……





 

 これが始まりの合図……






 ヒールを脱ごうとしていると、左手に持っていたバッグがずしっと重くなった。振り向くと目の前には、欲しくてたまらなそうな顔がじっと私を見つめていた。




里香子りかこ……」


 


 さっきまでの話しぶりとは全く違う声で、彼女が私の名前を呼ぶ。





 今日も長い呪縛がやっとけて、ようやく彼女は私の上司をやめた。






 この扉を境に彼女は本当の姿に戻る。





 例え二人きりの状況だとしても、扉の外の世界にいる限り彼女は、の自分を貫き通す。

 この人がこんなにも徹底的に隠し通すようになったのには、過去の苦い経験が原因だ。



 それは、前の彼女とのこと。

 二人の関係が周りに気づかれてしまったことがきっかけで、その人とは別れることになったらしい。まだ付き合いたての頃、「それが今でも消えない深い傷になっている」と言っていた。




 ……じゃあその時周りにバレてなかったら、今でもその人と……?




 彼女がベールを脱ぐこのタイミングでいつも、私は必ず少しの嫉妬をする。




 ……だけど、もういい。




 彼女が私の名前を呼ぶその呼び方だけで、私には彼女の欲しいものが分かる。要望通り、靴を脱ぐのはあとにして玄関でキスをしてあげる。

 こんなに待ちきれないくらい欲しかったくせにあんなに平然を演じられるなんて、一周回って尊敬すらしてしまう。



「もっと……もっとして……里香子……」



 愛を精一杯込めたはずなのに、何も足りてないみたいに欲しがる。


 

 この顔が見たくて私はいつも意地悪をしすぎてしまう。寂しければ寂しかった分、彼女は欲しがりになるから。



「……どうして帰り冷たかったの?目も合わせてくれなかった……」



 キスを続けながら彼女に尋ねた。



「だって、もう限界だったの……あれ以上里香子のこと見てたら、……我慢出来なくなりそうだったから……」



 そんなことを言われると、我慢したご褒美をもっといっぱいあげたくなってしまう。

 


「プロの役者の青山さんも、れいちゃんのこの豹変ぶりにはびっくりするだろうね」


「キスしながら他の子の話しないでよ……もしかして、冗談じゃなくて本当に青山さんとキスしたいって思ってるの?」


「なにそれ?その場のふざけたノリで言ったことに本気で妬いてるの?」


「……悪い?」


「可愛い」




 そう言いながら、玄関の壁にその体を押しつけて、足りないとはもう言わせないほど舌を入れその表情を歪ませた。



「……他にも……まだ怒ってるんだから……」



 息継ぎの間に文句を言うくせに、服を引っ張ってまだねだってくる。この空間の中でだけ、完全に私だけのものになる彼女がたまらなく愛しくて可笑しい。



「なに笑ってるの?」



 また不機嫌な声が聞こえてくる。言葉では返さずにもう一度キスをしようとする。だけど、彼女は怒った顔をしてそれをよけ、私の腕の中からするりと抜けていってしまった。

 そんな明確で複雑なところが、私の心をくすぐる。




 私を追い越して先に部屋へ上がった彼女を見て、ようやく私もヒールを脱いだ。



 半分開いたままのドアから部屋を覗くと、奥へと歩きながらピアスを外そうと、両手で左耳に触れる彼女の後ろ姿が見えた。



 相変わらずひどく散らかった部屋は、私しか知らない彼女の秘密基地みたいだ。彼女のそんなだらしないところも、なぜか私には欲をかき立たせるポイントの一つだった。



 まだピアスが外せなくて、首を傾げながら長く手間取っている。その仕草と首筋がいやらしくて、何度見ていても飽きない。



 ようやく外すことに成功すると、今度は服を脱ぎ始めた。電気をつければいいのに間接照明の薄暗い中でゆっくりと脱いでいくから、それがまた私の我慢を邪魔する。



 息を飲み、すり抜けるようにドアの隙間から勝手に部屋の中へと入る。

 音を立てずにゆっくりと近づき、すでに下着姿になっていた彼女の肩にキスをした。



 そこまで全く私の気配に気づかず、驚いて「ひゃっ!」と声を上げた彼女を後ろから抱きしめた。

 手の平の全てから伝わるやわらかい肌の感触、かすかに香る上品な香水の香りとアルコールの余韻で、今すぐこの体を堪能したくなった。




「……お風呂入りたい」 




 そんな私の欲望を察して、拒否なのか準備なのか、どっちか分からない絶妙な言い方で彼女は私を制止しようとする。



「じゃあ一緒に入ろ?」 

「やだ」

「なんで?」

「若い子の体と違うから」



 愛しい人はまた嫌味混じりの嫉妬を口にした。案外今回の不機嫌は根深いらしい。今日はちょっと度を超えていじめすぎてしまったかもしれない……、と少しだけ後悔した。



「私は伶ちゃんのこの体がいい。この体じゃないと興奮しないよ……」



 耳を唇で愛しながら、2本の指先で彼女の体の側面を、膝上から胸まで時間をかけてなぞりあげていく。

 ついさっきまでねていたのにそれだけで感じてしまったようで、私の左腕の中、彼女は恥ずかしそうに頬を染めて耐えている。

 私には、ひと回りも歳上のこの大人の女の人が、可愛くて可愛くてたまらない。



「本当にそう思ってる……?」

「うん。お風呂なんていいから今すぐしたい……」

「……里香子……愛してる」

「私も」

「ちゃんと言ってよ」




 そう言わせたくてわざと言わなかった。



「……伶、愛してるよ」



 私が呼び捨てで呼ぶと彼女の体はビクッと痙攣けいれんするような反応を見せた。たまにそう呼ばれるのが好きなことを、私は知っている。



「里香子も脱いでよ……」



 振り返って目を見つめてそう言うと、彼女は私の首すじにキスをした。



 後ろを向いてシャツを脱ぐと、背中に冷たい手の平の感触を感じた。それに続いて、すぐに頬と唇の感触も感じる。



「……綺麗な背中……」



 うっとりするような彼女の独り言が小さな声で聞こえた。



「変なへき……。おかげで今日はすごい疲れた。私一人で個室の窓、全部吹いたんだよ?ほんと、公私混同だよね……」



 つい愚痴をこぼすと、私をくるりと振り向かせ、彼女は少し見上げて言い返してきた。


 

「それは、仕事中だっていうのに佐伯が里香子に絡むからでしょ!?」



 彼女は思い出したかのように怒りの感情を解放した。



「ちゃんと自分であしらえるから、あんな回避しなくても大丈夫だって」


「それにしたってしつこすぎる!いい加減もう我慢出来ないのよ!!……決めたっ!もう佐伯飛ばす!エリアマネージャーにセクハラで訴えてやるっ!!」


「……エリアマネージャーは伶ちゃんのことお気に入りだからね。伶ちゃんが言えばなんでも言う事聞いてくれるもんねー」



 私はベッドに腰を下ろしながら、火に油を注ぐようなことを言った。



「……何言ってるの?」


「こないだなんて視察を言い訳にわざわざ誕生日プレゼント渡しに来てたじゃん」


「なにそれ?」



 本当に意味が分からなそうに聞き返しながら、彼女が私の隣に座った。



「ボールペン、もらってたでしょ?」


「あぁー、あれは仕事で使ってってくれたただのボールペンでしょ?たまたま誕生日が近かったから、誕生日プレゼントって後づけしてただけだって」


「……ただのボールペンじゃないよ。わざわざ名入れまでしたブランドものだよ」


「え?そうなの!?」



 毎日胸ポケットに差して日常使いしてるあたり、気づいてないと思ってはいたけど、それでもこの数日、私はそれを見るたびにイライラしていた。



「嫌だったの?」 


「……別に」



 返事とは裏腹に彼女から目をそらした。



「でも、エリアマネジャーはノンケじゃない。結婚だってしてるし」


「それ、偽装結婚て噂知らないの?同居してないらしいし、相手もゲイ疑惑がある幹部だよ?」


「そんなの知らない。それに、だとしても別に誘われたこともないし、何かされたわけでもないから!」


「されてからじゃ遅い!伶ちゃんてほんと鈍感すぎなんだよ、エリアマネージャーの伶ちゃんを見る視線、尋常じゃないくらい普通じゃないんだから!そもそも何かされたとして、仕事人間の伶ちゃんが上司相手にちゃんと断れんの?」


「そんなの当たり前でしょ!?それは仕事とは関係ないんだから!」


「……ふーん、どうだかなー。とにかく私は男なんかより、同類に狙われてる方がよっぽど嫌だけどね!」


「……もしかして里香子、その腹いせで今日は特にいじわるだったの……?」


 

 図星だった。



「……そうかもね」


「……ごめんね?私、なんにも気づかなくて……。知らずに里香子のこと傷つけてたんだね」


「ほんとなんっにも気づかないよね」



 まだ満足出来ないのか、よせばいいのにせっかく謝ってくれた彼女に、私はまた怒らせる気まんまんの言葉をぶつけてしまった。すると、予想通り彼女は逆ギレモードへと入った。



「それにしたって、今日は特にひどい!私の悪口ばっかり言うし!しかもあの子たち、絶対に里香子が佐伯と付き合ってるって思ってたじゃない!」


「悪口なんて言ってない!私はそのまま伶ちゃんの好きなところを話してただけだし!たまたま勝手に勘違いされただけだもん!」


「やだ!そんなの関係ない!!なんだったとしても、誰の頭の中でも、里香子が誰かのものになってるなんて嫌なのっ!!」



 彼女は息をあげて怒鳴った。

 見た目は誰をも魅了する官能的な大人の女のくせに、5歳児の駄々っ子のように全力で嫉妬をあらわにする。

 切羽詰まったその涙目と、暖色の灯りに照らされた胸の谷間に、私のイラつきはふわっとどこかへ消えてしまった。

 


「……伶ちゃん、ごめんね……」



 私は彼女を抱き寄せ、抱きしめてキスをして素直に謝った。

 私の腕の中で毒牙の抜けた彼女が尋ねる。



「……ねぇ、なんで付き合ってる人がいるなんて言ったの?」


「……なんでかな。せめてそれくらいは言いたくなったのかもしれない。大切な人を大切だって言えない日常に、たまに苦しくなる時があるから……」



 私がそう言うと、彼女は申し訳なさそうに私の頭を撫でた。



「……ごめんね。でもね、今日少し、私も話せたらなって思ったよ……あの二人見てたら。里香子は私の彼女だって、本当は言えたらなって……。そうゆう気持ち、私にだってないわけじゃないの……」


「………うん」



 それが叶う日が永遠に来なくても、彼女がそう口にしてくれただけで、私には十分だった。



 彼女の両肩を優しく押してベッドに寝かせ、その上に重なる。



「……私の我儘に付き合わせて、里香子にも強要してるのにごめんね……」



 私の背中に手を回してしがみつき、与えられる快感に身をよじりながら、彼女はまだ続けた。

 よほど私が傷ついて見えたのか、今日はかなり気にしている。



「仕方ないよ、簡単なことじゃないって分かってるし……」


「次の休みは……里香子が好きなもつ煮作ってあげるから許して……」


「ほんと?!」


「可愛い……。もつ煮に反応しすぎ。本当に好きだね、そんなに美味しい?」



 淫らな姿で無邪気に笑うギャップが、また欲を掻き立てる。



「うん……美味しいよ……」



 私が彼女の一部を口に含むと、彼女は私の頭をぎゅうっと抱いて、悦びの息を漏らした。




 今日が昨日に移り変わってゆく静かな時間の中、ようやく訪れた二人だけの世界を私たちは漂っていた。







 ***





【一方】





「ちょっ!ちょっと待って!!しのぶちゃんっ!!」



 そう言われてハッとして我に返る。



 私はえみりちゃんの両手をベッドに押さえつけ、はだけたシャツの隙間から溢れるえみりちゃんの左胸を、夢中で愛していた。



「わっ!!ごめんっ!!」



 覆いかぶさっていた体から慌てて降りる。



 どうなってる!?

 確かついさっきまでえみりちゃんがシャツのボタンを外しているのを見ていたはずなのに……。なぜかそこからの記憶がない……。



「しのぶちゃん……いきなり激しいよ……」



 えみりちゃんが開いたシャツを手で抑えながら困ったような顔をしている……。どうしよう……嫌われた……?



「ご、ごめんね……」



 怖くて顔が見れない。



「……しのぶちゃん、もしかして経験あるの……?」


「えっ!?そんなのないよ!!」


「嘘……上手すぎるもん……本当のこと言って!」


「ほ、本当にないって!!現実でこんなことしたことなんてないっ!!」



 私がそう言うと、えみりちゃんの疑った表情は、喜びと得意気が混じった表情へと変わった。



「……じゃあ……現実じゃないところではいっぱいしたってこと……?」


「…………それは……」


「……誰と?誰とそんなにしたの?」


「……それは……もちろん、えみりちゃんと……」


「……でも、他の人ともしたんでしょ?」


「してないよ!えみりちゃんとだけ!!」




 前のめりになって豪語すると、えみりちゃんは私に手を差し伸べながらまたベッドに仰向けになった。



 

 「しのぶちゃん……こっち来て……」



 大きなベッドの上を膝で歩いて少しづつえみりちゃんに近づく……



 目の前までいくと、えみりちゃんは両手を広げてその胸の中に私を抱きしめてくれた。酸素の薄い息苦しささえ気持ちいいと感じる。



「……ねぇ、しのぶちゃん、お願いがあるの……」


「なに?」



 ロックされたように体に回された腕の中から、恐る恐る聞き返した。



「……しのぶちゃんが妄想の中の私にしたこと、今から全部、現実の私にもして欲しい……」


「……そ……そんなことしたら、今度こそ私、本当に死んじゃうよ……!!」



 私が本気でそう言うと、えみりちゃんは吹き出すように笑った。



「大丈夫。そしたら私がまた生き返らせてあげる……」





 その言葉を最後に、私の意識はまたはるか彼方へと飛んでしまった……







***








「……あれ?……私、生きてる……?」



 意識を取り戻し、天井を見ながら思わず独り言を言うと、隣から大好きな可愛い笑い声がした。



「大丈夫、ちゃんと生きてるよ」


 

 横を向くと、体ごとこっちを向いて寝っ転がるえみりちゃんがいた。余韻の残るその顔を見ていると、だんだんと濃厚な記憶が蘇ってきた。



 あれは夢じゃない……?

 こんな可愛い子に私は、本当に現実であんなことをしたの……?

 思い出すだけで今からでもご臨終しそうになる……



「……幸せだった」



 えみりちゃんが私の手を握った。



「な、なにが……?」


「しのぶちゃんが……やっと私の体に触ってくれた……」



 私は恥ずかしくて何も言えず、掛け布団を目の下まで上げた。



「あっ!だめ!可愛い顔隠さないで!」



 すると、えみりちゃんは私に少し体重を乗せ、無理矢理掛け布団をめくって顔を出させ、やさしくキスをしてくれた。



「私たちがこんなことしてるなんて知ったら、マネージャーと千堂さん、びっくりするかな?……てゆうか、私のせいでもしかしてバレちゃったかな……?」



 えみりちゃんが、少しバツが悪そうに言った。



「どうかな……。でも確かに、昨日のえみりちゃんは珍しくけっこう表に出ちゃってたよね」


「そうだよね……しのぶちゃんに生意気なこと言ってたくせに本当にごめんね……。でも私、途中からもうバレちゃってもいいかなって思ってたのかもしれない……」


「えっ!?」


「バレちゃってもっていうより、バレたい……の方が近いかな」


「ど、どうして!?」


「だって、私がこんなにしのぶちゃんを好きな気持ち、誰かに聞いてほしくなるんだもん!」



 そんなことを言われて胸がぎゅっとなる。その時、



「っ痛いっ!」



 突然えみりちゃんが顔を歪めた。



「どうしたの?!」


「なんか今、足に硬いものが当たったの……なんだろ?」


「えっ!?」



 二人して起き上がり、掛け布団の中に手を入れて探った。すると、私の指先に棒のようなものが触れた。それを掴んだ時、その感触に私は忘れていたことを思い出した。



「これ!昨日のお店で店員さんが渡してくれたえみりちゃんの忘れものだ!ポケットに入れてたのがいつのまにか落ちちゃったんだ……ごめんね!!怪我してない?!」 



 私はそう言って、掛け布団の中から出したボールペンを、えみりちゃんに手渡した。



「うん、大丈夫!ありがとー!」



 えみりちゃんが可愛いリアクションで受け取る。



「……あれ?これ私のじゃないよ?」



 少し見ただけでそう判断し、えみりちゃんは私にボールペンを返した。



「えっ!うそ!?でもここに……」



 そんなはずはないと、ボールペンの側面を指さして見せる。



「……Aoyama……」



 えみりちゃんは紺のボールペンに刻まれた金色のローマ字を読み上げた。



「ね?」


「でも、Aoyamaの前にって書いてあるよ?……そっか!これ、伶・青山だよ!」



 えみりちゃんが謎を解いた探偵のように言った。



「……てことは、マネージャーの?!そっか!マネージャーもだってこと、つい忘れてた!」


「いつもマネージャーって呼んでるからね!私ですらけっこう忘れがちかも」


「あーあ、間違えて持ってきちゃったよ……マネージャー、ボールペン見当たらなくて困ってるかなぁ?……」



 すると、えみりちゃんは突然私の手から奪うようにボールペンを取って、照明の台の上に置いた。



「どうしたの?」


「しのぶちゃんがマネージャーのことをやらしい目で見てたこと思い出した」



 えみりちゃんがムスッとした顔で私を睨む。



「だから!それは誤解だって!!」


「今もすごい心配してたし……次のバイトの時に渡せばいいだけなのに……」


「それは!特別に大切なものだったら……って思っただけだよ!……私はいつもえみりちゃんしか見てないのに……」



 こんなに好きなのに疑われてばっかりで、私は少ししょげた気持ちを全面に出してしまった。



 すると、えみりちゃんはねだるようにコテッとベッドに横になり、指先で私の膝を掻くようにして触れてきた。



「……なら、私が安心出来るようにもっともっといっぱいして……?」



 

 頭の中で何かがパーンッ!とはじけた。





 だめだ……

 やっぱり可愛すぎて死にそうだ……




 えみりちゃんが私の彼女だなんて、やっぱりいまだに信じられない…… 

 信じられないけど、でも本当にえみりちゃんは私の彼女なんだ……


 


 あー!!

 誰かに言いたい!

 叫びたい!!

 誰かれ構わず宣言したい!!!

 



 あぁそっか……。

 えみりちゃんが言ってたのは、こうゆうことなんだ……。




 ただ純粋に相手が好きな気持ちを、男女のカップルみたいに普通に言えたなら、どんなに幸せだろう……


 

 今、身にみてえみりちゃんの気持ちが分かった。




 私はえみりちゃんの体にしがみつくようにきつく抱きついた。




「……しのぶちゃん?どうしたの?」


「……いつか、本当に言えたらいいな……私たちのこと……千堂さんとマネージャーに……」


「……そうだね」


「なんとなくだけど、あの二人なら理解してくれそうな気がする……」


「私もそう思うよ!もしいつか話せたら、しのぶちゃんがすっごいえっちだってことも自慢したいなー」


「そっ、それはやめてよ!!っていうか、それ自慢なの?!」


「自慢だよ?それだけ愛されてるってことだもん!」


「……えみりちゃん」


「うん?」


「……大好き」


「私も……大好きだよ……」






 私はもう一度重なって、世界一可愛い私の彼女にキスをした。





 いつの日か堂々と宣言したい言葉を、今は胸に閉じ込めて……。













   【青山さんは私の彼女です!】



             おわり。










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青山さんは私の彼女です! 榊 ダダ @sakaki-s

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